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パワーリフティングのルールに関する一考察(手段と目的の狭間で)

皆様こんにちはSBDコラムニストの佐名木宗貴です。
今月もご覧頂き有難うございます。

暑いですね!
毎日挨拶代わりに交わす言葉ですが皆さんどんな夏をお過ごしでしょうか?

今年は新型コロナウイルスの影響から子供たちの夏休みも短く、短い夏を満喫しようにもどこにも行けない、というもどかしい日々の中で、各ご家庭で工夫を凝らしながら過ごされたのではないかと思います。

私も例年ですとサポートクラブの合宿で長野県の菅平高原と北海道の苫小牧市に5日ずつ毎年行くのが恒例だったのですが、今年は合宿が中止になってしまったため避暑地に行く事も無く蒸し暑い大阪で全日程を過ごしました。

私は20代の後半を日本一暑いといわれる埼玉県の熊谷市の隣で「絶対こっちの方が暑いんだいなぁ~」っと市民は思っている深谷市で過ごしましたので、暑さに対する耐性は持っていた方でボディビルの日焼けも何時間続けても平気だったのですが、30代の中盤から比較的快適な環境(クーラー付きのジム&避暑地合宿)で仕事をしていたためか最近めっきり暑さに弱くなってきてしまってお昼の時間帯に外で仕事をするとすぐにクラクラする様になってしまいました。

何事も「40過ぎると気を付けなきゃいけない」とよく耳にしますが熱中症の予防もしっかりしていこうと思いました。

最近のトレーニングと試合について思う事

そんな中で自分自身のトレーニングですが、なかなか目標を設定し辛い状況ではあるものの9月に愛媛県で行われるはずだったスポーツマスターズが中止となり、そのまま今年は無くなるかと思っていたジャパンクラシックマスターズが12月に兵庫県で行われるとJPAのホームページで告知されているので、来年の世界大会に行くためには出なければなりません。

正直今はあまり気が進まないのですが、来年になってコロナ騒ぎがおさまっていたとしたら「やっぱ出とけばよかった」と思うのではないかと考え、最低限の準備だけはしておこうと今は仕事と家庭を優先しつつ極々最低限のトレーニングだけを継続しています。

SNSを通じて繋がっている方々には日々のトレーニングの様子をダイアリーのような形でアップしているのですが、そうでない方はYouTubeでもトレーニングの内容をご覧になれますので興味のある方はご覧になって下さい。
YouTube佐名木宗貴

試合について誤解の無いように書き足しますと「気が進まない」と申しましたのは新型コロナウイルスに感染するのが怖いとか他人に移したり迷惑をかけるのが嫌だというのも当然あるのですが、それ以上に私の中でまだ「スポーツを行う環境や条件が公平と言える状況ではない」と感じているからです。

特に私が出場するマスターズは40歳以上の選手が年代別で日本一を競うカテゴリーですので、中には70代や80代の選手も参加します。もちろんパワーリフティング競技者ですから皆さん見た目は若々しくお元気なのですが、それでも年齢で言うと高齢者という括りの方々も沢山いらっしゃるので持病の一つや二つは皆さん抱えています。

また40代、50代の選手も会社や社会、家庭生活の中で既にかなり責任のある立場に立っている方も多く、アスリートとは言え世間から見れば単なる趣味であるパワーリフティングに全力で取り組める環境に皆がいるとは到底思えません。

どんなスポーツも同じだと思いますが歳をとればとるほど一度落ちた体力を取り戻すのには時間がかかり競技パフォーマンスを元に戻すのは至難の業です。

特にパワーリフティングは調整期間を要するスポーツです。無理な調整は怪我の危険も高まります。

幸い私は職場でトレーニングする事が出来て、自宅の近くに親族が経営するジムがあって、更に庭に自作のホームジムまでありますので、自分自身は試合に向けた十分な調整が出来るかもしれません。試合会場も恐らく兵庫県の明石市なので車で日帰りできるので感染リスクも殆どないでしょう。

しかし他の人はどうでしょうか?恐らく参加したくても参加出来ない人は例年より多いのではないでしょうか?ベストな状態ではない人も例年より多いのではないでしょうか?
ならばたとえ勝ったとしてもあまり嬉しくない。むしろ気が引ける。
これを気が進まないと言っています。

