読者の皆様、こちらのコラムに足を運んで頂きありがとうございます。SBDコラムニストの福村彩です。
私事ですが、2020年1月25日~26日、三重県津市で開催された第20回ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会(以下「JCB」)へ出場させていただきました。
今回からは2回にわけてこちらの大会出場までの気持ちや過程をご紹介していきます。
1.ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会【準備編】(今回はこちら)
2.ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会に向けて【大会編】
ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会に向けたベンチプレスへの気持ち
昨年の6月にスウェーデンで開催された世界クラシックパワーリフティング選手権大会に出場させていただいたのですが、パワーリフティングという競技を通じて自分自身が思い描く綺麗なフォームに感謝という想いを乗せて試技をしたいと思い、そのイメージの中で練習していたのですが、結果はそのイメージ通りにいかず成績は散々でした。
試合後思ったことは、試技に想いをのせるという考え自体が思考であって、試技中は考えや感情を膨らますほど動きも固くなるのだなと感じ、頭で考えるのではなく瞑想の様に心身共に無限に広がる宇宙の様なイメージの中で、伸びのびやった時に自然に想いものっかるもので、試技中は考えるものでなく感じるものなのかもしれないと思いました。
その様な思いの中世界大会が終わり練習を再開したのですが、試合後スクワットやデットリフトをやっても身に入らず問いが生まれるのはベンチプレスの事ばかりで、スクワットとデットリフトをしていると、“〜しなきゃいけない”と思ってしまい、その様な気持ちで好きなスクワットとデッドリフトに寄り添うのは申し訳ない気持ちと、嫌々やっている自分に心地良さを感じなかったので距離を置きました。ベンチプレスへの想いが大きいのだなと思いました。
スクワットやデットリフトが心から好きと感じたり、やりたいと思う時がくるまでは自然に任せ、ベンチプレスメインでスクワットとデットリフトをやっていこうと思いました。 ということで1月JCBに向けての練習がスタートしました。
ベンチプレス迷走から抜け出したきっかけ
ベンチプレスの成績はというと、2018年のジャパンクラシックパワーリフティング大会から全く伸びておらず、練習の平均値のMAX値は65〜70kgで、手首もよく痛めていました。痛みが出るという事はやり方が違ったり、無理をしているというメッセージだと思うのですが、試行錯誤しても原因がわからず迷走していました。
世界大会が終わった後の何かを変えたいと思っていた時、ありがたい事に多くのベンチプレス選手の方々にアドバイスを頂ける機会をもらい、そのおかげで自分だけでは見えなかった欠点が浮き彫りになりました。やるべき事が明確になった事と、やっている時にこれは持てるようになるという感覚があったので、この時は本当にワクワクしました。
そこから自取りで70kg持てるようになり、次に75kg、数か月後には80kg持てるようになりました。
アドバイスをもらうまではやる事はないだろうと諦めかけていた自分が恥ずかしくなるほど、やらなければいけない事が山ほど出てきました。
それと共に、これらのアドバイスやヒントは、実は前からもらっていたけど素直に受け入れてなかったり、自分自身がそこまでの経験や理解をしておらずヒントにすら気づいていなかったかもしれないと思いました。
今までヒントを提供してくれていた皆様にはごめんなさいという気持ちと、まだまだ勉強不足だなと思いました。
練習内容
大会までの練習は週単位での練習ポイントと、毎回の練習ポイントを押さえて行いました
(週単位の練習ポイント)週単位の練習イメージ
試合に向けてピークを持っていきますが、その時期によってやるべき事が異なってくるのでベースの練習内容は変えずに、
週のポイントを踏まえた意識の変更を行いました。
◎ベンチプレスのフォームと試合に対しての免疫力
4種類の練習でフォームは常に意識しながらも、試合で必要な免疫力を付けていく練習を行いました。
①アップ~MAX重量近辺までもつ
ポイント
・今日の限界はここまでだという感覚が分かるように。
・アップからMAX重量まで毎回同じルーティーンで行うことでその日のコンディションが分かるように。
・試合時の重量選択がより確実なものになるように。
・アップで徐々に体を柔らかくしていき、軽い重量からフォームの感覚を掴んでいきます。フォームの調子が悪い時は重い重量へいく前に軽い重量のセットを増やし、いつものフォームに近づけました。
