読者の皆様、いつも御覧頂き有難う御座います。
晩春と言うよりは初夏と言った方がピンとくる日差しの強い毎日ですが、皆様トレーニングや各スポーツに取り組んでおられると思います。
この時期というのは大人も子供もまだまだ水分補給に対する意識が低い場合が多く、暑さ慣れしていない事もあり、軽い運動でも熱中症になってしまう場合があります。
夏本番に向けて、水分補給に対する意識付けも十分に教育していかなければなりませんので、指導者、管理・監督者は水分補給やそれに伴う普段からの準備を競技練習以上に何度も繰り返し指導するようにしましょう。
さて、我々トレーニング指導者にとって、この時期は新人選手にトレーニングだけではなく栄養に関する教育をする事が多いのですが、それに伴い、サプリメントの利用方法や注意点についても話をしています。
その中で学生時代に、どのようなサプリメントをどのような意図で摂取してきたかを質問するのですが、年々摂取しているサプリメントの種類が多くなって来ているように思います。
また、選手からのサプリメントに関する質問の内容も年々マニアックになってきているように思います。
昔に比べるとインターネットを含む各メディアで身体作りや、それに伴う栄養摂取について、沢山の情報を得る事が出来るようになって来ています。
勿論それ自体はとても良い事なのですが、中には基礎となる食事からの栄養摂取はいい加減なままで、サプリメントだけに頼ろうとするような偏った選手や、或いは星の数ほどあるサプリメントを調べ過ぎて、どんどんマニアックになりドーピングの危険性も含めて、コントロールが効かなくなってしまっている選手も見受けられます。
私もサプリメントは好きな方です。ボディビルを始めた頃は上記の選手と同じような状態に陥っていたのかも知れません。
そんな私の経験談も含めて、今回はサプリメントの利用方法について私見を述べたいと思います。
【サプリメントの普及とアスリートへの影響】
私が学生だった15~6年前は、まだまだ国産のサプリメントと言えば大手メーカー数社が独占しているような状態で、私のような学生ボディビルダーにとって国内メーカーのサプリメントは価格も高く、仕送りやアルバイト代だけではなかなか必要量を購入するのは大変でした。
それは他競技の選手達も同じで、特にプロテインパウダーのへヴィーユーザーである陸上競技の投擲ブロックやラグビー部、柔道部やアメリカンフットボール部の選手達と、各スポーツの雑誌に載っている、海外サプリメントの輸入代理店などの広告を持ち寄り「どこが一番安いか?」「何キロ同時に購入すると送料が一番得になるか?」「このメーカーは安全か?」など色々と情報を持ち寄り、研究を重ねる日々でした。
その頃に比べると今は日本国内にも大小様々なサプリメントメーカーが沢山出来ており、海外から輸入する送料や代行手数料などを考慮すると、海外製を買うよりも国産の安いものを買う方がお買い得な場合もあります。
海外製のデメリットは何といってもドーピングの問題だと思います。
勿論海外の選手が全部ドーピングで引っかかっているわけではなく、各国の検査機関やWADAの公認を得ている商品は問題ありませんが、それでも海外製のサプリメントを使用してドーピング検査で陽性反応が出てしまったという話も各競技で多数報告されており、使用には慎重になるべきだと言わざるを得ません。
今後心配されるのは、ここ数年で乱立した国内の中小サプリメント業者の製品から禁止薬物が検出される事があると、一気に国内メーカーの安全神話も崩れる事になってしまいます。
ベーシックサプリメントであるプロテインやアミノ酸等は然程問題ではないと思いますが、トレーニングや試合前にパフォーマンスや集中力を向上させる等の効果をうたった商品で、中小メーカーが大手メーカーでは出せないようなスレスレの商品を出してくるようになると危険度は増してくると考えられます。
そう考えると、やはりサプリメントはあくまで補助食品である、という基本に立ち返って、簡単に競技能力を向上させるという、甘い誘惑に乗らない心構えを、アスリートを教育する立場の人間が教えていく事が大切だと思います。
【サプリメントから入る栄養知識の良い面と悪い面】
サプリメントは言うまでもなく栄養補助食品です。この補助という意味を忘れてはなりません。
人間はサプリメント無しでも生きられます。しかし食事無しでは生きられません。
本来であれば必要な栄養素は食事から全て賄える事がベストなのですが、アスリートの場合は競技力を向上させたり、怪我を予防するための身体を作るのに十分な栄養素を食事だけで賄うのが難しいと思われるので、仕方なくサプリメントを活用する。この手順で物事を考えるべきです。
しかし残念ながら一度サプリメントで簡単に栄養を摂る事を覚えてしまうと、必要な栄養素をどうやって食事から摂取しようか?という食品や調理方法を自分で調べたり考えたりする事を怠ってしまい、結果、アスリートとして必要な栄養に対する知識が得られず、自己管理能力が育たないという悪循環に陥る場合があります。
