6月15日から25日にかけて、ベラルーシ共和国の首都ミンスクでノーギアパワーリフティングの世界大会である世界クラシック選手権が開催されました。
2012年に初開催され今回で6回目となった世界クラシックですが、今年はヨーロッパ開催だった事もあり最終的な参加人数が800人を超えるIPFの歴史で最も参加人数の多いマンモス大会となりました。
日程はマスターズ3日間・ジュニア3日間・一般5日間の計11日開催、一般部門では上位グループと下位グループを2面で同時進行し1セッションを2時間〜3時間で終わらせる新しい試合進行方向が試されており、LIVE中継も年々手が込んだものになっており視聴者を楽しませようという工夫が窺えました。
今回のコラムでは今年の世界クラシックパワーでも特に注目を浴びた男女三階級の解説や、日本人選手が29年ぶりに達成した偉業、そして日本人選手の結果について書いていきます!
【注目を浴びた三階級の戦い】
・男子一般74kg級
今大会、日本の選手やファンにとって一番の注目階級となったのはこの階級でしょう。
2月のジャパンクラシックパワーリフティング選手権でトータル725kgという驚愕の日本記録を残した日本の比嘉選手が遂に待ち望まれていた世界大会デビューを果たしました!
比嘉選手(日本)
比嘉選手スクワット世界記録270kg
74kg級ノーギアスクワット世界記録樹立!!
日本人選手がスクワットの一般世界記録を樹立するのは、恐らく1988年の全日本大会(当時は国内大会でも世界記録が認められた)で因幡選手が記録した56kg級フルギア242.5kgまで遡りますので、約29年ぶりの快挙になります。
比嘉選手はこのあとベンチプレスで脚を攣るトラブルがあったとの事でデッドリフトで本来の力が発揮出来ずトータルは4位と惜しくもメダルを逃しました、しかしスクワット世界記録を成功させ世界のトップと渡り合える実力を見事に示した事から、将来は日本人初のノーギアパワー世界チャンピオンにも期待がかかります。
今回この階級で優勝したのはノルウェーのバックランド選手、フルギア83kg級の世界記録保持者でもあるバックランド選手はSQ247.5kg BP187.5kg DL322kg トータル757kgで世界記録を一気に27kgも更新し優勝、2位にはトータル733kgでアメリカのテイラー・アトウッド選手が入っています。
男子一般74kg級結果
1位バックランド選手757kg
2位アトウッド選手733kg
3位イオニン選手715kg
4位比嘉選手695kg
・男子一般105kg級
海外のパワーファンの間では今年の世界クラシックパワーで最注目階級と言われていたのがこの男子一般105kg級です。
この階級は
ブライス・ルイス選手
ステファン・マニュエル選手
ギャレット・ブレヴィンス選手
ヴィエルズビツキ・クシシュトフ選手
という4人の強豪選手が出場し、試合前から過去最高レベルの戦いになる事は間違い無いと言われていました。
ヴィエルズビツキ・クシシュトフ選手(ポーランド)
“ミスターデッドリフト”の異名を持つポーランドの中心選手、ポーランド予選ではIPFで初のノーギアデッドリフト公式400kgを成功させています。
世界クラシックパワーでは93kg級で2012年から2015年まで4連覇、今年は階級を105kg級に上げて二階級制覇を狙います。
ステファン・マニュエル選手(イギリス)
お馴染みSBDエリート、この一年は記録を大幅に伸ばし一時はスクワットとトータル世界記録保持者にもなっていました、女子47kg級の世界チャンピオンになった恋人のヘザー・コナー選手に続いて優勝を狙います。
以前は精神的な不安定さを感じさせる事もありましたが、最近は安定感がありコンスタントに高記録を残しています。
