さまざまなスポーツで当たり前に行われている統計データの分析、パワーリフティングでも海外のホームページを見ていると統計データの分析は盛んに行われており、更には分析して導き出された結果を大会の参加標準記録の設定といった実際の大会運営等にも利用しているようです。
私も今回のコラムでは海外に倣ってパワーリフティングに関する様々なデータを分析してみました。
前半ではパワーリフティングに関する全般的な事柄について、後半ではノーギアの全日本大会であるジャパンクラシックパワーリフティング選手権について分析しています、興味がある方は是非一度目を通してみて下さい!
(手動での計測であり、完全に正確ではない部分があります、その点ご了承下さい。)
【データ分析】
※記録によるクラス分け
海外ではパワーリフターのトータル記録が全体の上位何%に入るかでクラス分けがされており、USAPL(IPF傘下の米国パワーリフティング協会)では選手を以下に7つのクラスに分類しています。
エリート(上位2.5%)
マスター(上位5%)
クラス1(上位15%)
クラス2(上位25%)
クラス3(上位50%)
クラス4(上位75%)
クラス5(上位90%)
これを2015年に国内の大会に出場した選手に当てはめると男子はこの図のようになります。
(重量級はサンプル数が少ない為7クラスに分ける事ができませんでした。)
〘図1〙
女子に関しては国内の選手数が現在まだ少ない為各階級の選手を7つのクラスに分けるのが難しく、今回は割愛させていただきましたが、下のアメリカのデータを参考にして頂けるとよいと思います。
下の図はアメリカ協会(USAPL)のクラス分けになります(おそらく2015年のデータになります)
〘図2〙
これを見る限り、男子軽量級から中量級に関しては日本のパワーリフティングの水準はアメリカとほぼ同レベルですが、重量級の上位層はかなりの差がありそうです。
また、海外ではこのクラス分けが大会の参加基準にも利用されており、アメリカではノーギア全米大会(一般部門)の参加標準記録はクラス1の位置に設定され、各階級の上位15%に属する選手が出場可能となっています。
ジャパンクラシックパワーの場合は上位40%〜50%の位置に標準記録(一般部門)が設定されており、アメリカと比べて標準記録がかなり低く設定されている事がわかります。
尚、現在アメリカではウィルクススコアで男子440以上、女子405以上がエリートリフター(上位2.5%以内)と認識されているようで、これは日本でもほぼ同様と考えられます。
※各種目のパーセンテージ
スクワット・ベンチプレス・デッドリフト各種目のトータルに占める割合について、海外のデータと比較する事で日本人の得意種目について調べてみました。
男子各階級上位歴代十人の各種目割合と、ウィルクススコアによる男女の歴代上位十五人の各種目割合を出した所、以下のグラフのようになりました。
〘図3〙
男子について、軽量級はトータルに占めるデッドリフトの割合が高く、重量級のにいくにつれてデッドリフトの割合が減りスクワットの割合が高くなっていくのがわかります。
ベンチプレスの割合は階級による差はあまり無いようです。
各種目の割合は全階級通して以下の範囲に収まりました。
スクワット36%±2%
ベンチプレス24%±1%
デッドリフト40%±2%
女子についてはやはり選手数の問題から各階級毎ではなく、ウィルクス・スコアによる歴代上位選手15人のデータの統計となっています。
女子選手は男子選手と比べてベンチプレスの割合が少し低くデッドリフトの割合が高い傾向にあるようです。
アメリカのノーギア全米選手権で過去4年間に出場した全選手の記録を分析したデータによると、トータルに占めるスクワット、ベンチプレス、デッドリフトの平均割合は
男子の場合
スクワット36%
ベンチプレス24%
デッドリフト40%
女子の場合
スクワット36%
ベンチプレス21%
デッドリフト43%
という数値になったそうです。
一般的に日本の選手はベンチプレスが強くデッドリフトは苦手というイメージがありますが、今回の集計ではトップレベルの日本人選手と全米選手権に出場するアメリカ人選手で三種目の比率にあまり大きな違いは見られませんでした。
【ジャパンクラシックパワーリフティング選手権データ分析】
ここからは近年急激に参加者を増やしているノーギアパワーリフティングの全国大会、ジャパンクラシックパワーリフティング選手権大会(以下JCP)のデータを分析していこうと思います。
(人数を計測する際、マスターズ・ジュニアクラスと一般クラスのダブルエントリーの選手は別々にカウントしています)
