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高校生アスリートの筋力比率

【高校生アスリートの筋力比率】

読者の皆様、いつもご覧いただき有難う御座います。

今このコラムを書いているのは3月12日です。

昨日で東日本大震災から7年が経ちましたね。

被災地からは遠く離れた大阪ではありますが、我々も昨日の練習は黙祷から始めました。

7年前の3月11日金曜日、私は関西大学にて勤務しており午後3時前頃にはジムに来る学生たちが口々に東北や首都圏が大混乱に陥っていると騒いでいて、私もネットにて情報を知る事となりました。

私自身も高校1年生の時に神戸で被災している事から、報道を見るたびに自身の記憶も蘇って来て、関東や東北に住む知人友人、特に教え子達の事が心配で仕事が手に付かなかった事を良く覚えています。

実はその翌日土曜日には埼玉県の正智深谷高校に行き、ラグビー部にトレーニング講習会を行う予定になっていましたが、交通機関が正常に動く保証がないという判断で中止にせざるを得ませんでした。

また、2011年と言えば私がボディビルコンテストに出場した最後の年なのですが、実は2011年に日本クラス別3位と関西クラス別優勝という好成績と収める事が出来た事と、この大震災は私にとっては無関係ではありません。

特に全国規模の大会である日本クラス別に出場しようと思ったのは、この大会に出たくても出られないであろうライバルの事を想っての出場でした。

当然これは私の胸の中だけの話で、特に誰に話した事も無く、勿論相手にも伝えていないのですが、私は日々の苦しいダイエットの中で常に1人の選手を意識して「あいつの分まで」と思って戦っていました。

その選手は私が大学時代に勝てなかった選手で「もう一度あいつと同じステージで」と思いながらもそれ以来なかなか叶わず「もうボディビルはいいかな~」と思う度に月刊ボディビル誌で見かける彼の身体を見て「あいつも頑張ってるんだから俺も頑張ろう」と密かに思っていた選手でした。

その選手は卒業後に仙台で消防士になっていると聞いていました。

ですので「こんな大災害が起きてしまってはボディビルどころではないだろう。きっと今はトレーニングの事など考えられる状況ではないのだろう」と考え、逆に私が頑張って成績を残す事で勇気を与えられればと、勝手にモチベーションを高めて試合に臨みました。

その結果が好成績に繋がったと思っています。

あれから7年。何故今になってこの事を思い出したのかは分かりませんが、昨日のグラウンドでの黙祷中にふと頭を過ぎった思い出でした。

あとこの年の好成績にはもう一つ想い出深いエピソードがあるのですが…
それは今回の話とは関係が無いのでまた時期が来たら書こうと思います。

それでは長い前書きはそろそろ終えて本題に入りたいと思います。

【高校生アスリートの筋力比率】

既に何度かこのコラムでも書いているかと思いますが、多くの競技で今の時期は所謂「冬季トレーニング期」と呼ばれる身体作りを重視したトレーニングを行う時期でして、私の勤める大学でも各クラブが奪い合うようにジムに団体利用申請を提出してくるので施設の規模を超えるニーズをどう捌き、各クラブに効果的にトレーニングをしてもらうか…

各担当スタッフのシフトとの調整等も合わせて頭を悩ますところであります。

またこの時期は4月から入学する予定の現高校3年生が練習に参加し始める時期でして、メディカルチェックと合わせて、入学前の状態を把握するための筋力の測定も行ったりします。

一昔前であれば「僕ウエイトはやった事がありません」という新入生が多かったのですが現在では高校でウエイトトレーニングを経験していないアスリートの方が少ないという印象です。

例えばラグビー部入学予定者なら90%以上の割合で既にウエイトトレーニングの基礎は高校で習ってきているという状態で、昔に比べれば楽にウエイトトレーニングを導入する事が出来ています。

アメリカンフットボール部の入学予定者では他競技出身者も含めてウエイトトレーニング未経験者(又は未経験に近い基本種目のフォーム修得レベル)はゼロでした。

アイスホッケー部の入部予定者でも80%以上が基本種目をある程度のレベルで行う事が出来ました。

ここでいう「ある程度」とはMAX測定を実施して危険ではない程度だと思って下さい。

また、10年ほど前なら「僕はウエイトが好きです‼」「結構高校でやってました‼」という子でもベンチプレスは100kgあがるけどスクワットも100kgしか上がらない…

ベンチ:スクワット比率が1:1という恐ろしい状態の子が殆どでしたが、今ではそんな歪なトレーニング経験で大学まで来る子は殆どいません。

今年ラグビー部に入学してくる選手の平均値をとってもベンチ:スクワット比率は1:1.31でした。

フリーウエイトで下半身をトレーニングするという当たり前の事が高校レベルでも浸透してきている事に喜びを感じると共に、ジュニア期を指導する指導者の方々の理解に感謝いたします。

因みに大学で1年間トレーニングを積んだ2年生になると約1:1.52となるので、大学では高校時代より下半身を鍛える割合が増す事と、競技レベルが上がればより下半身の筋力が必要となって来る事が分かります。

【プッシュ:プル比】

上半身と下半身の筋力差(今回はベンチとスクワットの比率を例にしている)は改善されてきていますが、それではもう一つ気になる押す力と引く力。

つまりプッシュ:プル比はどうでしょうか?

