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レギュラーフォームではないフォームでトレーニングをする目的【補助種目についての考え方】

皆様こんにちはSBDコラムニストの佐名木宗貴です。
今月もご覧頂き有難う御座います。

このコラムを皆さんがご覧になる頃はすっかり梅雨が明けている頃でしょうか?
毎年のように異常気象が問題となっておりますが今年も九州や中国地方、東海、信越地方で大きな水害が発生してしまいました。

被害にあわれた方々に心からお見舞い申し上げると共に一日でも早く元の日常が戻りますようお祈りいたします。

そんななか5月末のコラムで書いた通り4月~5月の外出自粛期間中に自宅の庭に作ったホームトレーニングスペース「庭GYM」ですが、当初屋根が無いのが課題で梅雨になったらどうするの?とご心配をおかけしていたのですが、無事に梅雨前にビニールシートで覆い、なんとか雨露をしのいでトレーニングが出来るGYMへと進化させました。



ご近所からすれば「佐名木さんちの庭に急にビニールハウスが出来た」「何か栽培してはるんやろか?」と思われているかも知れませんが、今後もビニールハウスの中で筋肉をすくすくと育てていこうと思います。

ところで皆さん、私の記憶が正しければ…
なんとこのコラムもついに今回で60回目‼となりました。
つまりコラムを書き始めて5年が経ったわけです。

コラムを書き始めた2015年を思い返すと、当時は社会人のラグビーチームに専属S&Cコーチとして所属していたのでパワーリフティング界からもボディビル界からも離れた環境にあり、自分自身のトレーニングは細々と継続していくのが精一杯という感じでした。

そんな状態ではありましたが友人の神野くん(現MBCパワー代表、当時はSBDコラムニスト)に誘われてこのコラムを書き始めてから、また少しずつ「パワーリフティングの試合に出たい」という気持ちが湧きあがるようになり2017年に現在の仕事に変わるタイミングで本格復帰する事が出来ました。
良い出会いを与えてくれた神野くんには本当に感謝しています。

またジムや試合会場でもコラムについて色んな方からご意見ご感想を頂き大変励みになっており本当に感謝しています。

なにぶん素人の雑な文章ですのでつまらない内容も多いかと思いますが、今後ともお付き合いいただければ幸いです。

レギュラーフォームではないフォームでトレーニングを行う目的

それでは今月の本題に入ります。
先月のコラムで簡単なプログラムを紹介した際にメインとなるパワーリフティング3種目に追加して補助種目を1つずつ行うといった内容を紹介しました。

その中で例として挙げた種目がハイバースクワットやナロウグリップベンチプレス、コンベンショナルデッドリフトなど私が行っている通常のパワー3種目とはそれぞれフォームが違う種目でした。

つまり私の場合はレギュラースクワットがローバースクワット(バーを低く担ぐスクワット)なので補助種目としてハイバースクワットを、ベンチプレスは81㎝ラインを人差し指で握るワイドグリップベンチプレスがレギュラーなので81㎝ラインを小指或いは中指で握るベンチプレスを補助種目に、デッドリフトは相撲スタイルのワイドスタンスがレギュラーなので補助種目はコンベンショナル(ナロウスタンス)が補助種目となります。

3種目に究極に拘るパワーリフターであれば良くある話なのですが、そうではないトレーニーの方からすると「どっちもスクワットやん」「どっちもベンチプレスやん」「どっちもデッドリフトやん」となるのは当然の事です。

「だからパワーラックやベンチプレスを1時間以上独占するんやろ」とお怒りの声も聞こえてきそうです。

そこで今回はレギュラーフォームではないフォームでトレーニングを行う目的について書いてみようと思います。

◆ローバースクワットとハイバースクワット

では最初にスクワットについてです。
前記した通り私の場合はバーベルを低く背中側に担ぐローバースクワットをレギュラースクワットとしています。

自分の記憶が正しいかどうか分かりませんが2011年の秋頃からローバーに切り替えたと思います。それ以前はボディビルのためのスクワットをしていましたのでハイバーで担ぎ身体を出来るだけ前傾させず、足幅も狭く、膝を少し前に出し踵の下にプレートを入れてゆっくりとエキセントリックをかけながらおろすフォームで大腿四頭筋に効かせる事が目的でした。

