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団体競技における練習強度・負荷のコントロール

読者の皆様、いつもご覧いただき有難う御座います。

お陰様でこのSBDコラムを書き始めて1年が経ちました。

なにぶん素人の雑文故、読み難い事も多々あったかと思いますが、皆様のご支援に助けられ、なんとか1年間書き続けることが出来ました。

今後も少しでもお役に立てる情報を発信すべく、頑張っていきたいと思いますので、宜しくお願いいたします。

【計画を立ててトレーニングの量や強度をコントロールする】

さて今回はどちらかと言えば団体スポーツの指導者向けのお話です。

各スポーツの指導者は、チームに対してトレーニング指導を行う場合、必ず計画を立てると思います。

それは負荷やボリュームをコントロールして怪我を防ぎながらも、効率的に戦術・技術・体力を向上させ、目標とする試合に向けてベストなコンディションを作る為の計画でしょう。

例えばターゲットとする大会、又は試合が4週間先にあるとします。

最初の1週間は戦術的な練習は、サインや動きを落とし込み、理解させる程度に留め、その戦術を実行するために必要な個人スキルの練習を繰り返すでしょう。

一方フィジカル面のトレーニングでは最初の週はウエイトトレーニングのボリュームを増やし全身を鍛えます。

2週目は戦術的な練習でもスピードを上げて、競技によっては激しいコンタクトを伴いながら精度を高めていくでしょう。

技術練習もスピードを上げて、より実践に近い形で強度を上げて行うでしょう。

ウエイトトレーニングは下半身のボリュームを少し減らし、その分ランニングなどの走るトレーニングやアジリティ・クイックネス、スピードトレーニングなどに時間を割くでしょう。

3週目は戦術的な練習はより実践的にスピードを上げてコンタクトも激しく行いますが、練習量はやや減らして行うでしょう。技術練習も同じく強度は上げるがボリュームは少し減らして行うでしょう。

ウエイトトレーニングも少しボリュームを下げて、オリンピックリフティングやプライオメトリックトレーニングに時間を割くでしょう。

また、サーキット系のものを組み込み、実践に近いような疲労度を身体に与えようと試みるでしょう。

ランニングトレーニングもより実践に近い形で行い、スピードトレーニングは、強度は高いがボリュームの少ないものになるでしょう。

4週目は戦術的な練習は実践的なスピードで行うのは2日間ぐらいで、1日は試合と似た強度とボリュームで、休息日を挟んでもう1日は、試合以上のスピードで行い、ボリュームやコンタクト強度は低くなるように工夫し、残りの日は動きの再確認や修正などに充てるでしょう。技術的な練習は個人練習レベルで行うでしょう。

ウエイトトレーニングはボリュームを必要最小限に留め、オリンピックリフティングやプライオメトリックの中で怪我のリスクの低い種目を選択して行うでしょう。

また競技動作に近い筋肉の動きの中でパワーを発揮するような種目を取り入れながら、より競技に近い全身の連動を求めるでしょう。

スピードトレーニングも負荷の少ないドリルと短い距離で加速し競争するようなものを少ないボリュームで行うに留めるでしょう。

これはほんの一例ですが、たった4週間のプログラムでも試合でどのようなパフォーマンスを発揮させたいか?どのようなプレーが重要なのか?どういった動きとパワーを強化すべきか?それによってどのような技術を発揮し、どのような戦術で勝ちたいのか?

これらを考えながら勝利に向けたストーリーを作ります。

【難しい個人練習の把握とコントロール】

このようにターゲットとする試合にピークを合わせるために練習の量と強度をコントロールして調整していく場合、チーム全体で行う練習はコントロールし易いのですが、選手によっては個人練習で課題を克服したり、試合に向けた調整や、場合によってはメンタル面の不安要素を除去していくような選手も中にはいるでしょう。

しかしそういった個人練習のボリュームや強度を完全にコントロールする事は難しく、時にチームとして設定した疲労と回復のコントロールに当てはまらない選手が出てくることがあると思います。

勿論、経験や実績のあるベテラン選手などは多少チームのプログラムから外れた調整をしても、自分自身で帳尻を合わせ試合にベストなパフォーマンスを発揮する事が出来る場合もあるでしょう。

しかし、多くの選手はそうではない場合が多く、選手が完全にフレッシュになっているだろうと、監督やコーチが思っている日に疲労が残っていたり、極限まで追い込もうと思っている日に追い込めないような状態であったりします。