ブライス・ルイス選手(アメリカ)
世界最激戦区全米予選を1位で勝ち上がったUSAチャンピオン、全米大会やアーノルドクラシックで高い成績を残してきた選手ですが世界大会は今回が初出場となります。
ギャレット・ブレヴィンス選手(アメリカ)
アメリカのニューカマー、とにかくサブトータルの強いタイプで、4月のアーノルドクラシックではスクワット331.5kgベンチプレス224kgトータル885.5kgの3つの世界記録を同時に叩き出す圧巻のパフォーマンスを見せています。勢いという意味では4人でも一番かもしれません。
試合は予想通りブレヴィンス、ルイス、マニュエルがスクワットとベンチプレスのサブトータルで先行し、逃げ切りを狙う展開に。
しかし、ヴィエルズビツキはスクワットとベンチプレスを6本全てさせサブトータルでも大きな差を付けさせません。
ベンチプレス終了時の四人の重量がこちら
1位 ブレヴィンス SQ322.5kg + BP217.5kg (サブトータル540kg)
2位 マニュエル SQ317.5kg + BP212.5kg (サブトータル530kg)
3位 ルイス SQ312.5kg + BP215kg (サブトータル527.5kg)
5位 ヴィエルズビツキ SQ307.5kg + BP197.5kg (サブトータル505kg)
ブレヴィンス、ルイス、マニュエルはそれぞれヴィエルズビツキに対して22.5kg~35kgの差をつけていますが、ヴィエルズビツキのデッドリフトスタート重量はなんと360kg、「ミスターデッドリフト」のニックネームは伊達ではありません。
スクワットやベンチで取りこぼしのあったブレヴィンスとマニュエルはデッドリフト1本目の時点でヴィエルズビツキに大差をつけられる事になり逃げ切りが厳しくなります、そんな中アメリカのルイスだけがなんとか逆転の可能性がある位置をキープ。
ヴィエルズビツキはデッドリフト第一試技360kg第二試技380kgと成功させトータルを885kgまで伸ばします、この時点でマニュエルとブレヴィンスは優勝を諦め順位の確保に切り替えましたが、ルイスだけは第三試技で暫定首位を狙いデッドリフト360kgに挑戦、しかしこの試技は失敗します。
優勝を決めたヴィエルズビツキはデッドリフト第三試技400kgに挑戦しますがこの試技は惜しくも引ききれませんでした。
注目された105kg級は終わってみればヴィエルズビツキの圧勝と言える内容となりました。
この階級はこのままミスターデッドリフトの独擅場となるのでしょうか、ブレヴィンスを始めとするライバル達の巻き返しに期待したいです。
男子一般105kg級結果
1位ヴィエルズビツキ選手885kg
2位ルイス選手870kg
3位ブレヴィンス選手862.5kg
10位武田選手782.5kg
・女子一般57kg級
女子一般57kg級ではカナダのマリア・ティー選手とアメリカのジェニファー・ミリカン選手という二人のホープが急激に記録を伸ばす中、大ベテランのインナ・フィリモノーヴァ選手がチャンピオンの座を守れるのかに注目が集まりました。
インナ・フィリモノーヴァ選手(ロシア)
SBDエリートの一員で、長年世界のトップで活躍を続ける大ベテラン。
ミリカンとティーという二人の強敵の挑戦を受けます。
ジェニファー・ミリカン(アメリカ)
昨年彗星のごとく現れ世界最強アメリカ女子チーム加わった女子の注目選手。
ミリカン選手とフィリモノーヴァ選手は子供を持つママさんリフターでもあります。
マリア・ティー(カナダ)
近年ノーギアパワーの世界で急激に勢力を拡大し勢いを増すカナダでも、男子重量級のブラントン選手と並んで看板選手なのがこのティー選手です。
バルキーでとにかく脚が太く、使用しているSBDニースリーブはなんとXLサイズ!
