皆さんこんにちは!SBDコラムニストの鈴木佑輔です。
昨年は拙い文章ながら、たくさんの方々にコラムをお読みいただいて、ありがとうございました。
本年も文章力を少しずつ上達させられるように頑張りますので、宜しくお願い致します。
さて、2016年1回目のコラムですが、2015年12月13日~19日まで行ってきた、アジア・オセアニアクラシックベンチプレス選手権の回想記を綴っていきたいと思います。
国際大会がどのようなものであるのかをお伝えできたらと思いますのでお付き合いください。
【出発1週間前~前日】
だいたいどの試合でもそうですが、1週間前くらいから急激に体重が落ち始めてしまいますので、食事量をなるべく増やしてストレスに負けないように心がけます。
それに加えて今回は整体、酸素カプセルなどに通い、身体の不調を起こさないように努めてみました。
おかげで風邪をひくこともなく、無事出発の日を迎えられました。
(一昨年のオーストラリアは出発前日まで40度近くの熱が出て、毎日点滴を受けていました。。。)
・出発直前までに実行したトレーニング、メンテナンスの内容
・12/7(月)
トレーニング
フロアプレス210kg×10+ベンチプレス160kg×1(5秒止める)
ミリタリープレスなど
・12/8(火)
トレーニング
スクワット180kg×3 140kg×10
スクワット+バックプレス90kg×3
ベンチプレス~180kg×1(5秒止める)など
メンテナンス
酸素カプセル
・12/9(水)
トレーニング
フロアプレス230kg×3+ベンチプレス140kg×3(3秒止める)など
・12/10(木)・11(金)
トレーニング
ベンチプレス シャフト~60kg×3ひたすら繰り返し
メンテナンス
整体・酸素カプセル
・12/12(土)オフ
といった具合です。
お気づきかもしれませんが、この週のトレーニングではベンチプレスで高重量を扱っていません。
前回・前々回のフロアプレス・ボードベンチプレスのコラムでちらっと書いたのですが、今回の試合では実験的に高重量ベンチの練習を敢えて避けてみました。
ただし、フロア・ボードでは高重量を扱うことで重量の感覚だけは鈍らせないようにし、それに加えて長く止める練習を入れて安定感のある試技を目指した次第です。
【出発当日~試合まで】
今回のアジア・オセアニアクラシックベンチでは課題を4つに絞っていて、そのために練習・実験を繰り返し、成果を見る場が大会でした。
課題① クラス優勝
出場するからには優勝です。これは第一試技で決めるつもりで、ノミネーションを見ると190kg挙げれば間違いないと確信していました。
課題② ベストリフター
これも昨年獲りましたので、連続して獲らなければなりません。
Wilksポイント(補足:体重による係数を持ち記録に掛けると計算できます)で145行けば大丈夫だろうということで、検量73kg、200kgを仮定しました。
課題③ 世界記録(というより日本記録)
現世界記録が211kgですが、日本記録が212.5kgなので、第三試技で213kgをやりたかったのです。
課題④ 体調管理
基本中の基本ですが、大会前はどうしても高重量を扱うことや、特に国際試合ですと1週間空けてしまうので仕事を前倒しでやりますので結構体調不良や怪我が多くなってしまいます。
ですので、体力を温存しつつ重量を上向かせる方法として上記トレーニングがメインになりました。
・国際試合までの流れ
少し国際試合までの流れを説明します。
まず、ジャパンクラシックベンチプレスなどの予選会を経て選考され、協会から案内がきます。
それから日本選手団が決まり、自分のクラスのノミネーションや試合日程が発表され、具体的な旅程が組まれます。
その旅程と試合日程を見ながらいろいろと想定していきます。
【大会期間中】
1日目 12月13日(日)
今回は成田・関空・セントレアの3空港から別れて出発でしたが、自分は毎年セントレアから出国です。
ほかの空港出発組の選手とは韓国の仁川国際空港で合流となりました。
トランジットを経て、現地時間午後7時過ぎウズベキスタン、タシケント空港に到着しました。
空港内は暗く、あまり人もいなかったのですが、入国審査で結構時間を食いました。
ウズベキスタンの12月は寒く、昼間でも気温10度に届かない程度でしたが、到着した日はガイド曰くかなり寒いということでした。
ただ長野県よりは多少過ごしやすかったです。気温などももちろん考えて試合想定しなければなりません。
その点自分は違和感なくて幸いでした。
ホテル到着後、日本選手団でのミーティングですが、ここでウズベキスタン協会副会長のジャモール氏と打ち合わせをしていく中で、困った点が。