私がスポーツに求める一番大切な事が「公平性」です。もちろん世の中に完全な公平なんてものが無いことぐらい分かっています。それでもスポーツでは出来る限り公平な条件を作るよう様々なルールを作って争われ、それを守る事でスポーツには価値が生まれると私は信じています。

もしも12月に予定通りジャパンクラシックマスターズ選手権に出場するのであれば私の場合は逆算して約12週間の調整期間が必要なので9月7日頃から本格的なトレーニングを再開すると思います。

皆が心置きなく、公平に試合とそのための準備を楽しむ事が出来る世の中に1日でも早く戻ってくれることを祈りつつ日々自分に出来る事を果たしていきます。

パワーリフティングのルールに関する一考察

それでは今月の本題に入ります。
今回はパワーリフティングのルールと各種目のフォームについて私見を述べる回としたいと思います。

昨今はSNSなどを利用し、いろんな意見が活発に交わされる世の中になってきました。その中でパワーリフティング競技の世界でもよく話題に上がるのがルールに関する事です。

ルールに関しては過去に幾つかのコラムで紹介していますのでこちらも併せて御覧ください。
審判から見える世界 初めての審判経験(近畿ベンチプレス選手権大会)
続:審判から見える世界 2級審判への道①(長野県秋季パワーリフティング・ベンチプレス選手権大会)

様々な話題があるなかで常に意見の分かれるものがスクワットでの極端なローバー&ワイドスタンス、ベンチプレスの過度なブリッジ、デッドリフトでの極端なワイドスタンス。
つまりルールでは許されているものの一般的な見方をすれば挙上距離を極端に短くしているので不格好でズルい、可動域を狭くして記録を向上させるのは本来のパワーリフティングの概念から外れているという意見だと思います。

ルールを改定するべきだという議論は何もパワーリフティングに限った話ではなく、どの競技でも起きている問題で、勝ち負けを決めて順位が付くという競技スポーツの性質上、或いは競技がグローバル化・商業化して発展していく過程で起きる避けられない議論だと思います。

そんな競技スポーツのルールについての考え方と共にパワーリフティングのルールについて私見を述べていきたいと思います。

ポピュラーなトレーニング種目であるが故

パワーリフティングはスクワット・ベンチプレス・デッドリフトというウエイトトレーニングの中でも最もポピュラーな3種目の最大挙上重量を競うという競技です。

細かい事を気にしなければバーベルとプレートさえあれば誰でもどこでも出来るスポーツです。

そのためウエイトトレーニングを行っている人にとっては「特別な競技スキルは無くともその気になればすぐに参加出来る」という点がこの競技の魅力の一つであり競技会参加者と競技会非参加トレーニーとの間にそこまで大きな垣根はありません。

言い換えれば同じジムで同じ内容のトレーニングをしていても選手登録をして年に1回でも試合に参加している人は競技者、応援に行くだけの人は非競技者という事です。

しかし、この垣根の低さと種目のポピュラーさが故にウエイトトレーニングとして一般的に推奨されているフォームと競技ルールで認められている中で効率良く重量を挙げるためのフォームに相違が生まれ、その事に競技会非参加トレーニーが違和感を覚えるという結果を生みます。

当然競技者よりも競技会非参加トレーニーでスクワット・ベンチプレス・デッドリフトをウエイトトレーニングの一種目として行っている人の方が圧倒的に多いわけですから結果的にパワーリフティング競技者が試合、あるいは練習で行っているスクワット・ベンチプレス・デッドリフトのフォームの方が「珍しいフォーム」という事になり、かなり珍しい場合は「変なフォーム」と言われるようになるのだと思います。



他競技での事例を考えてみると

例えば同じようにバーベルの挙上重量を競う競技であるウエイトリフティングで行われるクリーン&ジャークとスナッチもバーベルとプレートさえあれば誰でも出来る種目です。

しかし、パワーリフティングの三種目に比べると種目の難易度自体が高くバーベルを落下させてしまう可能性も高いためプラットフォームやバンパープレートが設置されていない一般的なフィットネスジムではなかなか安全に行う事が出来ません。

安全に行う事の出来る場所が限られていて種目の難易度も高いという事はエクササイズとして行う人も少なく、安全に指導出来る指導者も少ない。つまりクリーン&ジャークとスナッチを行った事がある絶対数が少ないと思います。