ローバーに切り替えたのはパワーリフティングに専念するためで、どこかの筋肉に効かせるとかではなく、最も効率良く白判定がもらえる位置まで下ろして立てるフォームを考えた結果、私の場合はローバー、サムレス、ワイドスタンスに行き付きました。

また元々大腿四頭筋に比べてハムストリングスが強かったので自分の長所を生かそうとした結果でもあります。

最初は「佐名木くんスクワット、グッドモーニングみたいになったな」と揶揄された事もありましたが1gでも重い重量を担いで白旗をもらって試合に勝つ事が目的でしたのでグッドモーニングでもグッドイブニングでもなんでも良かったので気にしませんでした。

私のローバースクワットで最も負荷がかかる筋群はハムストリングスです、また下背部にも大きなストレスがかかります。

では大腿四頭筋は強化しなくて良いのかというとそんな事は無くて、バーをおろす局面でスピードをコントロールして自分の一番強いポジションにしゃがむためには大腿四頭筋がエキセントリックな負荷に耐える力が必要ですし、ボトムで切り返した後に止まってしまった時は大腿四頭筋が強く収縮し膝関節を伸展させる事が出来なければ局面を打開する事が出来ず潰れてしまうか、或いはお尻を後方に引いて腰上げする事になるので、更に下背部に依存したフォームになり怪我へと繋がります。

そのため大腿四頭筋を強化する為の補強としてやや狭いスタンスで身体を立てて膝を少し前に出す様なハイバースクワットを行っています。

ここ数年はレギュラースクワットを靴底がフラットなレスリングシューズで行っているのですがハイバースクワットをする時は踵の高いリフティングシューズに履き替えて行います。

また私の場合はデッドリフトのレギュラーがワイドスタンスなのでローバースクワットとワイドスタンスデッドリフトばかりやっていると刺激出来る筋群に偏りがあり、筋力のアンバランスやオーバーユースが原因で怪我をする可能性もあります。

怪我を未然に防ぐためにもハイバースクワットは欠かせないと考えています。


私の場合はローバースクワットの85%以上の重さで同じ回数が出来るようにトレーニングを行うと身体の疲労バランスも良く(均等に疲れて均等に回復してくれるという意味です)レギュラースクワットのパフォーマンスにも良い影響が出ています。

◆ワイドグリップベンチプレスとナロウグリップベンチプレス

次にベンチプレスです。こちらはワイドグリップが現在のレギュラーフォームですので補助種目として行うのはそれよりも手幅の狭いフォームという事になります。

言葉でわかりやすく区切るとワイドグリップ、ミディアムグリップ、ナロウグリップとなるのですが、実際には4段階あって
①81㎝ラインを人差し指で握る(レギュラーフォーム)
②81㎝ラインを中指で握る
③81㎝ラインを薬指で握る
④81㎝ラインを小指で握る、と指1本分ずつ握り幅を変えて行っています。




①以外はレギュラーフォームより狭いのでナロウグリップと纏めて呼んでいますが、ボディビルダーや一般トレーニーの皆さんから見れば「全部ワイドやんけ」と見えると思います。

ボディビルダー時代に最初に習ったグリップは恐らく81㎝ラインを中指ぐらいの手幅だったと思います。勿論ボディビルダーですから大胸筋を刺激して大きく分厚くする事が狙いでした。

グリップは所謂ㇵの字で手首を立てて肘を外に開き行っていました。
私は元々肩が悪かったのでボディビルを始めた頃からどうにもバーベルベンチプレスだけは苦手でした。なのでメインは専らダンベルベンチプレスとフライでしたのでバーベルベンチプレスは最後の締めに高回数でパンプさせるだけか、たまに鬼のようなケツ浮きブリッジのパーシャルレンジで危険覚悟の高重量を持って刺激(大胸筋に「大きくなってね」とシグナルを送る)するかのどちらかでした。

ボディビル時代のナロウグリップは本当のナロウグリップで拳と拳の間が20㎝程度のグリップ幅で上腕三頭筋を刺激する種目として取り入れていましたが、これも気が向いた時にフレンチプレスとスーパーセットで高回数行うようなものでした。

現在ベンチプレスの手幅を変えて補助種目として取り入れている理由はスクワットやデッドリフトとは少し違っていて、自分の理想とするベンチプレスに近づけるためです。

どういう事かというと、現在のレギュラーベンチプレスである81㎝を人差し指で握る手幅(※以降「ワイド」)はルールの範囲内で少しでもストロークを短くして高重量を挙げられるようにしようという考えから行ってきたものですが、一番強かった2012年頃に一度試合で160㎏に成功して以降、伸びるどころか弱くなっていく一方というのが現状です。