まずIDカード用写真がないので全員撮りなおししたいと。
これはメールで送ったはずだからと伝え、しっかり探してもらったらやはりありました。そして、試合日程変更です。
予定では14日午後~夜・女子全階級、男子53kg級、59kg級、15日・男子66kg級~+120kg級の発表だったのですが、14日女子全階級、男子53kg級~74kg級オープン、15日他階級となってしまい、自分の出場が1日早まりました。
国際試合ではよくあることなのですが、現地入りしてから情報が入ってくること、聞かなければ教えてくれないことが多いです。
可能性は覚悟の上だったので青天の霹靂というほどではなかったのですが、やはり長距離移動+睡眠不足の後は少し時間を置きたかったのも事実です。
ほかの国の選手も条件は同じですので文句は言わないですが、なるべく情報は早く欲しいところです。
その日は部屋もお風呂付でラッキーと思いきやシャワーが出なかったり、出るようになっても栓が大きすぎて湯が結局はれなかったりで、すったもんだしながら深夜1時過ぎ、床に就きました。
2日目 12月14日(月)
午前9時起床―9:30集合・ミーティング―10:30朝食(持参のカレー&ライス)-13:00開会式―15:30コスチュームチェック―16:00検量71.3㎏-16:40間食ライスのみ―17:20アップ開始20kg×10×2、70kg×10・3、110kg×1、120kg×5・1、150kg×3・1、170kg×1-18:00試合開始―19:00終了、表彰式―19:15ドーピングチェック―19:40終了
メモ帳に書いてあった通りに記してみました。
コスチュームチェックでは他国の選手は結構シングレットではじかれていました。
後日シングレットをトルクメニスタンの選手2人に貸しました。検量では予想通り体重が減っていました。
予定ではこの日にたくさん食い込む予定だったのでちょっと痛いですが仕方ありません。
そしてアップ場ですが、ほぼ日本ではありえませんがボロボロです。
バーはローレットが全部本当に削れていて限りなくツルツルだったり、ラック高さ調整用のピンがなくて超低空のラックアップを余儀なくされたり、床が謎の液体で滑りまくるなど。
それでもなんとかやっています。というより、他国の選手は気にしていません。
いかに普段恵まれた環境でやっているのかと、こんなところで感傷に浸ってしまいました。
アップに使用されている台はERでしたが、これもグラグラでしたので、国関係なく補助につきます。
プレートの付け替えや台のシェアなども国で占有することもなく、割と和やかな雰囲気で進みます。
そして、実際の試技に使用される台・シャフトともにELEIKOでしたが、どうやら旧式のELEIKO台のようで、ラックの刻みが1インチ(2.5cm)と広く、さらにシートが狭くて低い(へたりがある)など少し気を付けないといけないなということが前日の時点で分かっていました。
ちなみにこの台はカザフスタン協会からの借り物だということでした。
同じグループには66kg級オープン齋藤選手(北海道)、マスター1亀谷選手(山口)、ジュニア古川選手(岐阜)、74kg級マスター1川畑選手(富山)と、日本人選手が多くいらっしゃいましたので、試合進行が把握しやすかったですし、カザフスタンやイランの選手など、顔見知りもいましたので必要以上に気負うことなく試技に臨めました。
第1試技 190kg 白3本
これは間違いなく挙がる重量です。
自分の弱点として、試合のとき特に第一試技では力技になってしまうことが分かっていたので、ラックアップまでのリズム、受けた時の感覚、降ろしの目線や手首の返し、挙上の軌道修正など、細かいところまで認識するつもりで行いました。
特に、台が狭い場合に陥りやすいポイントなども再確認出来たのでひとまず安心しました。この時点でほぼ優勝確定。1つ目の課題クリアです。
第2試技 200kg 白3本
練習中に扱っていた重量としては最高重量でしたが、特に不安なく試技に向かいました。
ただ、反省点としてはもう少し「スタート」合図まで時間を掛けても良かったのかなと思います。
第一試技で確認したポイントにまたも嵌ってしまったので、上手く修正をかけながらゆっくり力を抜いて挙げていきました。周りから見たらギリギリじゃないかと言われたのですが、本人としては余裕のつもりでした。
検量71.3kgでしたので、Wilksポイント147超えをしたので2つ目の課題もクリアです。
第3試技 213kg 失敗
いよいよ世界記録にチャレンジです。この瞬間のために頑張ってきたのだと集中力を高め、周りの選手も皆応援してくれています。
プラットフォームに出る前から観客からの声援も聞こえ、興奮はマックスに!
