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ノルウェーのパワーリフター向けトレーニングプログラム

海外のパワーリフターはどんな練習をしているのか、これは多くの選手が気になるところではないでしょうか。

以前5×5ルーティンのコラムでも書いたように、日本では伝統的に8回2セット週1回という、古いアメリカ式のボディビルに由来するトレーニング方法が長く主流となっていました。

しかし近年インターネットの発達等で海外の選手達のトレーニングが簡単に調べられるようになってくると、8×2の輸入元であったアメリカの選手ですら現在そういった練習を殆ど行っていない事がわかってきました。

では海外の選手はどういったトレーニングプログラムで練習しているのか、今回はノルウェーのパワーリフティング協会がパワーリフター向けに配布しているプログラムについて見てみようと思います。

【ノルウェーのパワーリフティング】

北欧はパワーリフティングが伝統的に強く、ノルウェーも世界でアメリカやロシアやウクライナのようなトップグループに続く第二グループの一員といった位置につけています。

2014年のフルギア世界大会でベストリフターを獲得したノルウェーのクリステンセン選手はパワーリフターならご存知の方も多いのではないでしょうか。

Worlds strongest squatter, Carl Yngvar Christensen!! Photo: @halvmetern

A photo posted by Norges Styrkeløftforbund (@norwaypowerlifting) on

(ちなみにクリステンセン選手は膝の怪我により既に引退しており、現在ノルウェーチームのコーチに就任しているそうです。)

【パワーリフター向けトレーニングプログラム】

このノルウェーパワーリフティング協会のHP上にはパワーリフター向けのトレーニングプログラムが掲載されており、これはエクセルファイルに目標重量を入力すればトレーニングメニューを自動生成してくれる便利なもので、誰でも利用出来るようになっています。

http://styrkeloft.no/treningsprogram/

今回、このページの一番上にある「初心者向けのプログラム(Treningsprogram for nybegynnere)」について調べてみました。

【使い方】

全12週間のトレーニングプログラムになります。

ノルウェー語の内容ですのでそのままではよくわからないと思います、各用語を以下のように置き換えて使って下さい。

表計算ソフトに詳しい方は、文字列の置換機能を使えば一括で置き換える事が出来るので簡単です。

※用語の和訳

Styrkeløftknebøy med utstyr →(フルギアスクワット)

Styrkeløftknebøy uten utstyr →(ノーギアスクワット)

Knebøy nakke →(ハイバースクワット)

Knebøy med stopp smalt/bredt stand →(ハイバーストップSQ ナロー/ワイドスタンス)

Benkpress med drakt →(フルギアベンチプレス)

Benkpress * uten benkpressdrakt →(ノーギアベンチプレス)

Benkpress middels bredt →(ミディアムグリップベンチプレス)

Benkpress smalt grep →(ナローグリップベンチプレス)

Frontpress / Nakkepress →(フロントプレス / バックプレス)

Markløft →(デッドリフト)

Markløft fra kloss →(膝下からのトップサイドデッドリフト)

Stifflegmarkløft →(スティッフレッグドデッドリフト)

Magen → (腹筋)

Rygghev m.vekt      → (加重バックエクステンション)

Frontpress med     vektstang → (バーベルフロントプレス)

Lattrowing stang → (ベントオーバーロウ)

Lårcurl → (レッグカール)

Triceps    → (トライセプス)

Biceps → (バイセプス)

Nakkepress med    vektstang → (バーベルバックプレス)

Lattrowing stang    eller maskin            → (ベントオーバーロウ又はマシン)

Push ups eller Dips → (プッシュアップ又はディップス)

uke → (週)

Mandag → (月曜日)

Onsdag → (水曜日)

Fredag → (金曜日)

また、同じページにある「Veiledning」というファイルでこのトレーニングプログラムの使用手順や各種目の説明、ノーギア用のセッティングについて解説されています、機械翻訳でも大体の意味は読み取れると思いますのでプログラムを使用する際はこちらもあわせて読んでみて下さい。

【プログラムの内容について】

※練習頻度

練習は月水金の週3回、3回の練習ではほぼ毎回三種目全てのトレーニングを行っています。

ベンチプレスはともかく、スクワットやデッドリフトを週3回行うのは日本の感覚ではかなりの高頻度と言えるでしょう。

しかし三種目とも週3回同じフォームでやるわけでは無く、例えばベンチプレスであれば3回の内2回はミディアムグリップやナローグリップのような強化フォームでの練習となっており、試合用のフォームでの練習は基本的に週1回です。

このような高頻度タイプのトレーニングには、ひたすら同じフォームでやり続けるタイプと、補助種目や強化フォームでの練習を数多く取り入れて色々な刺激を与えるタイプがあり、国内では前者が多く海外では後者が多いと感じます。