重量選択
・フォームが崩れるまでの重量は行わないようにしました。
・崩れたフォームで持ち続けるとそのフォームが体に染みつき、その時は良くても悪いフォームを続けることによってMAX重量が下がってきたり、ケガするリスクが増えるため。
(例)
・20kg-40kg-50kg-60kg-65kg 各重量1~3rep
・70kg-75kg-80kg 各重量1rep
②回数練習
ポイント
・筋力アップ
・足を使う意識が弱かったので上半身はブレない様に常に下半身で上げる意識で行いました。
重量選択
ベンチプレスの最大拳上重量の計算式を用いて回数練習の重量を決めました。
(計算式)練習重量の算出:最大拳上重量 ÷(1+(回数 ÷ 40))
気分や調子、試合までの日数によってrep数を増減しました。
③止め or 長止め
ポイント
・試合でのコール対応のため。
・足の連動を意識しながら行いました。
・シャフトが胸につくボトム時に、止めても足の力を入れておく事や、ムネの高さを保つ意識をしました。
重量選択
・フォームがブレずに意識できる重量でMAXが80kgとして75~80%程度の重さで行いました。
(例)
・60.0kg ×3rep
・65.0kg ×3rep
④ナローベンチプレス
ポイント
・筋力強化
・ナローはワイドより腕がベンチ台に対して垂直により近づくので重さを感じる意識が強くなる感覚があり、手や肩甲骨のどの位置に重さが乗るのか、どの位置が体に負担がかからないのかの確認を行いました。
・辛くなってくる時というのは無意識に脇が開いてくるのですが、ナローはワイドよりその部分を感じやすいので、ナローで脇を開かない様に練習し、試合時のMAX重量の時にでも安定した試技に生かされるようにと思い行いました。
・ナローはボトムの時、背中と足の力が一番入る位置が分かりやすいので、ボトムまでゆっくり落としてボトムの最善の位置を意識付けさせるために行いました。
重量選択
・フォームをしっかり意識できる重量で回数を重ねたときに辛くなる重量で。
・ナローが苦手なので重量は軽めで行い、レップ数で調整を行いました。
(例)
・45kg ×8rep
・50kg ×6rep
◎筋力トレーニング
(弱点強化)
今まで腕のトレーニングが後回しになっていたことで腕回りに痛みが頻繁に出てくることや、ボトム時の止めが弱いので“二頭筋、三頭筋、肩”の強化をはかりました。
(例)
・三頭筋(ディップス、トライセプスプレスダウン)
・二頭筋(アームカール)
・肩(ショルダープレス、サイドレイズ)
(ベンチプレスにとって大切な部位の強化)
身体の前面は元々強い体質なので“ハムストリングスや背中”を補強し体のバランスを取りたい事と、重さを背中でも受けベンチプレスの安定感をはかりたいと思いました。そして“臀部”を肥大させることによって、試技中の尻浮き防止をしたいと思いました。
(例)
・背中(チンニング、デットリフト)
・ハムストリングス(レッグカール、ルーマニアンデットリフト)
・臀部(ブルガリアンスクワット、アブダクション、スクワット)
全種目10~15rep×3setで行える重量で行いました。
ブリッジを組むタイプの私にとって腰や股関節への負担がベンチプレスだけでも負担が大きく理想のベンチフォームが出来なくなる感覚があったので、スクワットとデットリフトは行うにしても軽い重量で行い、他の種目も極力負担のないように行ってみました。
ベンチプレスの練習と筋力トレーニングを合わせた1日の練習例はこちらです。
◆ベンチプレス
・アップ~MAX近辺まで持つ
(20kg-40kg-50kg-60kg-65kg 各1~3rep)
(70kg-75kg-80kg 各1rep)
・回数練習 (67.5kg × 8rep × 3~5set)
・止めor長止め (60kg ×3rep × 3~5set)
・ナロー(45kg × 8rep × 3~5set)
◆筋トレ
・三頭筋/二頭筋/肩
・ディップス
・アームカール
・ショルダープレス
・サイドレイズ
各種目15rep×3set
ベンチプレスは週3~4回の練習で、その後に筋肉痛や身体の具合をみて筋力トレーニングは出来る部位をやるという感じでした。平日の練習は時間に制限があるので、1~2時間で出来るセット数でベンチプレスの練習時の休憩は3~5分程度、筋トレの休憩は1分程度で極力行うようにしました。
休日は時間にゆとりがある事と気が済むまでやりたいので、平日より多めのセット数を行い休憩時間もあまり決めず感覚で行う感じでした。
この日にこれをやると決めて行っていくと段々と楽しくなくなりやる気が落ちる傾向なので、調整が効く位のゆとりを持たせた練習を行うようにしてみました。
体重管理
理想の減量としては1か月で5%の減量が負担なく進められると言われているのをお聞きしたのでその仮定の下、
