読者の皆様こんにちは
そろそろ花粉症の季節となり、苦しんでいる方も多いのではないでしょうか?
先月のコラムで糖質制限ダイエットについて書きましたが、実は糖質制限ダイエットは花粉症などのアレルギー症状を改善するという研究結果もあるので、症状の酷い方はダイエットのついでに試してみても良いかと思います。
私も小さい時からアレルギー体質でこの季節は大嫌いだったのですが、春にパワー、夏にボディビルの試合があり、春までに体重を落とす目的で、正月明けから3月末までを糖質制限ダイエットで過ごした年は花粉症の症状が楽だったという経験があります。
勿論花粉の飛散量も毎年違うので本当に糖質制限のお陰だったかどうかは定かではありませんが、今年もちょうどジャパンクラッシックに向けて体重コントロールが必要ですし、仕事の都合が付けば春から夏にかけても何か1つぐらい大会に出場したいと思っていますので、花粉症対策がてら糖質制限を試みてみようと思います。
【ウエイトトレーニングを何歳から始めるべきなのか?】
さて今回はウエイトトレーニングの開始年齢についての話です。
皆さんは子供がウエイトトレーニングを行うことについてどのような印象をお持ちでしょうか?
体が硬くなるんじゃないの?
身長が止まるんじゃないの?
効果が無いんじゃないの?
色々な考えがあると思います。
これについては古いものから新しいものまで様々な研究結果が発表されていますが、最近では昔に比べてネガティブな意見よりもポジティブな意見の方が多く聞かれるようになってきました。
これは勿論、ウエイトトレーニング自体が広く世に知られるようになり、世間一般的な信頼度や理解度が増した事もあると思いますし、一方で様々なスポーツにおいてフィジカルの強さが競技能力に大きく影響するという事が認知され、アスリート育成の為にジュニア期から技術の習得と合わせて体格や筋力の獲得が必要であると認識され、効率良く選手を育てる為の研究が各団体でなされるようになったからだと思います。
今後はウエイトトレーニングに限らず、様々なトレーニングをジュニア世代から取り入れていく時代になると思われます。
その為には、各トレーニング分野での科学的な研究と、それを現場で実践するトレーニングコーチの存在が不可欠であると考えられます。
【現在社会人トップレベルの選手達の場合】
それでは今現在、各競技のトップレベルにある選手達はだいたい何歳ぐらいからウエイトトレーニングを始めてきたのでしょうか?
ここでは私が現在、コーチをしている15人制ラグビーを例に考えてみましょう。
先日ラグビーのトップリーグに所属する選手47名に対してウエイトトレーニングを何歳から開始したかというアンケートを取ってみたところ、平均で15.0歳という結果でした。
これが早いか遅いかは意見の分かれるところですが、少なくとも中学生の終わりから高校入学にかけて身体作りの必要性を感じて何らかのアクションを起こした選手が多いという事です。
ではこのウエイトトレーニング開始時に専門的な知識を持ったストレングスコーチ、或いはパーソナルトレーナー等の専門家から指導を受けたのか?という質問に対して、最初から専門家による指導を受けた選手は7人のみでした。
つまり残りの40人、全体の85.1%は、最初は我流でウエイトトレーニングを始めたという事です。
では専門家による指導が開始された年齢の平均は何時なのでしょうか?