そのためウエイトリフティング選手のクリーン&ジャークやスナッチを見ても、正しいとか可動域が狭いとかいう議論は起こりにくく、パワーリフティングで起こる議論と同じレベルで言えば「背が低い人が低く潜っているだけで可動域が短くてセコい」とか「手が短いのに広く持ってるからずるい」「あの選手のフォームは間違ってる」などという話には一般的にはなりません。
(※ウエイトリフティング選手、或いは協会内でそのような問題が議論されているかどうかは知りません。一般的なスポーツ愛好者やトレーニング愛好者の中ではめったに聞かないという意味です)

もしかしたら競技名も「ウエイトリフティング = 重量挙げ」なので1gでも重いウエイト(重量)をリフト(挙上)出来ていれば勝ち(正解)という競技として当たり前の概念が共通認識として受け入れられ易いのかも知れません。

似たような例をもう一つあげれば陸上競技の競歩も分かりやすいと思います。
「競歩」ですから歩きを競っています。
つまり長い距離を歩いてタイムを競う競技なわけですが彼らが競技の中で実施する「歩き」は一般的な「歩き・ウォーク」とは異なるフォームです。そのため一般的に見れば「変わった歩き方」「それってホントに歩き?」と見られてしまいますが、彼らは競技で定められたルールの中で長距離を最速で歩く事の出来るフォームを磨いているので一般的な「歩き」とは異なっていて当然です。

普通のウォーキング愛好者がオリンピックや世界陸上などをテレビで見ていて、競歩の試合中に失格してしまう選手の歩き方を見てもどこがルール違反だったのか?さっぱり分からないでしょう。

パワーリフティングも同じです。競技会非参加トレーニーが試合を観れば「今のなんで失敗なの?」という試技が沢山あるはずです。

競技は狭義か?

以前ボディビルダー仲間で議論した時に競技とは狭義か?という話題になった事があります。

ボディビルディングは身体作りの総称でありボディをビルディングしているのであればコンテストに出ていようがいまいがボディビルダーなんじゃないか?という議論です。

その問いに対する私の答えは「広義ボディビルダーではあっても競技ボディビルダーではない」というものでした。

例えボディビルであっても競技会(コンテスト)に出場するのであればそこにはルールが存在します。

一番分かりやすいのがアンチ・ドーピングです。
他団体がどうなのかは詳しく知りませんが少なくともJBBFの大会にはドーピングチェックがあり、団体としてアンチ・ドーピングをうたっていますのでアンチ・ドーピングのルールに違反する薬物を使用したり、ルールに違反する方法を用いてボディをビルドしている人は参加出来ない事になっています。

しかし、広い意味で見るのならばボディをビルドしているので競技会に参加していようがいまいがみんなボディビルダーなのかもしれません。

話しを戻すとスクワット(しゃがむ)・ベンチプレス(ベンチに仰向けに寝て押す)・デッドリフト(立位で前屈した姿勢から直立姿勢になるまで重りを持ち上げる)どれも広義で捉えれば取り決めはシンプルです。

これにウエイトトレーニングで用いられる「身体の部位を鍛えるもの」という観点が加わると、スクワット(脚を鍛えるもの)・ベンチプレス(胸・上腕三頭筋など上半身の押す力を鍛えるもの)・デッドリフト(身体の背面を鍛えるもの)というようにメインで使われる筋群を元にそれを強調したフォームにアレンジされます。

しかしこれが競技としてのパワーリフティングという観点で三種目を捉えると全ては決められたルールに則って1gでも重いものが挙げられるフォームにアレンジされるのです。

同じ事で「走る」でも低強度の有酸素運動としてゆっくり走るのも「走る」ですが、陸上競技の100m走の最初の10mをどれだけ速く駆け出すのかを追求した前傾姿勢でのスタートダッシュも「走る」です。
しかし見た目は全く違う「走る」となります。

このように広義での動作と競技での動作には異なりがあり競技=狭義と言えるのかもしれません。

変化して良いルールと変化しない方が良いルール

パワーリフティングが記録を競う競技である以上は正解か不正解かの判断は1gでも記録が向上するのかどうかに委ねられます。

見た目が悪かろうが一般受けしなかろうが記録が伸びるのであれば、そのフォームは競技的には正解です。

競歩の選手が一般のウォーキング愛好家に「それは変な歩き方だ」と言われてフォームを変える事は無いだろうし、ウエイトリフティングの選手が一般トレーニーに「低く潜り込むより高く引き上げてキャッチした方がカッコいい」と言われたからといってフォームは変えないと思います。

