読者の皆様、いつもご覧頂き有難う御座います。
寝苦しかった先月が嘘のように涼しく過ごしやすい季節となってまいりましたが、如何お過ごしでしょうか?
私の身の周りでは季節の変わり目に体調を崩す学生やコーチが何人か見られました、体調管理にはくれぐれもお気をつけて今月も元気にトレーニングを行ってまいりましょう。
さて今回は先月からの続編となります。
私が7月1日より実施してまいりました一日一食ダイエットの結果報告とオープン参加させていただきましたジャパンマスターズクラッシック選手権大会の結果報告、そして今回のダイエットを含めた試合に向けた調整の総括をさせて頂きたいと思います。
【9月からの体重変動】
まず初めに絶食や断食についての説明やその効果、今回私が一日一食ダイエットに挑戦した経緯と7月1日のダイエット開始から8月26日までの進行状況については前回のコラムで書きましたので今回は割愛させていただきます。
前回のコラムをまだお読みで無い方は、ここから先の内容で説明が不足する場面があるかと思いますので大変恐縮ではありますが以下のURLより前回のコラムをお読み頂きたく宜しくお願い致します。
では先月のコラムを読んでいただいている事を前提に8月27日からの話を進めたいと思います。
まずは体重変動の折れ線グラフをご覧ください。
【27日以降の体重折れ線グラフ】
まずグラフを見て頂ければわかる通り8月下旬に2度にわたり数値が跳ね上がっている日がありますが、これは一日一食のルールを破ったわけではなく、学生との会食や出張先での会食で、夕食をかなり遅い時間に摂ったうえに翌日の仕事の関係で起床時間も早く、前日に食べたものの影響が朝一の体重測定でも残っていたことが原因で、その翌日には通常の状態に落ち着いているというものです。
その後9月に入り2週間ほど停滞した後に試合直前に1kgちょっと落ちた事になります。
この最後の1kgですが、特に食事内容で何か変えたり減らしたりした訳ではなく自然に落ちました。
何か思い当たる事があるとすれば最後の1週間はトレーニングの量が少なかった事ぐらいでしょうか。
私の場合は背中や脚をハードにトレーニングした翌日は特に何も食事面でミスをしていないにもかかわらず1kg~1.5kg体重が重くなる事があります。
これはトレーニングによって筋繊維が炎症を起こして膨張して浮腫んでいるような状態であると考えられます。
日常的にトレーニングをしている人は常に身体の何処かが炎症を起こして水膨れしているような状態にあると思われます。
また試合前の最終調整の時期はトレーニングでの使用重量も高重量で当然高い集中力を要します。
更に体重コントロールのストレスも加わり、かなり疲労が蓄積した状態となります。
このような状態ではコルチゾールのレベルが高まり結果的に身体の中に水分を溜め込みやすい環境となっています。
つまり試合前1週間の時点は、最も身体が水分を溜め込みやすい状態である事を加味して日々の体重と向き合わねばなりません。
試合前1週間はトレーニング量を落とし疲労を回復させますので自然と身体から水分が抜けて行き1kgほど体重が落ちるという現象が起きるのだと考えられます。
また最終日(試合当日)は83.9kgと更に500g落ちていますが、これも前日夜に軽くサウナに入ったからだと考えられます。
今回のダイエットでは結果的に79日間で9kgのダイエットに成功したことになります。
特に健康上の問題は無く、かと言って劇的に健康になったかと言えばそこまでの体感はありません。
一日一回の食事を夕食に摂っていた時期は睡眠の質も高く、全く問題が無かったのですが、終盤になり昼食を摂るようになってからは夜ベッドに入る時間帯に空腹感を感じるようになりました。
とは言ってもノンアルコールビールを飲みながらテレビを見てリラックスしていると自然とソファで寝入ってしまう程度なので「お腹が減って眠れな~い!」というような辛いものではありませんでした。
夜寝る前に空腹感を感じていたのなら朝はさぞかしお腹が空いているのではないかと思われるかも知れませんが、実際には朝は特に食べたいという気持ちにはならず、朝食を食べている暇があるならその分長く寝たいぐらいの気分でして、通勤して仕事をしていると気が付くと昼になっているといった感じでした。
人間「お腹が減った」などと気になるようでは仕事への集中力が足りないのでしょうね。それかよっぽど暇か。
ファスティングの効能に「脳の機能が回復する」とありましたが、これは本当だと思いました。
空腹で仕事をする方が頭が冴えますし集中力を高く保てるので事務作業も捗ります。
また私は通常、身体の浮腫みが酷い方なのですが、一日一食にするようになってからは浮腫みがとれて寝不足でも疲れていても身体がボワーンとしているような事は無くなりました。
これが腎機能の改善によるものかどうかは分かりませんが、生活をしていて快適である事は間違いないです。
あとは不思議な事ですが朝の排便・排尿が規則的になったように思います。
