パワーリフティングというと厳ついマッチョ男性のイメージがあるかもしれませんが、海外では意外なほど女子選手の比率が高く、特に欧米のパワーリフティング大会では参加者の3割〜4割程度は女子選手というのが普通になっています。
今年10月にアメリカで開催された世界最大規模のパワーリフティング大会である全米ノーギア選手権でも、女子選手には男子選手と同様の厳しい標準記録が設定されていましたが、1000人を超える参加者の約4割は女子選手でした。
この事からも海外ではパワーリフティングが男性だけでなく女性にも参加しやすい競技として広く受け入れられているというのがわかります。
しかし日本はと言うと、残念ながら現在パワーリフティングに於ける女子選手の割合はかなり低く、競技者全体の1割程度といった人数に留まっており、ちょっと寂しい状況です。
世界的にはパワーリフティング競技人口の増加に伴って女性パワーリフターの数も年々に増えており、次々と新しいスター選手が生まれ盛り上がりを増しています。
今回のコラムでは女子パワーリフティングに焦点を当てて、最近のトピックや注目選手、注目階級等を書いていこうと思います、興味のある方は是非ご一読してみて下さい!
【女子パワーリフティング最強の座を争うロシアとアメリカ】
アメリカ代表女子チームの面々
現在の女子パワーリフティング最強国の座は、長年王座に君臨してきたロシアと、ここ数年で急激にレベルアップしているアメリカの間で争われています。
ロシアチームは1993年の世界大会でアメリカチームを破って以降、20年以上の長きにわたり女子パワーリフティングのトップを走ってきました、しかし近年アメリカのパワーリフティングが急成長、ノーギア世界大会では2015年にロシアから団体戦王座を奪取し翌2016年と2年連続で団体優勝、そして今年遂にロシアの牙城であったフルギア世界大会でも1992年以来の団体優勝を遂げました。
これにより二十数年続いたロシア最強時代が終わりを告げ、女子パワーリフティングはアメリカを中心とした時代になりつつあります。
しかしロシアも王座を奪われてこのまま黙っているとは思えません、来年はロシアが王座を奪い返すのか、それともアメリカがライバルを引き離し一強の時代を作るのか、はたまた他に王座を奪う国が現れるのか、今後も勢力図は急速に変わっていくものと考えられます。
女子パワーリフティングではアメリカとロシア以外にも、ノーギアではスウェーデンやカナダ、フルギアではウクライナや台湾といった国が特に強豪であり、これらの国々の選手達が毎年世界大会で鎬を削りあっています。
【パワーリフティング&ベンチプレス世界ランキング1位の数学教師】
《ジェニファー・トンプソン選手》
1973年生まれ、アメリカ
ノーギアのベスト記録
63kg級
スクワット147.5kg
ベンチプレス142kg
デッドリフト202.5kg
トータル486kg
現在ノーギア部門に出場する全ての女子パワーリフターの頂点に立っているのがアメリカのトンプソン選手です。
今年の世界クラシックパワーリフティング選手権でMVPを獲得し、ウィルクス・スコア(フォーミュラ)による年間世界ランキングでもパワーリフティングとベンチプレスの両方で1位につけています。
特にトンプソン選手の代名詞となっているのが142kgという驚きの記録を持つベンチプレス、ストロークの長いフォームから体重の2倍をゆうに超える重量を挙上し世界最強の女子ベンチプレッサーと称されています。
そんなトンプソン選手ですが、普段の職業は高校の数学教師であり、二人の子供の母親でもあります。
パワーリフティングの世界では、トンプソン選手のように仕事や家庭と競技を両立させチャンピオンとなっている選手が数多く存在します。
【パワーリフティングとウェイトリフティング、二足の草鞋を履く軽量級最強の女子選手】
《チェン・ウェイリン選手》
1982年生まれ、台湾
ノーギアのベスト記録
47kg級
スクワット152.5kg
ベンチプレス80kg
デッドリフト175kg
トータル407.5kg
パワーリフティング女子軽量級で歴代最強の選手とも言われるのがこのチェン選手。
彼女の特筆すべき点は、ジュニア時代からウェイトリフティングとパワーリフティングの両方で活躍しているという所です。
ウェイトリフティング引退後にパワーリフティングに転向し活躍する選手は昔から多く、パワーリフティングのジュニアチャンピオンからウェイトリフティングに転向して五輪に出場した選手というのも海外にはいますが、両方並行して行いどちらの世界大会でも同時に活躍しているのはチェン選手くらいではないでしょうか。
それも残した成績はどちらも超一流、パワーリフティングではフルギアで7回ノーギアで2回の世界大会優勝を誇り若くしてIPF殿堂入り、ウェイトリフティングでは北京五輪で銅メダルを獲得しています(これについて、最近チェン選手より上位だった中国とトルコの2選手がドーピング検体再検査で失格した為、チェン選手は金メダルに繰り上がるそうです)
2011年にウェイトリフティングを一度引退しパワーリフティングに専念していましたが、昨年ウェイトリフティングに復帰し今年のリオ五輪に出場、この大会で7位となったのを最後に再びウェイトリフティングを引退したようです。
得意種目はスクワット、ノーギアで体重の3倍以上、フルギアでは体重の4倍を超える重量を挙上し他の選手の追随を許しません。
【72kg級三つ巴の戦い】
最近俄然盛り上がっているのが女子ノーギア72kg級、ウォルフォード選手・カステラン選手・ワイセンベルグ選手という三人の強豪による三つ巴の戦いが繰り広げられています。
