読者の皆様、いつもご覧頂き有難う御座います。
昼と夜の温度差が激しい日が続きますが、体調を崩さぬよう頑張ってまいりましょう。
さて今回は競技スポーツ選手が遠征先でコンディションを崩さぬようにどのような準備をしているかという話をしたいと思います。
私自身ボディビルディングやパワーリフティング競技を行っていた時も、朝早く起きて長距離を自分で運転して試合会場に行ったり、もっと若い時は夜行バスで移動したり、今考えればベストなパフォーマンスを発揮するどころか、怪我をしてもおかしくないような状態で試合に出ていたなと思います。
勿論私の場合は、階級制の個人競技だったのでコンディションを整える事以上に体重を規定内に留め、計量をパスする事に神経をすり減らしていたので、実際に疲労を抜くとか栄養を摂るとかいう事は二の次になっていたようにも思います。
今回はトップレベルのラグビーチームが遠征に行く際、どれだけの準備をして、ホテルでどのような過ごし方をしてコンディションを整えているかを例に、皆さんに参考にしていただければと思います。
【移動手段とリカバリー】
まずはラグビーの場合、試合前の最後のチーム練習の事を「キャプテンラン」と呼びます。
練習の内容は戦術やサインの最終確認で文字通りキャプテン又はその試合のゲームキャプテンを務める選手がリードしながら行います。
チームのレベルにもよりますが、このキャプテンランは疲労が残らない程度の強度で30分から40分程度行われます。
通常はこのキャプテンランを試合前日の午前中に行い、お昼から試合会場付近のホテルへ移動します。
移動手段は車で2~3時間の場所までならばバスで移動。
それ以上かかる場合は新幹線や飛行機を使います。
バスの場合、移動中は靴を脱がせ、コンプレッションソックスやウエアを着用して長時間座っている事で下肢に浮腫みを起こさせないように工夫をします。
途中のサービスエリアでストレッチを行い、水分もこまめに摂取させますが、カフェインの入った飲料は飲ませないようにします。
カフェインの利尿作用による脱水を防ぐためです。
身体の大きな選手が多いのでバスは1人で2席使えるように余裕をもって手配します。
ホテルに到着し、チェックインを済ませると、全員で近くの公園や広場までウォーキングを行い、ストレッチも行います。
特に下肢や腰背部は時間をかけてストレッチし、座りっぱなしで固まった筋肉を解します。
基本的にはリラックスした雰囲気で行うのですが、時にはボールを使ったハンドリングゲームやサインの確認などをウォークスルー(歩く程度のスピードで敵を付けずに)で行う事もあります。
【セルフケアとトレーナーによるケア】
散歩とストレッチが終わるとホテルに戻り夕食を摂ります。
食事に関しては後で纏めて書くとして、ここでは食後のケアについて先に書きます。
まずホテルに到着するとチームに常駐するトレーナーが治療用の部屋を作ります。
治療部屋にはベッドと様々な治療器具が準備されます。
筋肉や硬くなった組織を柔らかくするための電気治療器、超音波治療器、温熱治療器などを使ったり、トレーナーによるマッサージや鍼灸治療も行われます。
治療部屋の手前のスペースや廊下には治療を受ける前に選手自身が自分でケアする事が出来るような道具も用意されています。
ストレッチ用のバンドやストレッチポール、ストレッチボード、セルフマッサージ用のフォームローラーやボール等々、
選手達がリラックスしながらセルフケア出来る環境を整えます。
この治療部屋は予約制で夜の22時まで入れ代わり立ち代わり選手がケアを受けに来ます。
そして翌朝からはテーピングルームに早変わりします。
【食事】
夕食は通常17時頃から18時半までに済ませます。
ちょうどウォーキングから帰ってくると夕食の時間なのでそのまま食事会場に行く選手が多いです。
夕食の内容は基本的にバランスのとれたものを準備していて、炭水化物も米、麺類、パン、イモ類など色んな種類を準備していますし、蛋白質も牛肉、鶏肉、豚肉、魚、卵、乳製品、大豆食品とバリエーションを持たせます。
油で揚げたものや、こってりした脂っこいもの、生クリームなどで胃もたれするものは避け、生ものは厳禁、ニンニクが沢山入っているものや香辛料がきついもの等、ホテルのレストランが良かれと思って準備しているものも、少しでも選手が体調を崩すリスクがあるものは事前に排除してもらいます。
ナイトスナック
夕食から朝食までの時間が長すぎるのでナイトスナックを用意します。
オニギリやサンドイッチ、チキン、ゆで卵、無塩のミックスナッツなど、ホテルによっては食事会場から持ち出したり、部屋に持ち込むことが衛生上許可されない事もあります。