もちろん肩の怪我が悪化しているというのが一番の原因だとは思いますが、他の2種目に比べ練習頻度は上げているにもかかわらず成果が出ていない種目です。

この数年間自分の中で色々と試してみてベンチプレスで記録を向上させる事が出来るフォームについて必要なキーポイントが幾つか明確化しました。

①肩が痛くないフォーム
②手首が痛くないフォーム
③ボトムで腹圧がしっかりかかるフォーム
④足の力を伝えられるフォーム
⑤足の力を伝えてもお尻が浮かないフォーム

①と②は完璧に求めなくてもベンチプレスだけの記録は伸びるのかも知れませんが、私はベンチプレッサーではなくパワーリフターですのでスクワットを3試技全力で行った後にベンチプレスをするというのが前提です。

先に記した通り、私のレギュラースクワットはローバースクワットです。肩の悪い私にとって手首や肩には多少の負担がかかるフォームです。

つまりベンチプレスでは多少肩や手首が傷んでいてもパフォーマンスに支障のないフォームを求めるのです。

「だったらスクワットでも手首も肩も痛くないハイバーでやれば良いじゃないか」
全くその通りなのですが、現状ではローバーのスクワットで記録が伸びていますので、スクワットかベンチプレスか、どちらで記録を伸ばすのがトータルで得策かと考えスクワットを優先しているという事です。

話を戻しますと、ストロークの短さから優先してきたワイドですが、より狭い手幅に比べると肩や手首にかかるストレスは大きくなります。(あくまで私の場合です)
また腹圧も私の場合は手幅が狭い方が強くかかります。

なのになぜワイドをレギュラーとし続けなければならないかというと、恐らく上腕三頭筋や大胸筋、三角筋の出力が追い付いていない、要するに「押す力」が弱いからです。

しかし前記した指1本ずつ狭くしていく補助トレーニングにより現在はワイドで扱う重量に対して81㎝中指では98%程度、81㎝小指(以降ナロウ)では96%程度の重量が押せるようになっています。

バーベルの移動距離を短くし効率良く挙げようとしていたところから「押す」という動作を如何に効率良く多くの筋肉を参加させ共働させるかに変化する過渡期というわけです。

最終的な理想はナロウがワイドを超える事ですので、現在はその過程で「どの手幅が伸びて来るか」を楽しみながら鍛えているところです。

◆ワイドスタンスデッドリフトとコンベンショナルデッドリフト

最後にデッドリフトです。
私の場合はワイドスタンスデッドリフトがレギュラーフォームなのでコンベンショナル(以降「ナロウ」)デッドリフトやルーマニアンデッドリフト(以降「ルーマニアン」)が補助種目となります。




デッドリフトもボディビル時代はナロウとルーマニアン、或いはスティッフレッグがメインで、秋にパワーの試合に出る直前だけワイドを練習するという感じでした。

デッドリフトはトレーニングを開始した当初からある程度強くて、生まれて初めてデッドリフトをした日にナロウでベルトもリストラップも無しで190㎏が普通に床から何回か引けたのでボディビル時代は重量を伸ばすというよりは「200㎏でどれだけ効かすか」をテーマにやっていました。

その名残というわけではありませんが現在も補助種目として取り入れているナロウでは挙げる事よりもしっかり上体の姿勢が保たれているか(体幹部の支持)とハムストリングスにしっかり効いているかを意識しています。

これもワイドばかりをやっているとハムストリングスの外側の筋肉ばかりを使ってしまいバランスが悪くなって怪我に繋がるのでナロウではハムストリングスの全面にしっかり重量が乗ってるかを意識しています。

またワイドでは身体を立ててバーベルを引くので脊柱起立筋への刺激が足りません、それを補強する意味でもナロウは重要な役割を果たします。

私の場合はスクワットがローバーなので脊柱起立筋が強くなるとスクワットにも良い効果を得る事になります。それと同じ意味でスクワットで前傾して粘るようなレップスを重ねた週はナロウに影響してしまう事もあります。
(現在のルーティンでは週の初めにスクワット、週の後半にデッドリフトをするため)
その場合は無理にナロウで重い重さはやらずに安全な範囲で効かせて終わるようにします。