試合はスクワットでミリカン選手が世界記録174.5kgを成功させし先行、ティー選手も172.5kgを取り僅かな差で追いかけます。
スクワット世界記録保持者だったフィリモノーヴァ選手ですが今回は170kg止まりとやや精彩を欠きます。
そしてベンチプレス、ここでフィリモノーヴァ選手は第一試技潰れ・第二試技尻浮き・第三試技潰れでまさかの失格。
ミリカン選手とティー選手の二人は全く同じ重量でベンチプレスを三試技成功させお互い一歩も譲らず勝負はデッドリフトに。
互角のデッドヒートを繰り広げてきたティー選手とミリカン選手でしたが、デッドリフトでは僅かにミリカン選手の実力が上回っており、競り勝ったミリカン選手が優勝を決めました。
優勝を決めたミリカン選手は世界大会初出場にして女子のベストリフターも獲得、2位のティー選手もベストリフターで2位となり、女子全階級の中でも最もハイレベルな戦いが繰り広げられた階級となりました。
ベストリフターを獲得したジェニファー・ミリカン選手の全試技(SQ174.5kg BP100kg DL187.5kg)
圧倒的な強さで世代交代を果たしたジェニファー・ミリカン選手とマリア・ティー選手の二人はこれから女子57kg級の新たな中心選手となると思われます。
女子一般57kg級結果
1位ミリカン選手462kg
2位ティー選手452.5kg
3位モンセラーテ選手432.5kg
【日本代表チームの結果】
今年も日本から数多くの選手が参加し、多くのメダルを獲得しています。
・ジュニア、サブジュニア
女子はジュニア72kg級で窓場選手が優勝、サブジュニア57kg級では大西選手がスクワットの世界記録を成功させ準優勝しています。
男子ではサブジュニア53kg級で松嵜選手が3位、ジュニア53kg級で松井選手が同じ3位とメダルを獲得。
ジュニア93kg級では古川選手がスクワット280kgとトータル700kgのジュニア日本記録を更新しました。
ジュニア・サブジュニアは今年も京都学園勢の活躍が目立っています。
・マスターズ
マスターズでは三重県から出場した伊藤選手(男子MⅡ74kg級)と辻選手(女子MⅡ47kg級)が揃って優勝しています、辻選手は見事大会4連覇を達成しました。
他にも男子MⅢ66kg級の蜂巣選手は2連覇、男子MⅣ59kg級の川中選手は4連覇を果たしています。
・一般
男子59kg級 蛯原選手8位
男子66kg級 池上選手7位
男子66kg級 古清水選手失格
男子74kg級 比嘉選手4位
男子83kg級 横田選手22位
男子93kg級 落合選手14位
男子105kg級 武田選手10位
女子47kg級 可児選手6位
世界的にノーギアパワーリフティングのレベルに急上昇する中、日本予選の記録水準もこの数年で大幅に上がっており、厳しい予選を勝ち抜いた日本代表の精鋭達が世界の舞台で見事な戦いぶりを見せてくれました。
今大会一般日本代表選手達の試合を観戦していて、全体的に厳しい判定で惜しくも赤をもらうという場面が多かったと感じました。
しかし可児選手・蛯原選手・武田選手・比嘉選手といった日本の中心選手達は年々力を伸ばしており実力的にメダル獲得に近い位置にいると思います。
また来年の日本代表選手達の活躍を今から楽しみにしています。
世界大会で見事9試技全て成功させ、自己ベストを更新した落合選手。
そして、選手の皆様の写真を見て頂けるとわかるように、今回は一般代表チームの希望選手に対してSBD JAPANによるスポンサードが行われ、日本代表シングレットを始めとするウェア類の提供やSBD専属プロカメラマンによる撮影等がありました、日本代表チームのメンバーに対してこの様なメーカーのサポートが行われたというのは私の知る限り過去に例がなく、非常に画期的な出来事だと感じます。
世界的にパワーリフティングが盛り上がり海外の選手の記録水準も上がっていく中で、今後は日本人選手の更なる活躍の為にも国内のトップ選手に対するサポートが増えていき、選手がより競技に集中できるような環境になっていけばと思います。
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■コラム執筆者
神野亮司
愛知県 MBC POWER所属 ( http://mbcpower.web.fc2.com/ )
ベスト記録(ノーギア)
・93kg級
スクワット245kg
ベンチプレス165kg
デッドリフト267.5kg
トータル662.5kg
・83kg級
スクワット212.5kg
ベンチプレス157.5kg
デッドリフト255kg
トータル612.5kg
実績
ジャパンクラシックパワー(旧ジャパンオープンパワー)出場10回、最高2位
2012年アジアクラシックパワー男子一般83kg級2位
2014年世界クラシックパワー男子一般83kg級11位