今回の調査の結果では18.1歳という結果でした。
つまり多くの選手が高校3年生の終わり頃から大学入学時にかけて、はじめてウエイトトレーニングの専門家に出会うわけです。
私は先に述べたウエイトトレーニングに対する悪評や悪いイメージ、固定観念の原因がここに隠されているように思えます。
そして日本のスポーツ界の伸び白も、ここに隠されているように思うのです。
15.0歳からウエイトトレーニングを開始してから専門家に出会う18.1歳までの約3年間。
第二次成長期の後期に適切なウエイトトレーニングを行う事が出来れば、多くの日本人アスリートの身体能力は向上し、国際レベルに達するのではないかと思うのです。
【大学での指導経験から】
私は関東と関西の2つの大学で計8年間、複数競技のアスリートへの指導経験がありますが、多くのスポーツで共通するのは高校時代のウエイトトレーニング経験の乏しさでした。
高校時代に専門的な指導者によるウエイトトレーニング指導を受けているのは極々限られた一部の強豪校の出身者のみで、全国大会に複数回出場しているような有名校でもウエイトトレーニングは各自が練習後に補強として自主的に行うように指示されているだけで、選手達は見様見真似で好きな種目だけをやっている場合が殆どでした。
当然、大学に入って初めてウエイトトレーニングの基礎を教わる訳で、フォームの習得に時間がかかります。
中には怪我をしそうな危険なフォームで高校3年間自主的にやり続けてきた結果、大学入学時には既に筋肉の付き方や筋力のバランスが大きく偏ってしまっている場合も多く、またウエイトトレーニングによる怪我を既に経験して入学してきた事から、基本的な動作を習得する障害になってしまう場合もあります。
したがって、高校時代に専門的なストレングスコーチやパーソナルトレーナーから適切な指導を受けウエイトトレーニングをスタートさせる事が非常に重要であると思います。
【高校での指導経験から】
更に言えばこの15.0歳以前のスポーツへの取組み方にも大きな問題があります。
私は高校のラグビーチームへの指導も16年ほど続けていますが、中学時代に身体を鍛えるという意識を持ってトレーニングを行っていたという選手は殆どいません。
しかし皆、自体重を利用したスクワットや腕立て伏せ、ランジ等は経験している場合が多いのです。
それではどういう気持ちで彼らはスクワットをしたり腕立て伏せを行ったりしていたかというと、それは主にミスをしたり試合に負けたときの罰であったり、練習の最後にフラフラになっている時にチーム全体で士気を高めるメンタルトレーニングのような意識で「辛いこと」を決して正しいとは言えないフォームで只管反復している。
というより「やらされている」のです。
身体を鍛える為の基本動作を只管高回数反復運動させて精神をも鍛える。
私はこれ自体を完全に否定する訳ではありません。
当然、身体作りも強い精神力が無ければ成し得ない事ですし、例え理不尽であってもスポーツの局面には必要な場合もあります。
問題はその反復運動で怪我をしてしまったり、筋力を向上させる事が出来ないようなフォームや動作を教えてしまう事です。
身体を強くして更に精神力も強くなる。これはOKですが。
精神力や忍耐力は強くなったが身体は細ったり関節が痛んだりしてしまう。これは駄目です。
そして何よりウエイトトレーニング=辛いもの、やらされるもの。
このイメージを与えてしまうのが先の成長を妨げ、その選手の将来の伸び白を邪魔してしまうのです。
【偏見を植え付ける指導者】
更に指導者の中にはウエイトトレーニングで筋肉をつける事に対して明らかな偏見をお持ちの方も見受けられます。
勿論ウエイトトレーニングを嫌うのは個人の自由ですが、将来のある子供達に対して
「そんな筋肉は見せかけだ」
「そんな筋肉は意味が無い」
「筋肉つけてる暇があったら○○の練習をしろ」
っと罵る事は子供達の努力を馬鹿にする行為であり、嫌がらせと偏見の植え付け以外の何者でもありません。
私から言わせれば、自分の経験則でしか物の言えない偏った指導、若しくは筋肉質な身体に対するジェラシー、又は自分の専門外の分野に選手がのめり込み、コントロール出来ない事や、それで成果を出す事に対する苛立ちや僻みとしか思えません。
何故子供が6つに割れた腹筋やベンチプレス100kgがあがるようになったと嬉しそうに話してきた時に、素直に褒めてやれないのか?
「よくやったな!そのパワーがあればもっと強いタックルが出来るから教えてやるよ!」
「いいじゃないか!その立派な体幹があれば、こんなプレーも出来るぞ!」
なぜこう言えないのか?