私の場合はナロウでもあまり膝を曲げないのでルーマニアンに近いフォームなのですが、自分の中ではナロウとルーマニアンは分けて行っています。

何が違うかというとナロウやワイドは床から引きあげた回数をカウントするのに対してルーマニアンではバーベルをおろしてハムストリングスを引き延ばした回数をカウントします。

またナロウは基本的にリストラップを使いませんがルーマニアンは使ってもオッケーとしています。ナロウよりもよりハムストリングスをしっかり引き伸ばす事に意識を集中する為にグリップが不安ならリストラップを使っても良いとしています。

この辺は自分の拘りと言うか自分と決めたルールのようなものなので特に理由も根拠もありません。

またハムストリングスを強化して股関節の伸展力を強くする事はスクワット、デッドリフト両方にとって有益なのですが、私の場合はボディビル時代に殿筋のトレーニングをあまりやっていなかったのでハムストリングスの強さに対して殿筋の強さが不足しています。

そのため怪我予防の観点から臀部のトレーニングもこれにプラスして行うようにしています。

臀部のトレーニングについては2019年11月のコラムで紹介ししていますのでそちらも併せて御覧ください。

【まとめ】

一般的に補助種目と聞くとスクワットに対してレッグプレス、ベンチプレスに対してダンベルベンチプレス、デッドリフトに対してハイパーバックエクステンションなどメインで働く筋群が似通った別種目を選択する事を想像するかも知れません。

恐らくそれは同じ種目を繰り返すよりは違う種目をやった方がバランスも良いし筋肉の動き方も変わるので残っている力を出し切れるのではないかと思うからでしょう。

目的がボディメイクなのであればそれでも良いと思います。当然私もそうしていました。
しかし今私はパワーリフティングという競技のためのトレーニングをしています。

例えば陸上競技の100m走の選手は100m走るのがメインの運動です。
彼らが補助種目という言葉を使うかどうかは分かりませんが100mを速く走るために
スタートから30mだけを走る事もするだろうし、傾斜の付いた坂も走るだろうし、パラシュートやスレッドで負荷をかけて走る事もあると思います。

どれも本番の100m走とは違いますが同じ「走る」を色んな角度から行って課題を克服しながら100m走のパフォーマンスに繋げようとします。

パワーリフターにとっての補助種目も同じようなものだと思います。
スクワットで言えばボトムストップ、トップサイド、ハーフ、バンドアシスト、チェーンなど色々ありますが、全部スクワットですが全部試合ではやらないものです。

レギュラーフォームと違うフォームでのトレーニングもこれと同じで私にとってハイバースクワットは試合ではやらない事ですが試合でやるローバースクワットを強化する為に必要なエクササイズなので敢えてトレーニングします。

かの有名なボディビルダー、トム・プラッツは映像の中で「どんなエクササイズもスクワットを補えない」と言っていました。

勿論彼はボディビルダーとしてスクワットの素晴らしい効果の事を言っているわけですが私はパワーリフティングでも同じだと思っています。

つまりスクワットが強くなるにはスクワットをするしかありません。

他も同じです、ベンチプレスが強くなるにはベンチプレスをするしかないし、デッドリフトが強くなるにはデッドリフトをするしかありません。

しかし怪我を予防したり安定感を出したり、更なるパフォーマンスの向上を狙うには異なる刺激も必要です。

特定の競技動作が上達し、動きの経済性が高まれば高まるほど筋肉を鍛える要素は薄まり、極端に言えば「スクワットはしているけど脚は鍛えていない」というような状態になっていきます。

しかしスクワットを補う事が出来るのはスクワットだけです。であれば同じスクワットをしながら不足分を補うのがベストです。

つい先日誕生日が来て42歳になりました。
若い頃と違ってやたらと我武者羅にトレーニングをしてしまうとリカバリーが追い付かずトレーニング効果もそう簡単には得られなくなってきました。

また小さな怪我や体調不良でも長期のパフォーマンス低下に繋がるようになりました。
そのため余分な種目をやる余裕は無く「強くなるために絶対に必要な種目とセット数」以外はなるべくやらないようにして「良いものを足すよりも不要なものを引く」事を考えプログラムを組んでいます。

皆さんもレギュラーフォームとは違ったフォームでもトレーニングをする事で競技力を向上させながらも怪我予防など必要な要素を補いましょう。
その過程で、また新たな発見があるかも知れません。

文:佐名木宗貴

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