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【ジャパンクラシックに初挑戦‼ベンチプレス日本記録保持者、木下進人選手インタビュー】

読者の皆様こんにちは。

2018年もアッという間に1ヶ月半が過ぎ、大雪や草津の噴火、インフルエンザの流行など様々な出来事がありましたね。

私の勤める大学でもインフルエンザが大流行しまして、ジムを管理する立場からすると、せっかく体を強くしようとジムに来た選手がインフルエンザをうつされてしまってはジムなんか行かない方がマシなので体調の悪そうな選手がいないかチェックしたり、うがい手荒いやマスクの徹底など出来る予防策は全てとって乗り越えようと必死でした。

いくらトレーニングで身体を鍛えてもインフルエンザで1週間寝込んでしまっては元に戻るどころか前より弱くなってしまいます。

皆さんもしっかりと予防策を立ててジムへ向かうようにして下さい。

そんな体調管理の難しい時期ではありますが、毎年この時期はノーギアパワーリフティングの国内最高峰大会であるジャパンクラッシックパワーリフティング選手権(以後JCP)が開催されます。

私も2年前の2016年2月の千葉県でのJCPに出場する為に半年以上の時間をかけて入念に調整をしていましたが試合の3日前に体調を崩し急性ウイルス性扁桃炎で40度の高熱が出てしまい開催地である千葉に移動する事すら出来ずに欠場してしまった苦い思い出があります。

今思えば試合の4日前にベンチの最終チェックだけ行うつもりでジムに行ったのに調子が良すぎて、好い気になって色々やってしまったのが悪かったように思います。

自分なりに計画的に進めてきたのに最後の最後でミスってしまいました。

本当に調整ってのは難しいです。

今年のJCPは南国沖縄県での開催という事もあり有力選手が数多くエントリーしています。

さすがに沖縄県開催だと地元の選手以外は日帰りで行く人はいないでしょう。

チケットをとりホテルを予約し、試合後の観光まで計画しているかも知れませんね。

それら全てが無駄になってしまわぬよう最終調整は丁寧に行って欲しいと願います。

かなり前置きが長くなってしまいましたが、今回のコラムは満を持してJCPへ初参戦する大阪が誇るベンチプレッサー、キノシンこと木下進人選手へのインタビューを試合直前と直後に分けて綴りたいと思います。

【木下進人とは】

では最初は木下進人選手のウエイトトレーニングとの出会いについてです。

佐名木(以下佐):あらためて聞くのもなんですが(笑)ご出身は?

木下選手(以下木):京都府舞鶴市です。

佐:福知山済美高校の柔道部だよね。バックグラウンドが柔道ってのは僕と同じだから親近感が沸くね。柔道も強そうだけど、どのぐらいまで行ったの?

木:京都府3位で近畿大会に出場しました。一応主将やってましたよ(笑)

佐:身長は170㎝ぐらいだよね。何キロ級だったの?

木:最後は90kg級でした。

佐:いるいる。そういうやつ(笑)力強かったでしょ。ウエイトトレーニングは高校から始めた感じかな?

木:そうです。本格的に取り組み始めたのは高一からなので17年になります。

佐:きっかけは部活動かな?

木:そうです。部活の補強として取り組み始めました。高校一年生の時に他校の同学年の選手がベンチ100kgをあげていると聞き、それを基準に頑張りました。

佐:良い時代だね。僕の頃は筋トレすると身体が硬くなるとか言われてやらしてもらえなかったよ。それでそのベンチ100kgは高校時代に達成できたの?

木:はい、高一の終わりに100kg。高三で140kgあげていました。

佐:ちょっとした怪物君やな(汗)

こんな感じで、柔道少年だった木下選手は部活の補強としてウエイトトレーニングと出会う事になる。

そして最初にハマった種目はやはりベンチ。

後に日本記録保持者となるアスリートのスタート地点だった。

その後、木下選手は大阪でスポーツトレーナーを養成する専門学校で勉強をしながらゴールドジムなどでトレーニングを続け、力をつけて行く。

ちょうどその頃、私も関西大学でアメリカンフットボール部に対してのコーチチングを開始した頃で「マーヴィーズのストレングスコーチでベンチが異常に強い子がいるよ」という話だけを聞いた事があった。