47kg × 5%=2.35kg
47kg + 2.35kg=49.35kg
12月の時点では50kgのため、1月で49.0~49.5kg近辺のスタートになればいいなというとこです。
①2カ月前 (緩やかに減量開始)
行動:50kg程あったので徐々に1か月で1kg落とせればいいかなという感じでした。
結果:緩やかですが1kg落ち予定通りでした。
心境:このままいけば大丈夫だろうと安心していました。
②1か月前(生理前生理中の期間)
行動:年末年始のイベントがありましたが、イベントは中々会えない皆様と会う大切な時間だと思っているで、前後で調整したり、ある程度PFC(※)を調整して楽しみました。
※PFC:P(たんぱく質)、F(脂質)、C(炭水化物)
結果:生理前生理中もあり気を付けていても体重はなかなか落ちず、良くて停滞でした。
心境:生理前はメンタルが落ちるという事も重なり、このままいけば落ちていたのにと焦ったり、不安が頭の中で駆け巡り大会まで落ちるのかと、考えても変わらないことをぐるぐる考えていました。生理中は気持ちの切り替えが尚の事出来ません。
③3週間前(生理終了)
行動:(P=たんぱく質)体重の2倍、(F=脂質)極力少なく、(C=炭水化物)100~150gで、昼食以外は塩分極力なしで行っていました。
結果:生理中にあったむくみや過剰な食欲もなくなり、メンタルも安定してきたので上記の食事管理しながらトレーニングを行うと徐々にですが落ちていきました。
心境:心の隅の方では不安はありますが、メンタルも安定してきていた事と大会前までのリミットがあるので、練習も減量もやるしかないという気持ちがだんだん強くなって迷いというものが割合少なくなっていきました。
④1週間前(水抜き・塩抜き)
行動:月曜~塩抜き開始、水曜~徐々に水抜き開始、木曜~食事はカロリーより質量が少ない食品や、水分の排出を促してくれるカリウムの多い食品を摂取し、BCAAを定期的に摂取していました。
結果:検量無事クリア。
心境:塩抜きや水抜きをやったことがなかったのでうまくいくかなと思っていましたが、結果良いコンディションで試合に挑めたので安心しました。
考察
練習
・納得するまでついついやってしまうことがあり、体の痛みや違和感が多々出てきてしまいました。痛みや違和感は感覚が変わりフォームのブレにつながると感じたと同時に、練習してもあまり身にならないと思いました。身になる練習をする為にも、やりたい自分と、体の気持ちを考える自分、両方見える様になることが大切だと思いました。
・体重が50kgないと挙上重量80kgは上がらないと思っていたのですが、体重が減っても技術で挙上重量はカバーできることが明確になったと共に、自分自身が体重が軽くなっても上がるかもしれないと思い始めてから上がり始めたので、一番難しい部分ではありますが、考えすぎず純粋に“自分の可能性を信じる”ということは改めて大切だなと感じました。
体重
・いつも不安になり体重を一週間前には47kg以下にしていたのですが、大会時にはパフォーマンスが落ちており競技のための減量ではなく、減量という競技になっていたような気がしました。今回の様にもう少し競技性のある減量をしても良いなと思いました。
・試合直前は生理が止まります。試合時よりある程度体重をのせる事や、体重をのせられる様な無理せず心の余裕をもてる自分でいる時に生理は来るような気がします。なので、普段は減量から+5%の49kg~50kgの間でキープしながら練習するのが女性の健康と競技を両立できるのかなと思いました。
さいごに
これらの内容は様々な方々の貴重な経験が詰まったサポートを頂けたらこそここまで出来たのだなと思います。
本当に有難く生かされているなと思いました。皆様ありがとうございます。
次回もジャパンクラシックベンチプレス選手権大会でのことを綴らして頂きたいと思います。よろしくお願い致します。
■コラム執筆者
福村 彩
埼玉県ストロングライン所属
B.T.S.L FITNESS
ベスト記録(ノーギア)
・スクワット 102.5kg
・ベンチプレス 82.5kg
・デッドリフト 137.5kg
・シングルベンチプレス 82.5kg
戦歴
【2017年】
さいたま市パワーリフティング選手権大会一般47kg級1位
ジャパンクラシックベンチプレス大会一般47kg級1位
【2018年】
ジャパンクラシックパワーリフティング大会一般47kg級2位
世界クラシックベンチプレス大会一般47kg級5位
世界クラシックパワーリフティング一般47kg級9位
【2019年】
ジャパンクラシックパワーリフティング大会一般47kg級2位
アジアパシフィック大会パワーリフティング部門一般47kg級2位
世界クラシックパワーリフティング一般47kg級9位
【2020年】
ジャパンクラシックパワーリフティング選手権大会一般47kg級3位