過去に通常の3食食べて間食も食べての低炭水化物・高蛋白質のダイエットをしていた時は必ずと言って良いほど便秘になってしまっていたのですが、今回は毎朝決まって同じようにお通じがありました。
普通に考えると朝食を食べていないので「何も入れないと何も出ない」と思ってしまいますが、私の場合は逆に必ず出ました。
ダイエット中に便秘になるとそれだけでイライラするものですが、それが全くないので精神的にも楽でした。
【アスリートとしてはどうか】
ここまで良い事ばかりを書きましたが、では一日一食で生活してみて肝心のパワーリフティングのパフォーマンス。
つまりトレーニングの使用重量はどうだったかというと。
これが全く使用重量は落ちませんでした。
むしろお腹が空いている時の方が集中力があり、ベルトを締めてもしっかり腹圧のかかり具合を意識出来て安全にトレーニングを行う事が出来ました。
ただ先月のコラムでも書いた通り、今回の私のトレーニングは極端にセット数が少なく短時間でボリュームの少ないトレーニングで頻度も最小限という内容だったのでエネルギーが枯渇した状態でも実行出来たのかも知れません。
また、試合の当日は計量後にゼリーや御粥などでエネルギー補給をしながら試合を行いましたので一日一食の状態のまま試合をしていたらヘロヘロでデッドリフトまで辿り着かなかった可能性が高いです。
また、一日一食減量をしていて何度も頭を過ぎったのは「こんなに食べてないのに体重って減らないのね…」でした。
実は先月のコラムでも書いた通り、一日一食で生活をしていると胃が小さくなって一回の食事でもそんなに沢山の量を食べる事が出来なくなります。
外で定食を食べても一人前を大盛りにしてご飯をお替りするともう限界に近い状態で、フルーツなどをデザートに足しても総摂取カロリーにすると1300kcal~1500kcal程度でこれはボディビルのダイエットを行っている時とほぼ変わらない数字です。
にもかかわらず終盤は体重はあまり減らなかったので逆に考えると「食事を小分けにして回数を増やす」という普通のダイエットの常識はやはり正しいという事かも知れません。
一日一食では胃腸が働くのも一日一回ですし咀嚼して消化してエネルギーを生成し排泄するという仕事を身体が一回しかやらない事になります。
つまり食事回数が減る事により胃腸が働いて消費するエネルギー量が減ってしまい、総消費カロリー自体が少なくなってしまうのでしょう。
また、一日一回しかエネルギーが身体に入ってこないので、知らず知らずのうちに身体が省エネ化を起こしてしまうのかも知れません。
内臓を休めるという事は健康面で見ればメリットかも知れませんが、ダイエットで考えるとデメリットなのかも知れません。
勿論この食事回数と消費カロリーや代謝に関しては様々な研究報告がなされており、食事の回数は少ない方が良いという研究もあれば多い方が良いという報告もあり、カロリーが同じならば変わらないという報告もあります。
あくまで今回の私のダイエットの場合は、体重の減少を目的に行っていましたので効率の良い結果は得られなかったという事です。
また、どうしても一日一回の食事では細かな栄養素が足りなくなるように感じました。
これも普通の生活をするだけなら全く問題は無いと思いますが、少ないボリュームで短時間とは言え週に1~2度は200kg以上のバーベルを担ぎスクワットをしたり床から200kg以上のバーベルを持ち上げたりすると必要な栄養素の量も一般人とは異なります。
ですので、最低限マルチビタミン&ミネラルは毎日サプリメントで摂取し、トレーニング後はBCAAとクレアチンも10gほど摂取するようにしました。
【体脂肪率】
これはダイエット期間中の体脂肪率の変化を測ったグラフです。
【体脂肪率の折れ線グラフ】
ただし体重と同じように毎日測ったわけではなく時間のある時に体重計についている機能で簡易的に測っただけですので数値的には全く正確とは言えませんが、測定条件は起床後にトイレに行った後に全裸で行うという部分は統一していたので変化を見るには適切かと思います。
最初の2週間ほどで大きく、その後は緩やかに減少していっているのは体重と全く同じなのですが、一つ違うのは体重の減りが停滞している8月下旬から9月中旬に向けての数週間で大きく体脂肪率が減少している事が分かります。
これも前述した様に体重の停滞自体がトレーニングやその他のストレス要因からなる身体の中に水分を溜め込んでしまう事の影響を受けていると考えると、体重は停滞しているが体脂肪は順調に落ちていたのではないかとも想像できます。
また8月中旬からの合宿中に立ち仕事が多かった影響で酷い腰痛になってしまっていて、それを緩和するために仕事の合間に腹筋や臀部を刺激するようなエクササイズを行ったり、
合宿中に怪我人と一緒に上半身のトレーニングを行ったりしていたので
若干筋肥大して体重は減ってはいないが体脂肪率は下がっているという状況になったのではと考えています。
【試合結果報告】
さてそんなダイエットを行いながらのジャパンクラッシックマスターズの結果ですが以下の通りでした。