そしてラックアップを決めたとき軽い!と思いましたがスタート合図からシャフトは決めた軌道からずれてしまい、敢え無く撃沈。
本当に最後の最後で詰めが甘く、あまりの不甲斐無さに悔し涙が…
失敗した瞬間にすでに敗因は分かっていましたので、それをどう改善していくかが今後の課題です。
3つ目の課題クリアならず。
試技を終えた後、様々な国の選手やコーチが握手や写真を一緒にと言ってくれて、あぁ、終わったんだなと実感しました。
表彰が終わった直後、アンチドーピングの方が待っていたのでこれも予想通りドーピングチェックです。
談笑しながら5分ほど待ち、無事に検査も終了しました。
この日のグループは全員終わったのでひとまずホテル内のレストランで打ち上げです。
が、チキンバーガーが出てくるのに1時間以上かかったり、出てきたバーガーが超冷たかったりはご愛敬。
2日間ホテルから一歩も出ることなく奔走していましたが、自分の試技が終わってやっと外の空気を吸いに行けました。
馬肉を使った料理
3日目 12月15日(火)
この日はクラシックベンチプレス最終日です。
終わった選手はすぐにセコンドに入るなど、非常にスムーズに事が進みます。
このあたりは海外経験組がサポートに回ってくれましたので、選手たちも試技に集中しやすかったと思います。
自分もほぼずっとアップ場におりましたが、特にオーストラリアの選手団の動きは素晴らしかったと思います。
逆にUAEなどは個人プレーが多かったですね。この辺もお国柄が出るのか、見ていて飽きなかったですね。
全員の試技が終わった後は、ホテルのレセプションでバスのチャーターやレストランの予約、通訳確保などで忙しかったですが、その分ウズベキスタンという国のルールや人柄などに触れる機会が多く、とても楽しんでいろいろとやらせて頂きました。
4日目~最終日 12月16日(水)~19日(土)
自分はサマルカンドツアーに行ったり買い物に行ったり、夜は他国の選手と飲み明かしたりと、日本ではなかなか出来ないことをしていました。
青の都 サマルカンド
特に他国選手との交流は本当に貴重な機会ですし、国際試合が無事に終わった後ならではですので、こういった機会を逸しないためにも、さらに語学力を磨いていきたいです。
国際試合に参加することが決まったら、最低限の英会話くらいは勉強しておくと大変ためになりますし、何倍も楽しめて充実したものになると思います!
さて、長々と書いてまいりましたが、最後の4つ目の課題。
体調管理ですが、幸いなことに12時間を超えるフライトや睡眠不足、時差ボケなどを考慮しても、身体的不調は出なかったですし、怪我の箇所も気にならずに試合に臨めました。
ただ、試験的に導入してみたフロア・ボードベンチプレスメインの練習はもう少し煮詰める必要があるようです。
方向性としては悪くないはずなので、またいろいろと研究していきます。研究結果をまたこのコラムにも載せられたら良いなと思います。
総括ですが、国際試合は国内とは全く違います。
予想外のことも起こり得ます。
日本人選手たちの少なくない方が今回は第1試技を落としていますので、本当に余裕をもったプランニングが必要に感じましたし、国際試合に慣れている選手との交流を深めていくことも重要だと思います。
すでに3月12日・13日にジャパンクラシックベンチプレス選手権が、2016年5月南アフリカでの世界クラシックベンチプレス選手権、12月台湾でのアジア・オセアニアクラシックベンチプレス選手権の選考会と決まっていますので、まずはきっちり結果を出せるように自分も頑張ります。
国際試合で悔しい思いをした分は、国際試合でしか取り返せません。今回の借りは次回必ず返せるように、さらなる研鑽を重ねていきます。
本当に一握りの選ばれた人しか行く機会のない国際試合、出る権利を幸運にも勝ち取れた方はぜひ参加しましょう!
ゲストリフターとして参加していたレイ・ウィリアムズと
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
写真提供:亀谷充男 殿
■コラムニストやコラム内容についてのメッセージは下記のアドレスまでお送りください。
コラム用メールアドレス: column@sbdapparel.jp
※どのコラム宛かを明記してください。
※お送りいただいたメールの内容は、コラムで取り上げられる事があります。
■コラム執筆者
鈴木佑輔
長野県パワーリフティング協会副理事長
所属 B.A.D.
http://www.bodyartdesign.net/
ジャパンクラシックベンチプレス選手権5連覇
2010年~2015年
2014年アジア・オセアニア選手権MVP
66㎏級ベンチプレス ベスト記録 190.5㎏
日本記録・アジア記録保持
74㎏級ベンチプレス ベスト記録 212㎏
アジア記録保持