その結果、オーバーワークに陥って怪我をしてしまったり、大事な試合でパフォーマンスを発揮出来なくなる事があります。

こうならない為にも、監督・コーチは出来る限り、選手達をコントロールしようとするのですが、監督・コーチも住み込みの全寮制のチーム以外は24時間選手の動きを管理することなど出来ませんので、必ずチームの意図とは違った動きをする選手が出てきます。

競技の性質上、個人練習を自由にさせる競技もあるでしょう。練習は多ければ多いほど良いという考えのスキルコーチもいるでしょう。しかしその中でも我々S&Cコーチは選手1人1人のコンディションを把握し、その選手にとって必要なものかどうか?やり過ぎていないか?不足していないか?を確認するべきだと思います。

勿論選手の自主性を尊重し、信頼関係を持って対応するのは言うまでもありませんが、自主性を尊重する事とほったらかしにする事は全然意味が違います。干渉を嫌う選手に対してもプロとしての意見やアドバイスを出来る状態を保たねばなりません。

【練習計画を選手に理解させる事が必要】

もしもあなたが船乗りだとして、地図を持たずに航海に出たとすれば、練習計画を説明されていない選手達と同じような行動を海の上でとってしまうのではないでしょうか?

練習計画は選手たちにとっては航海図と同じです。この練習には何の意味があるのか?この練習を行う事により自分達は何処に向かい何を得るのか?ストーリーを説明し理解させなければなりません。

そのうえで、個人の課題や怪我の状態等を考慮し、チームプログラムから大きく逸脱しない範囲で必要に応じてエキストラを与えるのが望ましいでしょう。

また、練習計画は短期的なものだけではなく、長期的な計画も選手に説明しておく必要があります。

選手はその場その場の課題や、試合や練習での「出来た・出来なかった。良かった・良くなかった」に一喜一憂し自分で個人練習を行う場合があるからです。

例えばチームとして数カ月かけて身体を大きくしたいと思ってトレーニングや栄養面をコントロールしているとします。しかしある選手は体脂肪率が僅かに増えた事を気にして出された食事を全部食べずに残して、練習が終わってから居残ってランニングを1時間やってから帰るようになった。またある選手は、練習試合で身体が重く感じて同じように食事量を減らしてランニングを個人的に行うようになった。このような事例が少なからずあります。

勿論選手が自分で考えて個人練習を行う事は良い事です。与えられた練習しかしない選手よりもよっぽど優秀かも知れません。

しかし、その練習がチームとして進むべき道筋から逸れてしまわないようにコーチは内容を把握して、良い方向に導いてあげなければなりません。

チームとして最終的にはこうなって欲しい。だから今はこれにフォーカスして、何時何時までにクリアして、次のステップに進みたい。

このように道筋をしっかり説明してあげると良いと思います。

また、選手だけではなく指導者側も練習計画に対して意思統一をはかっておく必要があります。

例えばチームとしての練習計画で、春の練習試合では多少走力が落ちるのは理解したうえで、春から夏まで大幅なサイズアップを計画し、秋のリーグではサイズを生かした戦い方をしようという計画があるとします。

トレーニングの内容もランニング中心ではなく動きの少ない基礎スキルとウエイトトレーニングに重点を置き栄養摂取も体重が増えるように設定しているとします。そして練習試合では走力が落ちていたとします。勿論これは練習計画では想定の範囲内です。

しかし土日しかコーチングしていないOBのボランティアコーチが練習試合で走れなかった事に怒り、試合後にランニングトレーニングを1時間追加でさせてしまった。

このような事例もあります。こういう事をやってしまうと、選手達も練習計画やコーチングの方向性に疑問を抱くようになり、納得いかないまま練習するようになってしまいます。

航海図の例えに戻ると、航海図自体の正確性に疑問を持つようになった時点で航海図は意味を無くします。

選手からの信頼を損ねる事の無いように指導者側もしっかり筋の通った一貫性のあるコーチングを行わなければなりません。

【GPSの利用、その効果と数字では測り切れないもの】

最近では選手の運動量やランニング強度の詳細を把握するためにGPSを用いて管理するという方法が一般的になっています。

チームによって使い方は様々ですが、総走行距離・速いスピードでのランニング量とその割合・加速減速の回数・加速してからの継続時間やその立ち上がりの速さ・トップスピードなどなど、それとハートレイトモニターとを連動させて心拍数も測定し、練習の総負荷をコントロールしたり、練習内容を評価したりします。