※2011年度~2016年度JCP、エントリー人数の推移
男女別エントリー人数の推移 (一般・マスターズ・ジュニアの全カテゴリー合計)
〘図4〙
カテゴリー別エントリー人数の推移
〘図5〙
図のように、JCPエントリー数はノーギアの世界大会である世界クラシックの始まった2012年を境に急増しており、2012年度から2015年度までの3年間でほぼ倍増、2016年度は更に1割程増えています。
世界クラシック開催を境に大会参加者が急増しているのは世界的な傾向ですが、日本もその例に漏れないようです。
今年1月、JPAより2017年度の標準記録は据え置き、2018年度は女子の標準記録を新設し男子も0kg〜10kg程上げるという通達がありました。
これは参加選手の数に大きな影響がある程の変更ではない為、来年度(2017年度)や再来年度(2018年度)のJCPは開催場所によっては参加者300人を超える可能性があります。
エントリー人数の増加率は女子より男子の方がやや高く、カテゴリー別では一般部門の参加者の増加が顕著となっています。
※2011年度~2016年度、ウィルクス・スコア別参加人数の推移
ウィルクス・スコア別参加総数(男女及び一般・マスターズ・ジュニアの全カテゴリー合計)
〘図6〙
ウィルクス・スコア別の参加者数では、特に350未満と450以上の選手の増加率が高いようです。
※2015年JCP、参加者のウィルクス・スコア別割合
一般クラス
〘図7〙
ジュニアクラス
〘図8〙
マスターズクラス
〘図9〙
一般クラスではウィルクススコア350未満、350~400、400〜450の選手がほぼ均等な割合でおり、450を超える選手は1割以下となっています。
ジュニアとマスターズでは350未満の参加者が最も多くなっています。
※2011年度~2015年度JCP、優勝選手の記録とウィルクス・スコア推移
優勝選手のトータル記録推移(男子一般各クラス)
〘図10〙
優勝選手のトータル記録推移(女子一般各クラス)
〘図11〙
優勝選手のウィルクススコア推移(男子一般各クラス)
〘図12〙
優勝選手のウィルクススコア推移(女子一般各クラス)
〘図13〙
優勝選手の平均ウィルクス推移(男女一般クラス)
〘図14〙
参加者はこの数年で急増していますが、意外な事に男子の優勝記録の平均はほぼ横ばいとなっています。
反面女子は優勝選手の平均ウィルクス・スコアは急激に上昇しており、女子選手のレベルはここ数年で大きく上昇している事がわかります。
※2015年度JCP、各試技成功率
スクワット成功試技数の割合
〘図15〙
ベンチプレス成功試技数の割合
〘図16〙
デッドリフト成功試技数の割合
〘図17〙
各種目平均成功率
〘図18〙
種目別に見た所、スクワットの成功率がやや低く、ベンチプレスの成功率が高くなっており、失格する選手が最も多いのもスクワットという結果が出ています。
全試技成功の率はデッドリフトが最も低くなっています、これはデッドリフトでは順位争いが絡む為第三試技で難しい重量にチャレンジする事が多いからと考えられます。
※2015年度JCP、全試技成功(9-for-9)と失格した選手の率
全試技成功(海外では9-for-9とも呼ばれています)を達成した選手の割合は僅か9.7%でした。
失格した選手の割合は5.6%となっています。
以上、日本のパワーリフティングの統計データ分析でした、いかがでしたでしょうか。
統計データを分析する事で、現在のパワーリフティングの傾向や、日本人選手の特徴、更には自分の選手としての立ち位置や得意種目なんかも見えてくるのではないかと思います。
それに大会運営の面でも、分析結果を参加者数の推移の予想や標準記録の設定等に利用できるのではないでしょうか。
これからもパワーリフティングに関するデータを収集して、また機会があれば分析結果を公開していければと考えています。
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■コラム執筆者
神野亮司
愛知県 MBC POWER所属 ( http://mbcpower.web.fc2.com/ )
ベスト記録(ノーギア)
・93kg級
スクワット245kg
ベンチプレス165kg
デッドリフト267.5kg
トータル662.5kg
・83kg級
スクワット212.5kg
ベンチプレス157.5kg
デッドリフト255kg
トータル612.5kg
実績
ジャパンクラシックパワー(旧ジャパンオープンパワー)出場10回、最高2位
2012年アジアクラシックパワー男子一般83kg級2位
2014年世界クラシックパワー男子一般83kg級11位