今回は私が行っているベンチプレスとウエイテッドチンアップ(重りをぶら下げて行う懸垂)の測定で比較してみましょう。

これも一昔前は「僕はベンチプレスは140㎏あがります!」っと自信満々で入学してきた選手に懸垂をさせてみると自体重で1回も出来なかったり、自体重ではギリギリ10回出来るものの、5㎏の重りをぶら下げてみると1回も出来ないといった選手が多く居ました。

これはウエイトトレーニングがあくまで自己流で行われていた時代にトレーニングがベンチプレスに偏り過ぎていて起きていた現象であったり、そもそも懸垂をフルレンジでやる事に慣れていない高校生が多かったためだと思います。

この春入学してきた選手達の平均を見てみるとベンチ:懸垂の比率は1:0.921となっていました。

昨年もほぼ同じようなもので入学前の状態は常にややベンチの方が強いという傾向があります。勿論これでも昔に比べればもの凄く改善されてはいるのですが、それでも事「MAX測定」と聞くとベンチの重量に情熱を燃やす高校生が多いとも言えると思います。

これが新2年生の平均をとると1:1.011となり懸垂の方がやや強くなります。

3年生では1:1.056。4年生では1:1.060。

私が指導していた社会人チームでも1:1.060でした。勿論これは競技特性にもよると思いますが、ごく一般的な全身をバランス良く鍛えるプログラムを行っていれば普通はこのような比率になるものと思われます。

【前後ろバランスよく】

念の為に申し上げると、ベンチプレスが大好きでハマる事が悪いと言っている訳ではありません。以前にも書いたと思いますが誰でも簡単に始められて成果の出やすいベンチプレスはトレーニングを始める入門種目として素晴らしい役割を担っていると思います。

ただベンチプレスに限らず前から見える胸・肩(三角筋の前面)・腹筋だけを一生懸命トレーニングしていると姿勢が猫背気味になる場合があります。

特に最近はフィジークやベストボディが流行している影響で昔以上に所謂「見せ筋」ブームとなっているので、高校生アスリートの中にはチームから与えられているプログラムに追加して胸・肩・腹筋を練習後に鍛える選手も多いと聞きます。

勿論追加でトレーニングする事自体は素晴らしい事なのですが、是非鏡に映っていない後ろ側の筋肉も同じように鍛えて欲しいと思います。

特に格闘技やコンタクト系球技等、肩関節の脱臼を起こす可能性のある競技では、姿勢の改善自体が怪我の予防にもなりますし、怪我をした後のリハビリテーションでも肩が前に出ているような姿勢では回復が遅れる事があります。

また競技動作の中でも肩甲骨を寄せた状態で姿勢を保つことが求められる場合も多く

背中や三角筋後部の発達は競技パフォーマンス向上にも大いに役立ちます。

アスリートであれば前と後ろはバランスよく鍛えましょう。

【まとめ】

何度も言いますが、高校生をとりまくトレーニング環境はここ10数年で劇的に進歩していると思います。

それは器具などの問題だけではなく、各運動部の指導者の身体作りに対する意識が変わった事。それは安全面への配慮であったり、より高度な技術や戦術を修得させるためにも体力の向上が必要である事が理解され始めたからだと思います。

またこのコラムもそうですが、インターネットの普及により身体作りに関する情報を得る事が簡単になり、本を買ったりセミナーに行ったりしなくても最低限の知識やアイデアは得られるようになったからだと思います。

更に言えば日本人の筋肉アレルギー体質もかなり変わって来たのではないかと思います。

男性も女性も純粋に筋肉質な身体に憧れを抱く、或いは憧れている事、そのような身体を目指している事が恥ずかしい事ではないという風潮に変わり、筋肉質である事、健康的な見た目である事、そうなろうと努力している事がリスペクトの対象となって来ているように感じます。

我々身体作りや競技力向上の為のトレーニングを指導する立場からしても、ここ数年で業界的にも大いに発展し、ニーズも高まり、仕事もやり易くなってきました。

しかしその反面で情報が溢れ返り、やや偏ったトレーニングを実践し、若くして癖のある身体で入学してくる選手も沢山います。

よく言えば個性的な身体でパフォーマンスも個性的で面白いのですが、やはり将来的にパフォーマンスや修得できるスキルの幅にバラツキが出たり怪我をしてからのリハビリの邪魔になったりします。

是非指導者の方々はバランスの良い下地作りを心掛けて欲しいと思います。

最後に20年前に私が生まれて初めてウエイトトレーニングのMAX測定を行った時の数値を書いておきます。

スクワット:50kg(生まれて初めてやった。1回目は後ろにこけて潰れた)
ベンチプレス:95kg(人生2回目のベンチプレス。中学2年の時に1度やった時が90kgだったので殆ど進歩していない)
デッドリフト:190kg(生まれて初めてやった。メチャクチャなフォームで腰を痛めた)
パワークリーン:60kg(生まれて初めてやった。メチャクチャなフォームで手首を痛めた)
チンアップ:自重で30回(重りを足すという概念が無かった)

記憶が正しければこの程度でした。体重は85~90kgぐらいです。

以下にアンバランスな身体で大学に入学したのかが分かるかと思います。

だからいまだに怪我が多いのか…
自分が教える選手にはそうはなって欲しくないと思います。

 

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■コラム執筆者

佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 241kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg

戦跡
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝

ボディビルディング
2000~2001年  関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年     全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年     日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年     関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝

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