勿論その時点では私はまだボディビル競技を中心にトレーニングを行っていたので、ベンチ強いネタにそこまで興味を魅かれる事は無かったが、後にアメフトの試合会場で挨拶を交わすようになり交流を持つようになる。

そして2012年の大阪クラッシックベンチで彼が鮮烈なデビュー(105kg級:記録187.5kgで優勝)を飾った時も一緒に現場に居合わせた。

ツリパンも持っていないし、リストラップも持っていない。

Tシャツにスパッツ姿での参戦は周囲の注目を集めていました。

そもそもルールも分かっていない状態で「えっ?佐名木さん、スタートって言われたら下せば良いんですか?」「ケツ浮いちゃダメ?」「ラックって言われるまで戻したらあかんで」こんな会話をバーズローデッドのコールがかかる直前まで慌ただしく交わしていた。

その後、2015年の近畿クラッシックベンチ(120kg級:記録200kgで優勝)、2016年3月のジャパンクラッシックベンチ(120kg級:記録215kgで優勝)に出場し着実に実力をつけ、2016年5月の世界クラッシックベンチプレスではレベルの高い120kg級で212.5kgの記録を残し6位に入賞した。

ルールも知らない状態から僅か4年の出来事だった。

【今回のJCPに向けてのトレーニング】

それでは今回のジャパンクラッシックに向けてのトレーニングについてです。

佐:それでは今回のジャパンクラッシックに向けての話を聞かせて下さい。
3種の全国大会は初めてだよね?

木:そうです。初出場です。
昨年春(2017年4月)の大阪クラッシックがパワーリフティング初参戦でした。

佐:あぁ俺も出てたな。あれが初めてだったのか。

木:いつも初めての時は佐名木さんと一緒です(笑)

佐:あの時は「もう出ない」って言ってなかったっけ?

木:そうですね。やはりベンチだけの方が、気が楽ですしデッドが苦手なのであまり納得のいく記録ではありませんでした。
(120kg級:スクワット230kg、ベンチプレス210kg、デッドリフト220kg、トータル660kgで優勝)

佐:それが何で今回のJCPに出ようと思ったの?

木:最初はジャパンクラッシックベンチに出ようと思っていたのですが、仕事の都合で出場できませんでした。
そこでモチベーションを維持する為に今回のJCPに切り替えました。

また職業柄、アスリート達にウエイトトレーニングを指導するうえで自分も主要3種目で一定の記録と戦績を残しておいた方が良いと思ったからです。

佐:それ分かるよ。「ベンチだけでしょ?」とか言われたくないしね。
俺もボディビルと両方やってたのは「見せかけだけでしょ?」って言われるのが面倒くさかったからってのもあるからね。

それで今回パワーの大会に出場するにあたり何かトレーニング面での変化はありましたか?

【ベンチプレス大会とパワーリフティング大会の違い】

木:そうですね。昨年春の大阪クラッシックでの反省を踏まえて3種目をバランスよく練習するようにしました。

とは言っても普段からある程度は全身バランスよく鍛えるようにはしているので実際にはベンチプレスの練習量を減らしてスクワットとデッドの練習回数を増やしただけですが。

佐:減らしたってどのくらい?

木:例えば2016年の世界クラッシックベンチに出た頃はベンチプレスが週5回で1回あたり3時間ぐらいやっていたのですが、今回はベンチプレスは週4~5回でスクワットが週2~3回、デッドリフトが週2回でまわしています。

1回のトレーニング時間は2時間から3時間ですね。

佐:あんま減ってへんがな(笑)

木:他の種目に時間がかかるのでベンチ自体のボリュームが減っています。

佐:それって何かベンチに影響出るの?

木:やっぱり記録が落ちますね。
シングルベンチの大会ではベストが120kgで227.5kgなのですが今回は220kg狙いです。

佐:ベンチの人が3種目やると疲れるって言うよね。
トレーニングはここまで順調だったの?

木:実は年末にスランプに陥ってしまって重量が全然持てなくなってしまいました。

佐:それは何が原因だったのかな?疲労とか??

