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高頻度スクワット導入と記録の変化

こんにちは、パワーリフターの神野です。
今回はコラム第二回という事で、前回に引き続き高頻度トレーニングについて書かせて頂こうと思います。

パワーリフティングのトレーニングをする上で、各種目をどれくらいの頻度でやるか、選手の皆さんは悩むところではないでしょうか。

ベンチプレスに関しては、ここ10年くらいでエブリベンチが急速に広まり、世界でも最強を争う日本人ベンチプレッサー達の多くが高頻度の練習を取り入れ結果を出す事でその効果が証明されています。

ではスクワットやデッドリフトはどうでしょう、前回の5×5の頁でも書いたように、日本ではスクワットやデッドリフトは週1回というのが基本とされており今でも主流ですが海外ではもう少し頻度の多いトレーニングプログラムが主流になっているようです。

今回は私自身がスクワットの頻度を週1回から週2回に、更に週3〜4回まで段階的に増やしてみた事でスクワットの記録がどう変化していったのかを書いてみようと思います。

まず、下のグラフは私のこの5年間に出場した大会での『体重』『スクワットの記録』『スクワットのフォーミュラ』の推移になります。

SQ推移

高頻度練習を取り入れる前の私のスクワットは2010年11月の大会で212.5kgを記録して以降2年以上全く伸びておらず深刻なプラトーに陥っていました、これを打開する為に取り入れたのが高頻度練習です。

【8×2(週1回)から5×5(週2回)へ】
(実施期間2012.10→2014.5までの1年半)

2012年10月から、それまで週1回だったスクワットとデッドリフトを5×5ルーティンの導入に伴いそれぞれ週2回に増やしました。
この時の練習内容は

スクワット5×5
デッドリフト5×5
(インターネットの5×5ルーティンジェネレーターで作成したメニュー、SQとDLは同じ日にSQ→DLの順で実施)
補助トレーニングとしてフロントスクワット、クリーン、チンニングを各3〜5セット。

以上のメニューで、スクワットとデッドリフトは同じ日に行っていました。

※結果
5×5導入以降それまで停滞していたスクワットの練習重量が徐々に伸びてきて、5レップのベストは190kgから202.5kgまで増加、普段行っている試合前の減量をせず一階級上げて出た大会ではありますがスクワットのベスト記録を212.5kg→220kgまで伸ばせました。

SQの公式記録
212.5kg(体重82.12kg、フォーミュラ142.7)

220kg(体重86.62kg、フォーミュラ143.3)

このように停滞していたスクワットの記録に変化が見られましたが、減量無しで出た試合や慣れない海外での試合があった事もあり練習重量の伸びをいまいち試合での記録に結びつける事ができませんでした。
しかしここで高頻度練習を経験し手応えを得た事と回復力や体力が向上した事で次のステップに進む準備が出来たのではないかと思います。

【5×5(週2回)から週3〜4回練習へ】
(実施期間2014.6→2015.5までの11ヶ月)

更に2014年6月より、スクワットを週3〜4回行う本格的な高頻度練習メニューを取り入れました。
この時の練習の内容は

スクワット
1セット目 メインセット 3レップ〜12レップ
2セット目 ノーベルト 6レップ〜12レップ
3セット目 ハイバーナローノーベルト 6レップ〜12レップ
(ウォーミングアップ及びダウンセットは記載省略)
以上の3セットを基本的に中1日で行うもので、練習重量は特に事前に決めたりサイクルを組んだりはせず毎回調子を見ながら決め、レップのベストを狙えそうな日は積極的にベストを狙うようにしていました。

※結果
この練習によってスクワットの重量に短期間で大幅な向上が見られました。
5レップのベストは202.5kg→217.5kgへ、それに伴って長年86kg〜87kgで安定していた体重も増えていき元々減量がキツかった83kg級から本格的に階級を上げる事になりましたが、増加した体重以上に記録が伸びた事でスクワットの絶対重量だけでなくフォーミュラにも向上が見られました。