そういう場合はチームでおにぎりやサンドイッチ、スモークチキンやビーフジャーキー、ミックスナッツ、ドライフルーツ、フルーツジュース、プロテインバー等を用意する事もあります。
食事会場を出る時は部屋での水分補給用に経口補水液を配ります。
朝食
基本的にホテルのビュッフェスタイルの朝食を選択します。
夕食に引き続き油モノや香辛料のきついもの、生ものは出さないようにお願いします。
胃腸への負担も考え、朝食をガッツリ食べるというよりは適度にお腹に入れて、数時間後にプレマッチミールも軽く食べるというように小刻みに良いものを食べるのが望ましいでしょう。
試合が午前中の場合は朝食がプレマッチミールになる事もあります。
プレマッチミール
試合のキックオフから遡り4時間前から3時間前にチームで部屋を貸し切り、プレマッチミールを食べたりコーヒーを飲みながら寛ぐスペースを用意します。
用意するのはサラダ、温野菜、チキン、スクランブルエッグ、無塩のミックスナッツ、蕎麦、オニギリ、全粒粉パン、パスタ、パンケーキ、シリアル、オートミール、バナナ、オレンジ等です。
選手によってある程度ルーティーンがあるので、色々な食材を選べるように準備をします。
4時間前に来るメンバーはだいたいチキンやスクランブルエッグ、蕎麦とオニギリ等を食べています。
3時間前に来るメンバーはパンケーキやオートミール、フルーツ類を食べています。
【ウォーミングアップ】
通常、試合会場にはキックオフの70分~80分前に着くようにバスの時間を調整します。
勿論ホテルからの距離や渋滞状況、試合会場のロッカールームの広さ、現地でテーピングを巻く人数なども事前に調査して微調整をします。
ロッカールームでも試合前の時間に栄養補給が出来るように、経口補水液、経口補水液のゼリー、BCAAパウダー、糖質タブレット等を用意します。
ウォーミングアップまでの時間に各自でセルフケアが出来るように前記したセルフケア道具もロッカールームに用意しておきます。
【まとめ】
選手を一度フィールドに送り出してしまってからは、試合の勝ち負けは選手達の頑張りに委ねるしかありません。
我々に出来る事は、選手達が如何にベストなパフォーマンスを発揮できるかしっかり準備してあげる事です。
また経験のあるベテラン選手になると食事内容や試合前の過ごし方については自分自身のルーティンを持っています。
それは若い頃から教育を受けながら試行錯誤を繰り返し、身体に染みついてくるものです。
しかし残念ながら正しい教育をされて来なかった選手は、そのルーティン自体が理に適っていない場合もあります。
そうならない為にも若い選手達にはある程度、教育的な意味合いも込めて試合や合宿の時には正しい食事やケアの方法を学ばせます。
トレーナーにケアを受ける前に、まずは自分で出来るところはケアする癖を付けさせ、食事も自分で何を食べれば調子が良いのか学ばせます。
出来る事は全てやって自信満々で試合に臨む事が出来るように準備の大切さを教えます。
最後に、試合や遠征で選手がベストなパフォーマンスを発揮しようと頑張っているのに、選手が何を食べてホテルでどう過ごしているかも確認せず、さっさと私服に着替えて夜の街へ繰り出すコーチやスタッフは、どれだけ試合会場で選手の前で偉そうな事を言っても説得力が無いという事に気付かねばなりません。
選手は必ずコーチの行動を見ています。
学生スポーツなど教育的立場にある指導者や引率者ならば尚更でしょう。
勿論必要なコミュニケーションや付き合いもあるでしょうが、選手と同じ気持ちで戦っていると言うためには選手同様のプロフェッショナルな行動が求められるはずです。
選手に規律ある行動を求めるなら、コーチングスタッフが手本を見せるべきだと思います。
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■コラム執筆者
佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 241kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg
戦跡
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝
ボディビルディング
2000~2001年 関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年 全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年 日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年 関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