柔道のオリンピック選手がオールドファンに「昔の選手はそんな技は使わなかった!本来の柔道と違う」と言われたところで今のルールに適した戦い方を変えはしないでしょう。

それと全く同様に競技会で記録を競うパワーリフターがパワーリフティングの競技会に参加していないトレーニーにベンチのブリッジが高すぎると言われたところで「またか…」と思うだけでフォームを変える事は無いでしょう。

繰り返しになりますがパワーリフティング(三種目)を単なるエクササイズとしてではなく競技として取り組むのであれば1gでも記録が伸びるフォームを取り入れるのは競技参加者としては自然な事です。

その一方で競技スポーツの中には頻繁にルールが変わるスポーツも数多く存在します。

私に近い競技で言うとラグビーやアメリカンフットボールなどは毎年細かくルールが変わります(見てる人にはあまり分からないレベルで)。レスリングや柔道など格闘技もルールの変更が比較的多く元々のオリジナルからは大きく変化している競技と言えるでしょう。

ルールを変更する理由は各競技によって様々あるとは思いますが、代表的な理由としては大きく2つあげられるでしょう。

①競技をより安全に行う為
②競技をより公平に行う為

①は選手を守るために付け加えられるルールなどが考えられます。例えば試合の途中で医師によるチェックが必要になるとか、医師の判断で一定の期間出場が出来なくなったりというルールがあります。

更には危険なプレーが起きないように動作や戦術を規制するという事もあるでしょう。
また選手のフィジカルが向上するにつれて医科学的な見地から安全を守るために必要な道具が生まれそれが必須となる事もあるでしょう。

②は色々とありますが、ルールを設けないと、ある人にとっては有利で、ある人にとっては不利な状態で競技が行われる事が明確である場合。或いは競技にまつわる判定を正確に行う事が難しいためミスジャッジによる不公平が起きないようにルールを設ける場合が考えられます。

例えばビデオを用いたジャッジの確認やセンサーを使ったジャッジ、或いはウォームアップなどの時間の管理にまつわるもの、更にはユニフォームのカラーなどを指定する事でジャッジを正確に行う事が出来るようにするなど、勝負に影響する判定や条件をより公平にするために必要なルールが足されたり変更されたりする事と考えて下さい。

アンチ・ドーピングは①と②の両方のために必要な全競技共通のルールです。

勿論スポーツの商業化に伴い映像映えするようなルールやユニフォームの変化などもあると思いますが、建前としては①か②に該当する変更が多いと思います。

話をパワーリフティングのストローク問題に戻しますが、この①②に該当する問題かどうか考えてみると、まず①の安全性の部分で修正の対象と考えられる要素があると私が思うのはベンチプレスの過度なブリッヂとデッドリフトの過度なワイドスタンスではないかと思います。

ベンチプレスの過度なブリッジについて安全性の面で一番気になる点としては、胸椎が立ち過ぎるあまり頸椎に非常に大きなストレスがかかるのではないかという点からです。

ベンチプレスでアーチを組む事の安全面から考える利点は肩関節へのストレスを軽減するという点だと思いますが、それが行き過ぎるあまり頸椎を痛めてしまう危険があるのであれば選手の健康を守るためにもルール改正による規制が必要と考えられます。

しかしどの程度の角度までが安全で、どの程度から危険かなど骨格の個人差もあると思いますので一概に統一するのは難しいと思います。

本気でルールを修正するべきだとなったら医科学的研究による裏付けが必要です。

デッドリフトの過度なワイドスタンスについて安全面で一番気になるのは、プレートが足の上に落ちる危険性があるのではないかという点です。

爪先がプレートに触れるような極端なワイドスタンスで試技を開始した場合、上げ切るまでに多少足が外側にズレて、下ろす時には爪先がプレートの下に入る危険があるのです。

このようなフォームを行う選手はプレートを下ろしながら素早く爪先を前に向けてプレートの下敷きにならないようにするテクニックを使う事の出来る選手もいるのですが、それでもグリップが外れる可能性もある事からプレートが足の上に落下してしまう危険性を孕んだフォームと言えます。