たとえばベンチプレスであれば、エブリベンチを導入している日本の選手の場合パワーリフティングフォームのベンチプレスを毎回行っている選手が多いと思いますが、海外の選手はフォームに変化をつけて行う事が多いようです。

※トレーニング強度、頻度、レップ数

プログラムが進むにつれて、一般的なサイクルトレーニングのように徐々に強度が上がっていきます。

レップ数についてプログラム序盤は4〜5レップといった多少ハイレップな設定がされおり、中盤以降は1〜2レップのような低レップ練習が増えていきます、この点は前半にボリューム練習による準備期間を経て後半のピーキング期間に入るロシアンルーティンのようなプログラムと共通しています。

また、パワーリフティング用のトレーニングプログラムは後半のピーキング期間に入ると総ボリュームやセット数を減らしていくものが多いですが、ノルウェーのプログラムは後半もセット数は減らさずに最後まで多セットの練習が継続する内容になっています。

トレーニングの頻度やセット数の多さだけを見ると極めて強度の高いハードなプログラムに感じます、初心者向けプログラムとなっていますがもしこの量の練習を毎回限界に近い高強度で初心者にやらせてしまえば回復はとても追いつかないでしょう。

その為か重量設定について初期設定の数値がかなり軽めなものとなっています、これは余裕のある重量で高頻度・ハイボリュームなトレーニングを行い筋力を伸ばす事を目的としたものだと考えられます。

デッドリフトは9週目に、スクワットは10週目に、ベンチプレスは11週目に最も重い日が設けられており、大会前の12週目は回復に当てられています。

※補助種目

BIG3だけでなく補助種目の量も多くなっています。

低レップのメイン種目だけではあまり筋肥大を期待出来ないと考えられますので、その分ボディビル的な補助種目もしっかりと行う事で筋量の増加を狙うのでしょう。

※上級者向けプログラム

尚、ページの上から2番目のファイルは「上級者向けプログラム(Treningsprogram for viderekomne)」となっています、こちらも週3回全12週間のトレーニングであり、各種目の頻度は初心者向けと変わりませんが、ボリュームや強度が更に増したものとなっております。

興味ある方はご覧になってみて下さい。

【中強度での低レップ・高頻度が海外の主流?】

前述のように最近はネット等で海外のトップ選手のトレーニングについて簡単に調べられるようになりましたが、スクワット・ベンチプレス・デッドリフトのメイン種目について、欧米では一部の選手を除けば2〜5レップくらいの低レップを中心とし比較的高頻度でのトレーニングをしている事が多いようです。

どうもパワーリフティングのトレーニングは『低レップ・高頻度』というのが現在世界的に主流になっているようで、それもギリギリの重量でやるのではなく、余裕のある重量でスピードやフォームを重視しながら沢山のボリュームをこなしているようです。

ノルウェーのプログラムもやはりその系統と言えるのではないでしょうか。

少なくともBIG3のトレーニングでは、ボディビルスタイルのトレーニングのように週1回ハイレップで追い込み、毎セット最後の1レップまで力を出しきって筋肉に効かせる、そういう練習方法はあまり行われていないように感じます。

【転換期にある日本のパワーリフティングトレーニング】

日本のパワーリフターのトレーニング理論は、海外の情報に触れる機会の少ないベテラン選手を中心に、今でもボディビルスタイルの考え方を根幹に持つ人が多いと感じます。

つまり「少ないセットや各種目週1回のトレーニングでも強度が高ければ筋肉を成長させ記録を伸ばしていける」という考え方です、それは勿論間違いでは無いのでしょうが、パワーリフティングで勝つ為には少し時代遅れになっているのかもしれません。

少ないセットで追い込むのではなく挙上スピードやフォームを重視し、低レップ・高頻度・ハイボリュームといった内容で筋力を上げていく、海外のパワーリフターの間ではこういったトレーニング方法は既に主流と言えるものとなっているように見えます。

そして日本でも最近は積極的に海外から情報を取り入れて新しい理論を実践している若い選手の活躍が目立ってきました。

私がパワーリフティングを始めた十数年前と現在でも日本人パワーリフターのトレーニング理論は大きく変わっていますし、若い選手達はこれからも急速に海外の理論が取り入れて力を伸ばしていくでしょう、私も取り残されないよう新しい情報にアンテナを立てていきたいと考えています。

 

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■コラム執筆者

神野亮司
愛知県 MBC POWER所属 ( http://mbcpower.web.fc2.com/ )
ベスト記録(ノーギア)
・93kg級
スクワット245kg
ベンチプレス165kg
デッドリフト267.5kg
トータル662.5kg
・83kg級
スクワット212.5kg
ベンチプレス157.5kg
デッドリフト255kg
トータル612.5kg
実績
ジャパンクラシックパワー(旧ジャパンオープンパワー)出場10回、最高2位
2012年アジアクラシックパワー男子一般83kg級2位
2014年世界クラシックパワー男子一般83kg級11位

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