不思議でなりません。
【日本人の持つ美意識】
私も柔道経験者ですのでよく分かりますが、日本には「柔よく豪を制する」「小よく大を制する」「○○は力じゃない」「力に頼るな」といった小さい者がテクニックで大きな者を倒すという考えが過剰に美化されて植え付けられているように思います。
ラグビーの現場でも「ラグビーは力じゃない!」「ラグビーはサイズじゃない!」といった言葉を、指導者やオールドファンの方々から聞かれるのですが、それは低いレベルの話であり、無限の可能性を秘めた将来ある子供達に言う言葉では有りません。
小さい人、非力な人を励ましたり慰めたりするのは良い事ですが、大きくなりたい、強くなりたい人の足を引っ張る必要は無いと思います。
体重100kgでスクワット250kgあげるパワーを持った人に、体重80kgでスクワット180kg程度の人が正面からぶつかったら間違い無く80kgの人は吹き飛ばされ、悪い場合は怪我をして退場するのです。
「正面から当たらなければ良い」それはその通りですが、ステップしてかわす・パスする・キックする等、様々な選択肢の中から「正面から当たる」という選択肢が一つ無いという時点でかなり不利なのです。
「大きな奴は動きが遅いだろう」という先入観を持っている人もいるかも知れませんが、先日のワールドカップを見ていただければ、そんな希望的観測が通用するレベルではない事ぐらいは分かるはずです。
【ウエイトトレーニングの開始時期と将来のパフォーマンス】
話しをアンケートに戻しますと。
今回の調査結果では、専門的なストレングスコーチ或いはパーソナルトレーナーに18歳までに指導されたグループと18歳以降に指導されたグループを主要4種目の数値で比較したところ、MAX数値の平均はスクワット14.5kg、ベンチプレス9.3kg、デッドリフト8.4kg、パワークリーン1.6kgと、全ての種目で18歳までに指導されたグループの方が高い数値を示しました。
また同じグループで垂直飛びの数値で比較してみても平均で3.6cm、やはり18歳までにウエイトトレーニングを指導されたグループの方が高く跳んでいました。
つまり適切なウエイトトレーニング指導を早く始めた方が将来的に筋力もパワーも優位に立てるのではないかという予測が出来ます。
またウエイトトレーニングの専門的な指導を受けるという事は、身体作りに必要なその他の知識も指導される事を意味します。
つまり栄養・睡眠・身体のケアなどアスリートとして必要な生活習慣を学ぶ事で、競技を行ううえで必要な知識を早期に得て、質の高い競技練習を行い、傷害の予防にも繋がる可能性が高いのです。
【まとめ】
これらの結果から、ウエイトトレーニングを中学・高校時代から開始する事は将来のパフォーマンスに好影響を与える可能性が高いと考えられます。
ただし、どんなトレーニングでも同じですが最初のやり方が間違っていると、逆に将来の伸び白を失ってしまう恐れもあります。
所謂「変な癖」がついて直らないパターンや、怪我をしてウエイトトレーニング自体に制限が必要になってしまうパターンです。
そうならない為にもジュニア指導の現場に専門的なストレングスコーチやパーソナルトレーナー等を配置する事が重要です。
ジュニア期の指導では競技の技術のみならず、選手のモラルや人格面の指導にも重きが置かれるため、個人能力を強化するウエイトトレーニングの導入には苦労する場面が多く、どうしても横並びの指導になり個々人の能力や成長段階にあった効果的なプログラムを行う事が難しいのも事実です。
また競技指導者の多くは各年代別カテゴリーで、結果を残す事を求められる為、どうしても身体作りよりも技術・戦術を優先させてしまい、将来に向けた身体作りに目が行かないという事もあるでしょう。
だからこそ身体作りに特化した専門的な指導者からのサポートが必要だと思います。
しかし現在の日本ではトップリーグや一部の強豪大学にはプロフェッショナルなトレーニング指導者の雇用の場がありますが、高校や中学では殆ど無いためジュニア指導を専門に行うトレーニング指導者が非常に少ないという問題があります。
マスメディア等を中心とした世間の注目度はトップレベルのアスリートの活躍やトレーニング等に注目が集まるもので、ストレングスコーチやパーソナルトレーナーもトップアスリートを教えたがる人が多いのですが、本当に注目されるべきは次の世代を担う人材の育成であり、一番優秀な指導者はジュニアを教えるべきだと私は考えています。
私もプロとして社会人・大学・高校と教えてきましたが、週末にボランティアで小学生を教えている時間が一番大変です。
トレーニング指導者も雇う側も、今後はもっとジュニアの指導に力を注ぎ、若い世代を取り巻く環境から古い固定観念を取り除き、世界と戦える人材を育成する。
そんな世の中になって欲しいと切に願います。
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■コラム執筆者
佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 241kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg
戦跡
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝
ボディビルディング
2000~2001年 関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年 全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年 日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年 関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