サプリメントがあるからと言って食事をいい加減にする事の無いように注意が必要です。
以前ラグビーのトップリーグに所属する選手47名に「一番最初に誰から栄養に関する指導を受けましたか?」という質問をしたところ約11%の選手が「サプリメント業者の営業の方から」と答えました。
これらは大手国内サプリメントメーカーの営業マン、若しくは所属栄養士の方が、高校ラグビーの名門校や合宿地などをまわって営業活動の一環としてプロテインの試飲会などと合わせて行っている栄養講習会の事で、この講習会を機に知識を得て栄養摂取に興味を持つようになる選手も多いので、普及活動としては一定の評価が出来るのですが、とは言えこの講習会の目的はサプリメントを買ってもらう事ですので、最後に楽しい試飲会と注文用紙に記入させて終わってしまうと、せっかく講習会の前半で基礎的な栄養の話をしてくれているのに高校生達の心には「結構美味しいじゃん!このプロテインを飲めばいいんだ」しか残っておらず栄養教育の場としては不完全です。
チームに栄養士やS&Cコーチのいないチームが、このようなサプリメントメーカーの栄養講習会を利用する場合は、丸投げしてしまうのではなくチームとして選手をどう教育していきたいのか?を事前に営業マンや講師と打ち合わせしておく事をお勧めします。
そして選手に対しても、「サプリメントの講習会」として受講させるのではなく「サプリメント摂取を切っ掛け、或いは題材とした栄養摂取の為の講習会」であると事前に説明しておくと良いでしょう。
私も高校・大学・社会人と各カテゴリーでコーチをしていく中で、国内主要メーカーは全てと言って良いほど、この栄養講習会を受けてきましたが、事前に打ち合わせする事で非常に有意義な講習会にする事が出来ました。
こちらのニーズに合った講習会となった時の方が結果的に選手達もサプリメントを購入するようになる事が多く、メーカー側にも喜んでいただけました。
繰り返しになりますが、一番悪いのは無責任に丸投げして、後で文句を言う事です。
指導者として恥ずかしい事ですのでやめましょう。
【必要なサプリメントを見極める】
普通に考えてサプリメントが必要になってくるのは中学生の後期か高校入学の頃だと思います、それは各スポーツで身体作りのためのトレーニングが開始され、練習の中でも筋肉や関節周辺の組織などの消耗が激しくなってくると共に、骨格筋の成長が加速する時期だからです。
勿論、身体の成長には個人差がありますし種目間にも差はあります。
普通のスポーツをしていない人はサプリメントなど必要ありません。
また家庭で出される食事の内容によってもサプリメントなど必要のない中高生もいるでしょう。
ですから個人差を見極めて指導出来るS&Cコーチがこのジュニア世代には必要なのです。
しかしS&Cコーチや栄養の専門家から教育を受ける事の出来ない環境であるとすれば、最低限の事は学校やクラブの顧問として普段接している先生方、又は親が教えてあげなければなりません。
そして当然ですが、その導入はサプリメントからではなく食事から栄養を摂るという基本を教えてあげるべきでしょう。
そのうえで自分の課題や競技特性に求められる栄養素を理解して、食事だけでは不足するならばサプリメントと言う選択肢を教えてあげましょう。
では、本当に必要なサプリメントとはどの程度のものなのでしょうか?前述した様に個人の課題や各競技特性によって変わるものですが、身体作りという観点から言えば年代別に大まかに分ける事は出来ます。
まず小学生以下は必要ありません。
むしろ家庭や学校教育の食事指導で好き嫌いなく、食事から色んな栄養素を取り込む事の出来るように教育する事が先決でしょう。
ただし、最近はアレルギー体質の子供も多いので注意が必要です。
異常があれば早めに専門医の指示を仰ぐ必要があります。
小学生の親御さんからよく受ける質問で「背が伸びるサプリメントを飲ませた方が良いか?」という話があるのですが、バランスの良い食事を与えてあげれば十分ですし、それよりも早く寝かして十分な睡眠をとらせてあげた方が効果的でしょう。
中学生になると、発育の早い子は既に大人のような体格になる場合もありますし、競技によっては大人と試合が出来るようなパフォーマンスを発揮している場合もあるでしょうが、それでもまだまだ発達途中の身体ですし、栄養教育も十分ではないでしょう。
サプリメントを与えるよりも自分で週に1度はお弁当や朝食を用意させる等して、栄養素を何からどうやって摂取するかを教育するべきです。
ただし格闘技やコンタクト系球技等、どうしても筋肉が発達していないと競技練習や試合を行う事が危険であるような競技は他のスポーツよりも早めにサプリメントの活用を始めた方が良い場合もあります。
しかしその場合もプロテインパウダーを寝る前に飲む程度で問題無いはずです。