体重:82.85kg
SQUAT:
220kg 〇(白3)
235kg 〇 (白2:主審が赤…恐らく深さをとられたと思われますが副審が白なので見え方の問題かと)
240kg × (潰れ:第二試技で赤が1本ついていたので深く入れようと意識し過ぎました)
またプラットフォームが少し柔らかいように感じて、しゃがんでいくにつれて少し後ろにバランスを崩しそうになる難しい台でした。
この辺は試合会場によりけりなのでどんな状況でも安定して立てるように準備しなければならないなと改めて感じました。
BENCH PRESS:
140kg 〇 (白3)
142.5kg 〇 (白3)
145kg 〇 (白3)
ずっと抱えている左肩の怪我が思わしくなく練習でも140kg以上の重りを持つ事が出来ていませんでした。
今回はベンチは安全に3本とる事だけが目標でしたのでこれで良いと思います。
来年に向けてとにかく肩を治さなければこれ以上の記録は望めません。
DEAD LIFT:
240kg 〇(白3)
250kg 〇(白3)
255kg ×(膝までしか浮かず)
デッドはいつもぶっつけ本番になってしまうのですが今回も練習量が足りず握力が持ちませんでした。硬くて太いエレイコのバーで普段から練習する必要があります。
またスクワット同様に少しプラットフォームが柔らかく沈む感覚がありバランスをとるのに苦労しました。
デッドリフトを改善する為には当たり前ですが、もっとデッドリフトのトレーニングに時間を割かなければなりません。そう考えると一日一食のダイエットではエネルギー不足だったのかも知れません。
【総括】
まず最初に、この79日間で一番強く実感したことは、何が何でも一日3食食べなければ強くならないというのは単なる思い込みであるという事です。
それと同時にアスリートが強度の高いトレーニングを継続して行っていくには、やはりそれ相応の摂取エネルギーが必要でトレーニングを行う時間帯に完全にエネルギーが枯渇しているようであれば食事をするタイミングや量が間違っているという事だと思います。
また、どんなダイエットでも全く辛くない事などなく、その人の仕事や生活スタイルに合った方法を探して無理なく効果的に継続できる方法を探している必要があります。
今回行った一日一食ダイエットは私にとっては非常に仕事のリズムや生活スタイルに合っていて取り入れやすいものであり、一定の成果を得る事が出来ました。
一日一食の生活習慣は私のような減量が必要なアスリートにとっては年間を通して無理なく規定体重まで体重を落とす事が出来る範囲(私の場合は規定体重+2kg程度)に体重を留めておくためには非常に有効なダイエット方法だと感じました。
しかし今回の方法がベストかと言えばNOだと思っています。
まず、今回のような試合前2か月半に迫った状況で10㎏近く体重を落とす事を目的としてやるのはやはりリスクが高いうえに効率的な方法であるとは言えません。
また、今回は試合前の79日間という短期間の試みでしたが年間を通して実施するとなると、試合に向けた調整の為のトレーニングではなく、より強くなる為のトレーニング、つまりある程度のボリュームと頻度の高いトレーニングプログラムに耐えうるエネルギーや栄養が必要です。
もしも今後この一日一食のダイエットを継続するとしたら多少の改良が必要です。
少なくとも起床時・トレーニング後・寝る前に30~40g程度のプロテインシェイクを追加する必要があると思います。
更にトレーニング前には糖質を含むドリンクも必要でしょう。
アスリートであるならばダイエット中であってもトレーニングの強度は落とさぬように栄養摂取をプログラムしなければなりません。
もしも他のアスリートが断食・絶食を取り入れるとしたら通常の3食食べるダイエットに加えて週に1日程度の完全絶食が一番良いかも知れません。
皆さんも一度はチャレンジしてみては如何でしょうか?
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■コラム執筆者
佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 241kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg
戦跡
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝
ボディビルディング
2000~2001年 関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年 全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年 日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年 関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