GPS測定器の精度は製品によって様々なようですが、私が現在使用しているメーカーのものでは、ある程度信頼出来るデータが得られています。

S&Cコーチという立場からすれば、スキルコーチとメディカルとの間に立って互いの意見や情報を元に、チーム力を向上させつつも怪我を起こさせないように練習量をコントロールするのに非常に役立ちます。

また、練習の強度が試合で求められる運動強度の何%にあたるのか?各ドリルの身体的負荷は?など練習内容をフィジカル面から解析してコーチに伝え改善すべき部分があれば一緒に考えるなど有効活用する事が出来ています。

更に選手にフィードバックするうえでも、映像と合わせて練習中に何が出来ていて何が出来ていないのか?その原因は?身体的な能力にあるのか?それとも意識出来ていないだけなのか?など数字から導き出せる事実を元に、選手と一緒に考え、解決策を考える事が出来ます。

その一方で、以前は「今日は走行距離のターゲットが6kmなのに、5.5kmしか走ってないじゃないか!練習後に100mスプリントを5本追加しなきゃいけないんじゃないのか?」などとコーチと言い合いになったりもしていましたが、これは今考えると数字に振りまわされ過ぎだと思います。

また、ある選手には「トップスピードが○○m/s出ていない!HighSpeed%が○○%以下だ!」っと、もっと練習中にハードワークするように求めましたが、映像を見てみるとその選手は高速で移動はしていないものの、ボールキャリーや近場のディフェンスを誰よりも頑張っていてワークレートは非常に高いものでした。

このように数字だけでは判断できないプレーやパフォーマンスもあります。

練習量をモニターし疲労をコントロールするにも、アスリートの身体にかかる負荷は何も外に出て練習している時間だけではありません。

ジムの中でウエイトトレーニングをしている時も身体には大きな負荷がかかっていますし、もっと言えばGPSを付けていない日常生活の中にもコンディションにかかわる要素はたくさんあります。

ですので当然、ウエイトトレーニングの強度も数字を追いながら管理していく必要がありますし、睡眠時間や食事、水分補給などなど競技練習以外の要素、或いは選手が感じている主観的な運動強度や疲労度もアンケートを取るなどして総合的に調査していく必要があります。

GPSで得られるデータは非常に有効で、チームに様々な情報を与えてくれますが、それだけに頼り切ってしまうのではなく、様々な方向から見る努力をしなければなりません。

【ウエイトトレーニングのコントロール】

先に述べたようにGPSを付けていない練習の中で、最も選手の身体的負荷にかかわる活動がウエイトトレーニングだと思います。

ウエイトトレーニングの負荷は一見容易にコントロール出来るように思えます。

ウエイトトレーニングはジムの中でプログラムを与え、コーチの目の行き届く範囲で行う事が出来る場合が多いからです。

セット数や時間を管理すればトレーニングのボリュームはコントロール出来るでしょう。しかし選手が設定重量をしっかり把握しトレーニングの目的も理解していなければトレーニングの内容もコーチの意図するものとは違ったものになってしまいます。

また適切なテクニックを修得出来ていない場合、トレーニング自体が不完全なものや効果の低いものになってしまう可能性もあるでしょう。

またウエイトトレーニングも選手が個人練習を行い過ぎてオーバーワークに陥ってしまったり、偏ったものになってしまったりしがちです。

中にはウエイトトレーニングが精神安定剤の代わりになっているような選手もいる事でしょう。

これらは全て、選手とコーチのコミュニケーション不足が原因だと思いますので、目的を理解させ、進むべき道を正してあげましょう。

またコーチの作成するプログラムが選手の目的や身の丈に合っているのかどうかも考えなければなりません。

プログラムは選手の経験やテクニックの修得状況を把握したうえで作成・修正を繰り返すべきです。

コーチが新しく見聞きした新しい情報や道具、流行り廃りに流されたり、自分の趣向に偏り過ぎたプログラムに固執して、選手の目的に合っていない、又は安全に行う事の出来ないプログラムにならないように注意が必要です。