木:それもありますが、自分自身が調子の良かった時期のメニューに固執し過ぎてしまったからだと思います。
あとはやっぱり3種目やる疲労ですかね。

佐:それをどうやって乗り越えたの?

木:まずは重量を落として回数を増やすところからやり直しました。
ベンチプレスも120kgぐらいからやり直しました。
200kgでセットを組んでいたのを120kgに落としてもう一度フォームを修正しながらハイレップスでトレーニングを行いました。

佐:身体を作り直したって感じかな?

木:そうですね。ベンチプレスも少し狭く握ってトレーニングしたりスクワットをノーベルト・ノースリーブでトレーニングしたり懸垂やショルダープレスも色々ハイレップスでやって筋肉量を戻しました。

佐:それで安定感が戻ってきたという事かな?

木:少しずつですが調子が上向き始めました。
また原点に戻ってベンチプレスに特化してトレーニングを行い、スクワットやデッドリフトは弱点であるハムストリングスや内転筋を補助トレーニングで鍛える事で安定感が戻ってきました。

佐:スクワットも伸び悩んでたの?

木:はい。実はニースリーブを本格的に使うのが初めてで、最初は250kgだったベストがニースリーブを履く事で一気に272..5kgまで伸びて調子よくトレーニングをしていたのですが、ニースリーブを使い過ぎる事で地力が弱くなってしまうように感じてきて安定感も失われてきました。

佐:トップは伸びてるけど安定感が無くなる感じだね。

木:そうですね。生ではあがらなくなる感じです。今も試合直前でニースリーブを使っているのですが以前は200kg×7repsのセットを組んでいたのに今はあがる気がしません。
やはり地力をつけて安定感を得る為には普段はノーベルト・ノースリーブでトレーニングする事が重要だと思います。

【JCPに向けての目標】

佐:では今は安定感も戻って調子は上向きって事で良いかな?

木:はい。JCPでは120kg超級でエントリーしてスクワット270kg、ベンチプレス220kg、デッドリフト240kgでトータル720kgを目指します。

佐:そのへんが優勝ラインなの?

木:それは分からないのですが、持ち記録では負けている人がいるようなのでベストを尽くさないと勝てないのは間違いないです。

佐:頑張って!期待しています!

木:有難う御座います。頑張ります!!

【JCPを終えて】

佐:優勝おめでとうございます!

木:有難う御座います。

佐:試技は予定通りだったかな?なんかベンチだけこの前聞いた予定より攻めてたらしいけど。

木:実はスクワットで予定より5㎏離されてしまったのでベンチで取り返しに行きました。

あと105kg級の武田選手が220kgを成功させたので…勝負とは全く関係ないんですが負けたくなくて2.5kgをプラスしました。

結果は挙がったのですが赤3本と不甲斐ない結果でした。

佐:なるほど。試合の流れと場の雰囲気だね。勝負を楽しんでいるからできる事だね。

佐:最終調整は上手くいきましたか?

木:順調に進んだと思います。1週間前の日曜日に、スクワット260kg-ベンチプレス215kg-デッドリフト240kgのトータル715kgまでコールありで成功させました。

そこからは強度を落とし最終は水曜日に軽く全身に刺激を入れて終わりました。

ベンチプレスとスクワットは火曜日が最終で、この日はベルト、スリーブなしでスクワット140kg,160kg,180kg×6 、ベンチプレス140kg×6,6,6 、オーバーヘッドプレス60kg,80kg,100kg×6,6,6 、ラットプルダウン77kg×6,6,6 と、筋を軽く疲労させることを狙いに実施し終わりました。 ただ、日曜日のデッド240kgで首を痛めてしまい、試合当日まで痛みがあったのが唯一の失敗です。

細かい内容はTwitterに全てのせているのでそちらで御確認下さい。

佐:完勝のように見えますが今後に向けて何か課題はありますか?