選手の安全を最優先に考えるのであれば、例えばベンチプレス同様に81㎝ラインを踵が越えてはならない。またはプレートから足まで〇〇cm以上の距離をとらなければならない。などと言ったルールが必要かもしれません。

では②の公平性の観点から考えるとどうでしょうか?
まず最初に競技パフォーマンスの公平性という考えで見るとパワーリフティングのストローク問題について対象とするのは難しいと思います。

身体が柔らかい。手足が短い。背が低い。

これらを不公平とするのであれば階級分けを体重別にするのではなく「身長別」「腕の長さ別」「足の長さ別」「柔軟性別」と細かく分けて争わなければなりません。

全く同じ身長体重の人間などなかなか居ませんし身体の柔軟性は立派な身体能力です。

しかし競技にまつわる判定の公平性という考えで見ると、スクワットでの過度なローバーで上体を前傾させるフォームとベンチプレスの過度なブリッジはルールを改善する余地があるかもしれません。

まず私自身もそうなのですが、スクワットをローバーで担ぎ上体をかなり前傾してしゃがむフォームは審判員の立場で考えると「審判泣かせ」と言えるフォームだと思います。

スクワットの深さを判定する際に上体を前傾させお尻を大きく後ろに引くフォームは腹部と大腿上部が密着するため大腿部上面を目視し辛くしてしまいます。

しかし上体の前傾を「〇〇度まで」とルールに書いたところで試技中に正確に角度を見る事は難しいですし、身長や座高、腹部の太さや大腿部の太さも大きく関係するので個人差があります。

つまり正確に判定しようと思うなら人の眼で行うのではなく映像によるビデオレフリーを導入するのが正確に公平な審判を行う為には必要な事だと思います。

ただし機械の故障などもあると思いますので、あくまで現行の3人の主審・副審が判定するという方法は残しつつ、微妙な判定については選手が映像で判定を再確認する事が出来るチャレンジ制度を設け、申請があった場合は陪審員が確認し判定を覆すか否かを判断するのが良いと思います。

その場合は当然1試合に何回チャレンジする事が出来るのか?或いはチャレンジに失敗した場合は次の試技を行う権利を失う。などといった細かいルールも必要となります。

ベンチプレスの過度なブリッジの場合は臀部がシートに面で付いているのかどうか?そもそもどこからが臀部でどこからが大腿部なのか?分からないようなフォームになっている場合がありこれも「審判泣かせ」の判断となります。

そのため正確に判定するためにはベンチ、或いはシングレットのお尻部分にセンサーを縫い込み正確に臀部がベンチに付いているかを確認できるようにした方がより公平性が増すでしょう。

ただしこれも機械の故障など問題も起きるでしょうから現行のルールにプラスして、微妙なフォームの選手に対して審判がジャッジに困った場合の措置として確認する事が出来るようにするのが良いと思います。

このように競技がより安全に公平に行われるために必要なルールを改正する事は将来的には競技を発展させる事に繋がると私は考えます。

トレーニング指導者がパワーリフティング競技に出場するなら

最近はパワーリフターの練習や試合の動画もYouTubeで簡単に沢山見る事が出来るようになりパワーリフターではない普通のトレーニーの方や他競技アスリートにもパワーリフターの存在が広く知られるようになりました。

当然私のような他競技アスリートにトレーニングを指導するパワーリフターもいて各現場で影響力を持って指導にあたっていると思います。

その指導者が影響力のある指導者であればあるほど選手はその指導者の行っているトレーニングをコピーしようとするものです。

大学や社会人チームでトレーニングを教えていて毎年ルーキーに最初のトレーニングを指導する時、その選手のフォームを見ると「おっ!こいつはボディビルダーからトレーニングを習ったな」「おっ!こいつはパワーリフターから習ったな」と見るだけでわかります。

もちろん良い意味で影響を与える場合が殆どだと信じますが、中にはベーシックなフォームが出来ていないのに競技パワーリフターのような可動域の狭いフォームでトレーニングをしていたり、その真逆でボディビルダーが行うようなマニアックに効かせるテクニックを基本をすっ飛ばして行っているような例も散見されます。