来年の世界クラシックパワーリフティング選手権でも白熱した優勝争いが繰り広げられる事は間違いないでしょう。
ノーギアパワーの看板選手でありこの5年間負け知らずのウォルフォード選手が世界大会6連覇を達成するのか、カステラン選手がフルギア王者の意地を見せるのか、新鋭ワイセンベルグ選手が番狂わせを起こすのか、私も勝負の行方を特に楽しみにしている階級です。
《キンバリー・ウォルフォード選手》
1978年生まれ、アメリカ
ノーギアのベスト記録
72kg級
スクワット186kg
ベンチプレス115kg
デッドリフト242.5kg
トータル540kg
SBDエリートでもお馴染み、世界大会5連覇のパワー界の女王。
強烈な強さのデッドリフトを武器にこれまでほぼ敵無し状況でしたが、ライバルのカステラン選手やワイセンベルグ選手が力を伸ばしており来年の世界大会は油断出来ません。
《アナ・カステラン選手》
1985年生まれ、ブラジル
ノーギアのベスト記録
72kg級
スクワット200kg
ベンチプレス122.5kg
デッドリフト202.5kg
トータル517.5kg
2016年フルギア72kg級&ノーギア84kg級世界チャンピオン、ワールドゲームズの優勝経験もある女子フルギア72kg級最強の選手。
三人の中で唯一のママさんリフターでもあります。
ちなみに彼女、2015年1月に交通事故で瀕死の重傷を負い暫く集中治療室に入っていたのですが、同年9月には大会に復帰していました、やはり世界のトップ選手はどこか身体のつくりが違うのかもしれません。
《イザベラ・フォン・ワイセンベルグ選手》
1989年生まれ、スウェーデン
ノーギアのベスト記録
72kg級
スクワット188kg
ベンチプレス97.5kg
デッドリフト200kg
トータル485.5kg
女子72kg級でウォルフォード選手やカステラン選手のライバルとして急成長しているスウェーデンのホープ。
普段の女性らしい表情と試合や練習時の激しく荒々しい表情の対比がとても印象的な選手で、そのルックスの良さもあり最近特に注目を集めています。
【史上初の女子選手によるノーギアスクワット300kgへ、二人のヘビー級選手】
男子ではレイ・ウィリアムズ選手が史上初のノーギア1000ポンド(453.6kg)スクワットを達成した事を前回のコラムで書かせて頂きましたが、女子選手にも過去に誰も到達していないノーギアスクワット300kgという数字に迫ってい二人の選手がいます。
スーパーヘビー級世界チャンピオン ラフ選手と、高校生ながらラフ選手に続く実力を持つヒューイット選手、二人とも若く才能溢れる選手ですので、近い将来女子選手によるノーギアスクワット300kgというパワーリフティング史上初の大記録の達成が見られるかもしれません。
《ボニカ・ラフ選手》
1989年生まれ、アメリカ
ノーギアのベスト記録
84kg超級
スクワット272.5kg
ベンチプレス151kg
デッドリフト237.5kg
トータル652.5kg
今年のノーギアとフルギア世界大会84kg超級で優勝し現在絶対重量で世界最強の女子パワーリフター、ノーギアスクワットのベスト記録は272.5kgと男子選手も真っ青の重量です。
《リーアン・ヒューイット選手》
1999年生まれ、アメリカ
ノーギアのベスト記録
84kg超級
スクワット262.5kg
ベンチプレス120kg
デッドリフト238kg
トータル615.5kg
女子スーパーヘビー級でラフ選手に続く世界ランキング2位なのが、なんとまだ17歳のヒューイット選手。
ラフ選手より一回り大きな非常に恵まれた体格をしており、身長体重は男子の巨漢選手並、ポテンシャルの高さは計り知れません。
【終わりに】
冒頭でも書いたように、欧米と比べて日本国内のパワーリフティング人口は男子に偏重気味ですが、これはウェイトトレーニングをする女性自体がまだ少ない事も大きいと思います。
しかし近年は本格的なウェイトトレーニングを競技の為としてだけでなく美容や健康の為に取り入れる女性も増えてきており、国内の女性トレーニーも徐々に増えてきていると感じます。
今回、そんな女性トレーニーの方々の中から一人でもパワーリフティングに興味を持ってくれる人が出てきてくれればと、このコラムを書かせて頂きました。
パワーリフティングの大会は女性も大歓迎です、世界を目指すもよし、日頃のトレーニングの成果を試すもよし、トレーニング仲間を増やすもよし、目的は人それぞれでいいと思います。
地方大会は初心者も多く和やかな雰囲気でやってますので過度に気張る必要もありません。
是非一度パワーリフティング大会へ気軽に参加してみて下さい。
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コラム用メールアドレス: column@sbdapparel.jp
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■コラム執筆者
神野亮司
愛知県 MBC POWER所属 ( http://mbcpower.web.fc2.com/ )
ベスト記録(ノーギア)
・93kg級
スクワット245kg
ベンチプレス165kg
デッドリフト267.5kg
トータル662.5kg
・83kg級
スクワット212.5kg
ベンチプレス157.5kg
デッドリフト255kg
トータル612.5kg
実績
ジャパンクラシックパワー(旧ジャパンオープンパワー)出場10回、最高2位
2012年アジアクラシックパワー男子一般83kg級2位
2014年世界クラシックパワー男子一般83kg級11位