SQの公式記録
220kg(体重86.62kg、フォーミュラ143.3)

237.5kg(体重91.1kg、フォーミュラ150.6)

この11ヶ月間の間はスクワットの強化期間と割り切り、デッドリフトの練習は試合前に数回やるだけで殆どやっていませんでしたが、意外な事にデッドリフトの記録にも7.5kg(255kg→262.5kg)の伸びが見られました、これはスクワットとデッドリフトの記録には相関関係があるという事だと思います。

【スクワットの高頻度メニューを取り入れて感じた事】

高頻度練習を取り入れた過程で私が感じたのは、スクワットはベンチプレス同様高頻度の練習にかなりの優位性があるのではないかという事です、導入後は体重の増加もありますが長期間停滞していたスクワットの記録を向上させる事ができました。
週3回以上のスクワットメニューを導入する際は回復が間に合うのか不安でしたが、2014年世界クラシックでご一緒させてもらった選手の方達からトップ選手のトレーニングについて貴重な話を聞かせていただき、日本人でもスクワットの強い選手の一部は普通にこれくらいの高頻度でやっているとわかりチャレンジしてみました。
自分は既に1年半の5×5ルーティンで週2回のトレーニングに慣れていた事もあり週3〜4回メニューにも最初からある程度順応できましたが、もし週1回からいきなり週3〜4回に移行していたら難しかったと思います。
しかし高頻度トレーニングにより記録は伸びましたがデメリットも沢山あると感じました、一番大きなデメリットとして身体の負担の増大があります、練習頻度を上げていくと筋肉は比較的早く慣れていきますが関節や腱を慣らすのには少なくとも1〜2年の時間が掛かるように感じました、怪我防止の為に何よりもフォームを第一に練習する事と、一気に頻度を上げるのではなく少しずつ時間をかけて身体を慣らしていく必要があると感じます。
他にも練習時間の増加が大きな問題です、私はホームトレーニーになる事でこの問題を解決出来ましたが、社会人の選手にはここが一番問題になるかもしれません。

デッドリフトに関しては、現在の練習環境では高頻度の練習を行うのが難しい為、検証をできていませんが、海外の選手にはデッドリフトをスクワット同様週3回以上やる選手もいるようです。しかしデッドリフトは体幹に疲労が残りやすい事もあり、高頻度でやるのはスクワットよりも難しいかもしれません。

【最後に】

日本人パワーリフターでも週に複数回の高強度スクワットを行っている選手は昔から一定割合存在し、昭和の名選手である因幡選手や前田都喜春先生もスクワットやデッドリフトを週に複数回行っていました。
また、最近ボディビル雑誌に掲載されたスクワットの強い事で有名なウェイトリフティング選手の練習メニューもかなりの高強度高頻度のものでした。
これらの事からパワーリフターの間でも高頻度スクワットに興味のある人は多いと思います。
高頻度スクワットに関しては「若くて素質のある選手にしかできない特殊なトレーニング」と見る向きもありますが、私自身が取り入れてみた限りそうでは無く、徐々に身体を慣らしていけば誰にでも可能な練習方法ではないかと感じました。
以前は特殊な素質を持つ選手のトレーニングと考えられていたエブリベンチプレスが最近はポピュラーな練習方法としてごく一般的に行われているように、スクワットやデッドリフトを高頻度で行なうトレーニングも今後は日本人パワーリフターの間で徐々に一般的なものになっていくのではないでしょうか。

■コラム執筆者

神野亮司

愛知県 MBC POWER所属 ( http://mbcpower.web.fc2.com/ )

ベスト記録(ノーギア)
93kg級
スクワット237.5kg
ベンチプレス160kg
デッドリフト262.5kg
トータル660kg
83kg級
スクワット212.5kg
ベンチプレス157.5kg
デッドリフト255kg
トータル612.5kg

実績
ジャパンクラシックパワー(旧ジャパンオープンパワー)出場9回、最高2位
2012年アジアクラシックパワー男子一般83kg級2位
2014年世界クラシックパワー男子一般83kg級11位

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