その選手に必要な種目を適切なフォームで指導する為には選手にもしっかり理解させて使い分ける必要があります。

「俺は〇〇という目的でこういうフォームでトレーニングしている、でもあなたに今必要なのはこういうフォームだから今は真似しなくていいよ」と言ってあげれば良いと思います。

私の場合はよく選手がワイドスタンスのデッドリフトを真似しようとしてくるので「俺と同じフォームでデッドやりたかったらまずナロウで200㎏あげてからにしろ」と優しく教えてあげます。

まとめ

今回のテーマであるパワーリフティングの挙上距離を短くするテクニック(フォーム)に対してよく
「パワーリフティングの本質は筋力を競うものだから挙上距離を短くして記録だけを伸ばすのは間違っている」
「特にベンチプレスで高いブリッジをしてストロークを短くする行為は一般ウケしないからやめるべきだ」
というような意見を耳にします。

この意見自体はその通りだと思いますし、そのような意見を持つことも発信する事も自由だと思います。

しかしそれと「ルールで規制するべきだ」というのは全く別次元の話だと私は考えます。

先に述べた通りルールを変更する理由は競技を発展させるために選手の安全を護り、公平に競技を行うためであるべきです。

それでも「こんなフォームはパワーリフティングとしておかしい」という理由で可動域を短くしている選手が有利になる事を防ぐようなルールを作りたいのであればスキージャンプのようにしてはどうかと思います。

スキージャンプ競技はジャンプした飛距離点(K点と呼ばれる一定の距離を基準に加算されるポイント)と飛形点と呼ばれるジャンプの美しさ・正確さ・着地姿勢などを飛形審査員が採点するポイントを足した合計ポイントで競われます。

つまりメチャクチャなフォームで(飛べないと思いますが)遠くに飛んだだけでは勝てないようになっています。

これをパワーリフティングでやるとしたら、実際の挙上重量と試技の美しさ・正確さなど(仮に挙形点と呼びます)を足して合計をポイントとして競う事になります。

例えば、挙形点は3名の審判と3名の陪審員で審査し10点満点で最高点と最低点を出した審判のものをカットして残り4名の平均をスコアとしてそのまま加点します。

例)佐名木硬男選手がネタ寝ベンチプレスで100㎏を挙げて白3本成功試技だった。
主審:8点、副審A:7点、副審B:10点、陪審員A:9点、陪審員B:5点、陪審員C:6点
副審Bの10点と陪審員Bの5点をカット
8+7+9+6 = 30
30÷4 = 7.5
挙上重量100㎏ + 挙形点7.5 = 得点 107.5

それに対して佐名木柔男選手がハイブリッジで105㎏を挙げて白3本成功だった。
主審:2点、副審A:1点、副審B:3点、陪審員A:2点、陪審員B:5点、陪審員C:3点
副審Aの1点と陪審員Bの5点をカット
2+3+2+3 = 10
10÷4 = 2.5
挙上重量105㎏ + 挙形点 2.5 = 得点 107.5

このようになります。
審判員の共通認識として「可動域を狭くして重量だけ伸ばすのは好ましくない」という評価基準を設けていれば、パワーリフティングとしてあるべきフォームを推奨する事にもなります。

挙形点をもっと大きくして20点満点とか30点満点とかにすればより強調する事は出来ますが、誰も高重量にチャレンジせず奇麗なフォームで安牌を切る試技ばかりになるのもつまらないので10点ぐらいにしておいた方が良いでしょう。

それでも選手にとって10㎏伸ばすのはブリッジしようが足を広げようが何年もかかる事なのでやらなくなるかもしれません。

しかし日本記録などは実際にあげた重量で認定されるので「試合に負けても記録は残す」という価値観の人と「合計得点で勝って1つでも順位を上げたい」という価値観の人に分かれて面白いかも知れません。

パワーリフターが競っている三種目はパワーリフターにとってはそれ自体が競技種目でありその種目の記録を伸ばす事を目的としたトレーニングを行います。

それに対してパワーリフターではない人にとっての三種目は、ある人にとっては健康を維持するための手段であり、ある人にとっては早く走るための手段であり、ある人にとっては美しい身体を作るための手段であります。

この目的と手段の狭間で誰でも知っているはずの種目で誰からも理解されない問題が起きるのだと私は考えます。

文:佐名木宗貴

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