木:課題はベンチに進歩がないこと、またデッドリフトが致命的に弱いことだと考えています。
今回、試合でデッドリフトのグリップに不安感がなかったため、取り組みとしてはいい方向にすすんでいたと感じています。

佐:応援して下さった方々に一言お願いいたします。

木:個人参加の自分に、当日はたくさんのご声援、サポートをいただき本当にありがとうございました。
また、メッセージやコメントもいただき本当に嬉しく思っています。
パワーリフティングは素晴らしい競技だと改めて感じることができた大会でした。まだまだ強くなるので今後ともよろしくお願い致します。

佐:最後に今後の目標を聞かせて下さい。

木:実は仕事の関係でJCP前に東京に引っ越したんです。新しいチャレンジになるのでまずはS&Cコーチとして、所属するチームの日本一に貢献する事です。

佐:是非頑張ってください!日本のスポーツ界には本物のトレーニングをトップアスリートに教えられる人が必要です。今後も応援しています!

木:有難う御座います。期待に応えられるように頑張ります!!

【最後に】

今回はインタビュー形式という初の試みで、以前から親交のあった木下進人選手にご協力いただいた。

全国大会の直前にもかかわらず時間を作ってくれた彼に改めて感謝申し上げます。

試合後のインタビューの部分で触れた通り、彼は今月から拠点を東京へ移し、新たな現場でのチャレンジを始めます。

かなりハードな仕事となるので、5年前の私がそうだったようにパワーやベンチの試合からは少し遠ざかってしまう可能性もあるのではないかと思い、今回のインタビューを企画しました。

しかし彼はインタビュー中、何回も「東京でパワーのジム巡りするの楽しみですわ~」と頼もしく意気込んでいました。

要らぬ心配だったのかも知れません。

今後も選手としての木下進人に期待しましょう。

実は私は以前から、彼に対しては少なからずシンパシーを感じる部分がありました。

自分と似たバックグラウンドを持つ若いS&Cコーチだという事も当然ありますが、彼と話をする中で、何かアスリートとしてもまだまだ完全燃焼出来ていないまま選手をサポートする側についているというような印象を受けました。

S&Cコーチとしてアスリートの才能や努力と向き合う中で、自分自身も負けたくない。

自分自身のアスリートとしての才能も信じて諦めていないという強い矜持を感じました。

それは私も同じで、他競技のトップアスリート達にものを教えるうえでも「自分もアスリートだ」という気概は常に持つようにしています。

また最初に触れたように彼の2012年大阪クラッシックベンチの時と同様に、私も最初はルールも知らない状態で、ノーギアの装備しか用意せずにフルギアの大会に出場してウォームアップ会場でエアーの入ったバスケットシューズを履いてスクワットをしていて「危ないからやめなさい」と注意を受けたほどでした。

今思えばパワーリフティングを始めた頃は、パワーリフティングの試合にボディビルダー代表として出場しているような気持ちでいたように思います。

適当にやって勝つのがカッコイイとでも思っていたのかも知れません。

またストレングスコーチとして少し冷静に冷めた気持ちで「あくまで自分のトレーニングのモチベーション維持の為に」と割り切ってパワーリフティングに出場していたように思います。

しかしパワーリフティングの奥深さや一緒にトレーニングしてくれる周りの仲間の温かさに触れ、徐々に自分自身もパワーリフターになろうとしていったように思います。

また私の場合は柔道やその他のスポーツで人に誇れるような良い成績を収める事は出来ませんでしたが、ボディビルディングやパワーリフティングを行い、色んな大会で結果を残す事で自分自身の中でアスリートとしての劣等感やわだかまりの様な感情が無くなり、今の仕事を行ううえでも自信を得る事が出来たようにも思います。

もしかしたら木下選手も同じような面があったのかも知れませんが、彼にとっては2012年大阪クラッシックベンチが良い切っ掛けとなり、単なる「マーヴィーズのベンチ強いストレングスコーチ」から日本を代表するベンチプレッサー木下進人へと、更にはJCP優勝者へと成長したのだと思います。

ストレングスコーチに限らずスポーツに関わる仕事をしている方で、もう一度何かに打ち込んでみたいという思いがある方、自身の競技歴を満足して終えられなかった人は、ベンチプレス大会やパワーリフティングの大会に飛び込んでみては如何でしょうか?

我々のように、きっと新しい自分の可能性が開けると思います。

 

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■コラム執筆者

佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 241kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg

戦跡
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝

ボディビルディング
2000~2001年  関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年     全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年     日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年     関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝

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