理想は選手に与える前に一定期間、自分で行ってみるのが望ましいでしょう。

モルモット役は選手ではなくコーチ自身が自分で行うべきです。

【コンタクト強度のコントロール】

GPSで走行距離やランニング強度も把握した。しかしその動いている中でどれだけの強度で身体の接触や地面に倒れたり倒されたりする事が起きているかは人工衛星から送られてくる情報では把握しきれません。

GPS測定器の種類によっては内蔵されている加速度計や震度を測る機能で、コリジョンの回数を判定したり、強度を測る機能がついていたり、或いは強度を推定する試みがなされていますが、私が使用している範囲では現状では精度が高いとは言い難い状況です。

今後改善されるかも知れませんが、やはり接触のあるスポーツで身体にかかる衝撃をコントロールするには練習の中で(申し合わせ)を行うしかないと思います。

ラグビーを例にとると練習の中で身体を本気でぶつけない様にお互い注意し、身体に両手でタッチされたらタックルが成功したとみなす。これをコンタクト強度の低い練習(通称タッチ)とします。

次にディフェンス側はタックルの代わりにヒットシールドというクッションを使い直接の接触を避けるようにディフェンスするような練習を行います。

これもコンタクトの強度は低いものとなります。

更に身体は当てるけれども無理にレッグドライブはしない、タックルも腰より下には入らず押し込まないと申し合わせて練習を行います(通称ショルダーオン)。

これが中程度の強度となります。

そして最後に、試合と同じ条件で行うフルコンタクト(通称フル)の練習です。

これは当然高強度の練習となります。

他にもスクラムの練習でも、マシン⇒対人や1on1⇒3on3⇒5on5⇒8on8などなど、様々なシチュエーションで強度のコントロールがされています。

余談ですが、私は長くラグビーのS&Cコーチをしているのですが、4年間ほどアメリカンフットボールのS&Cコーチをしていた時期がありました。

勿論アメリカンフットボールでも同様にコンタクト強度のコントロールは行われるのですが、コンタクト強度を普段より少し下げて行う中程度のコンタクト強度の日に全員が大声で「今日はハイタックルな‼」と叫んで認識を合わせているのを聞いて私は驚きました。

何故ならラグビーではハイタックル(肩より高い位置へのタックル)は重大なペナルティが課せられる大きな反則行為であり、場合によっては脳や頸部に大きなダメージを与える危険なプレーだからです。

しかしアメリカンフットボールでは(そのチームだけかも知れませんが)逆に低い位置にタックルに入って怪我をさせないために、つまりロータックル禁止。

という意味で選手たちは「ハイタックル」という言葉を使っていました。

また、アメリカンフットボールではチームの攻撃の要となるQB(クォーターバック)というポジションの選手をプロテクトするために他の選手とは違う色のユニフォームを着させ、ディフェンスの選手達にもQBへのタックルを禁止してタッチするだけの練習を行う事もありました。野球でいう投手と同じような感覚でしょうか。

このようにしてコンタクト系球技では様々な形でコンタクト強度のコントロールをしながら選手を壊さないように練習計画が進められていきます。

【まとめ】

計画の無い練習は問題外ですが、計画通り練習を行うためにも可能な限り、その競技に必要な練習・トレーニングの中で強度・負荷をコントロールする工夫をしなければなりません。

経験豊富なコーチや天才的なコーチは目分量で練習をコントロールするかも知れませんが、後で必ずその強度やボリュームが計画に沿ったものであったかどうか、振り返り、検証するべきです。

プレーヤー数の多い競技では全ての選手を完璧にコントロールする事は難しく、状態を把握するためにはS&Cとメディカルだけでなく全てのスタッフで協力して、様々な方法で対応しなければなりません。

それと同時に、チームの戦略や方針、練習計画の意図を選手に理解させ、チームが同じ方向に向かって進んで行く事が出来るようにリードしなくてはなりません。

そのうえで、選手に必要な情報を課題と共に与え、その選手自身がどうなりたいのか?そしてチームはその選手に何を求めているのか?をすり合わせていく為に科学的な見地からアドバイスし、スキルコーチとも密にコミュニケーションを取り、選手を牽引する実行力を持つS&Cコーチが必要です。

自分で考えられない選手を育てるのではなく、自分で考えられるようになるための情報を沢山与え体験させながら教育し続けていく事が重要だと思います。

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■コラム執筆者

佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 241kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg

戦跡
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝

ボディビルディング
2000~2001年  関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年     全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年     日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年     関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝

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