高校生になると多くのスポーツでフィジカルトレーニングが開始され競技練習の強度も高くなってくると思います。
身体作りの為だけでなく、日々のコンディション作りやリカバリーの為にも栄養摂取は重要になってきます。
また試合に向けた食事調整も学び実践しておくと良いでしょう。
サプリメントは基本的にはプロテインのみで良いでしょう。
筋肉量が増えるにしたがって必要な蛋白質量も増えていくので、そろそろ食事だけで蛋白質の必要量を得るのが難しくなりますし、無理に食事で蛋白質を摂ろうとし過ぎて余計な脂肪を沢山摂取してしまう事もあるので、プロテインパウダーを練習後と寝る前ぐらいに活用して、その他は出来るだけ食事で栄養を摂るように心がけましょう。
さて一番問題の大学生です。
特に親元を離れて一人暮らしになった場合、中学・高校時代にしっかりとした栄養教育を受けていない選手は、食生活が乱れてパフォーマンスの向上を邪魔してしまうというケースを沢山見てきました。
自宅生の場合もアルバイトをして小遣いを稼ぐようになったりして、家でご飯を食べるよりも学食や学生街の定食などで済ませてしまう事が増え、結果バランスの悪い食生活で競技力向上に悪影響を及ぼす場合があります。
そのうえ、自由な時間がある分、情報だけは色々と入ってくるので、安易にサプリメントでカバーしようとしてしまいます。
こうなってしまうと、その場は凌げても、後々の伸びしろは徐々に失われて才能のある選手が大学を卒業する頃になると普通の選手になってしまっているというパターンも良くある話です。
また、サプリメントにハマってしまいアレもコレもとなってしまうパターンもドーピングの危険がありますので、サプリメントは最低限の種類、プロテインとアミノ酸ぐらいに留めておきましょう。
親元を離れていて自炊する時間も無く、どうしてもビタミン不足になるのであればマルチビタミンが必要になってくる場合もありますが、出来る限り自炊して自分に必要な栄養素は自分の力で摂ると意識させましょう。
大学になるとチームにS&Cコーチや栄養士が付いている場合もあるので必ず相談するようにしましょう。
社会人になると競技によっては第一線でプレー出来るのはあと数年であるような競技も現実的にはあるでしょう。またフィジカル的には伸び悩む時期もあると思います。
ここまで来て初めて、クレアチンやトレーニングパフォーマンスを高めるようなもの、持久力を高めるような効果のあるもの、或いは集中力を高めるようなものやダイエット効果があるもの等の使用をS&Cコーチや栄養士の指導のもと摂取していけば良いと思います。
当然ここまで現役生活を続けているアスリートであれば通常の食事内容がいい加減では無いという前提の話です。
【まとめ】
悲しい事に自己管理能力が身につかないまま社会人としてトップレベルの競技会に参加している選手も沢山います。
それはそのスポーツのレベルがまだまだ持って生まれた才能だけで一流になれるレベルだという事だと思います。
しかし才能のある選手がジュニア期から正しい栄養に関する教育を受け、自分で管理が出来るように育っていれば、もっとレベルの高いフィジカルの下地を作ることが出来、その素晴らしいパフォーマンスは更に高いレベルに成長するはずだったのではないか考えられます。
サプリメントを利用する事は良い事です。栄養摂取に興味を持つ切っ掛けとなるのは素晴らしい。ただし、早期にサプリメントに頼ろうとする選手は総じて頭打ちが早いです。
パフォーマンスを向上させるのは日々のトレーニングと食事からの栄養摂取、そして休養です。サプリメントはそれらの足りない部分を補うだけです。無しで勝てるのなら無しでも良い。
自分の努力以外でパフォーマンスが向上出来るという考えは選手に教えるべきではない。その行きつく先はドーピングしかないからです。
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■コラム執筆者
佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 241kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg
戦跡
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝
ボディビルディング
2000~2001年 関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年 全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年 日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年 関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