みなさんこんにちは。
今月もご覧いただき有難う御座います。
SBDコラムニストの佐名木宗貴です。
毎月の事ながら原稿を書いている時期と公開される時期に多少のタイムラグがあるのですが、恐らく皆さんがこの原稿をご覧になる頃はそろそろ梅雨明け間近の頃で、本格的に海やプールで肌を焼きたくなっている頃かと思います。
残念ながら去年に引き続きマスクを外せない息苦しい夏かとは思いますが、日頃鍛えた筋肉により陰影を持たせ数ヶ月の間、美しく見惚れる事も鍛えている者の特権ですので、思う存分夏を楽しんでいただければと思います。
大阪クラス別ボディビル選手権
そんな夏の風物詩と言えば勿論ボディビルコンテストでして、昨年は中止となってしまった大阪クラス別ボディビル選手権大会が今年は6月13日に無観客ではあるものの開催されました。
そしてこの大会に私がポージングなど調整についてサポートしているZIPスポーツクラブ所属の沖田選手が出場しました。
一昨年に同じ大会に出場した際は悔しい2位でしたが、今回は75kg級のリミットギリギリで仕上げライバルを退け、見事に優勝する事が出来ました。
次は8月のMR大阪にも出場する予定ですので引き続きサポートしていこうと思います。
近畿クラシックパワーリフティング選手権大会&ジャパンクラシックパワーリフテインング選手権大会Jr
そして同じ週末の6月12日(土)には近畿クラシックパワーリフティング選手権大会も開催され、私が代表を務めます関西大学S&Cより2名の選手が出場しました。
74kg級 福住昌也(関大重量挙部OB) 優勝
4月の大阪パワーに続いて福住選手が近畿でも優勝、今年も国体代表権を獲得しました。 近畿ブロック代表として関西大学S&Cの代表として国体でも活躍を期待します。
83kg級 藤井崇彰(関大学生S&C OB) 4位
社会人2年目となった元学生S&C主将の藤井選手が1階級上げて83kg級に挑戦し4位に入賞しました。コロナ禍で社会人となり練習環境もなかなか整わないなかでも精力的に試合に出続けており今後益々の活躍が期待されます。
さらにその翌日(6月13日)にはジャパンクラシックパワーリフティング選手権大会も開催され私が監督を務めます関西大学S&Cから1名の選手が出場しました。
74kg級 佐藤悠登(経済学部3年) 7位
大阪パワーでは83kg級に出場していた佐藤選手が本来の階級に戻し7位となりました。
緊急事態宣言が続き大学のジムでもトレーニングが出来ない状況が続く中で、最後まで諦めずに調整を続け、たった一人での出場でしたが立派に戦ってくれました。この経験は必ず後の飛躍に繋がると思います。
アスリートにとっての筋肥大とは?
では今月の話題に入りたいと思います。
冒頭で書いたようにこれから夏本番という事で、いわゆるサマーボディを作り上げるために体育会学生はいつも以上に長くジムに籠り鏡の前でサイドレイズとアームカールをするわけですが…
そもそもアスリートにとっての筋肥大とは本来どのようなものであるべきなのでしょうか?
「競技に必要な筋量があれば良いのだから無駄な筋肉をつけるのはマイナスである」という意見もあるでしょうし、「無駄な筋肉などない!あればあるだけ役に立つのだ!」という考えの人もいるでしょう。
このあたりの考え方と取り組むべき方向性について今回は私見を述べたいと思います。
運動の様式や強度に対する適応としての形態の変化
なかなか良い言い回しが思いつかなかったので小難しい単語を並べましたがご容赦下さい。
例えばスポーツと言っても多種多様ですからアスリートに求められる身体能力も多種多様なわけで、その身体能力を発揮する為に必要とされる、或いは適している形態も多種多様です。
それに個人差が加わりますので結論から言えば「競技特性」+「個人の特性」の組み合わせで必要とされる形態も様々であろうと考えられます。
話しを筋肥大に戻しますと、まず「競技特性」で考えてみると大きく分けて
「筋量が多過ぎる(体重が重い)とパフォーマンスに悪影響がある」という競技と
「筋量が多少多くても(体重が重い)パフォーマンスに悪影響を及ぼさない」という競技に分類できると思います。
例えばスキーのジャンプのような競技では当然下肢を中心に筋力を高め遠くにジャンプする能力を高める事がパフォーマンスの向上に繋がると考えられますが、その一方で体重が重くなればなるほど遠くに飛ぶためにはより大きな筋力が求められるので体重が増えすぎる事はマイナスに働く可能性も無いとは言えません。
またレスリングや柔道といったパワーを必要とする格闘技も階級制である以上はリミットを超えてしまうような筋肉量の増加は適正階級に留まる事が出来なくなってしまったり、減量苦に繋がってしまう可能性もあります。
その他にも筋肉量が増えて筋力が増す事のメリットよりも体重が増加してパフォーマンスが低下する事のデメリットの方が大きいと考えられる特性を持った競技は特に細かなスキルを必要とする競技には多いのではないでしょうか。
その逆に筋肉量が増えて筋力が増す事のメリットの方が、体重が増加して若干動作速度が低下する可能性がある事によるデメリットよりもはるかに大きいという競技も沢山あるでしょう。
例えばラグビーやアメリカンフットボールのようなコンタクト系の競技は身体接触(タックルやヒット)を伴うプレーにおいて体重がより重い方が有利であるという特性があります。
もちろんコンタクトをする際の姿勢の低さやスピードや角度によって体重が軽い選手が重い選手に勝つというシチュエーションもあるかとは思いますが、しっかり準備してあたれば体重が重い方が勝つと考えられます。
接触プレーで優位に立つのはもちろん試合を優位に進めるためにも必要な事ですが、それ以上に外傷を防ぐという意味でも大切なパフォーマンスといえます。
この怪我予防という観点は前者の筋量が増える事がデメリットとなる可能性があるスポーツの選手達も理解しておかねばならない事で、例えばテニスやバドミントンなどのラケット競技や野球やゴルフなどの片側の動作で行う競技などで筋力や筋量のアンバランスからくる腰痛などはウエイトトレーニングで利き手・利き足では無い側もしっかりとトレーニングする事で予防する効果があるのではないかと思います。
このような傷害を予防するという効果もバランスよくウエイトトレーニングで筋量と筋力を獲得すると得られると思いますので、短期的に見たパフォーマンスの向上とは直接繋がらなくても長期的に見ると怪我を予防し競技練習から離脱しない身体を作っていると考えれば間接的にパフォーマンスの向上に繋がっていると考える事が出来ます。
持って生まれた遺伝的な資質と食生活や生活環境による影響以外でアスリートの身体が変化する要因としては、身体が発育し発達していく過程で競技練習から負荷や刺激を受け、それに対する適応として骨格筋が成長し競技に適した体格が作られていくという事が考えられますが、その成長にプラスしてウエイトトレーニングで負荷を加える事で、競技練習で起きるアンバランスを行き過ぎないように調整したり、或いはパフォーマンスを発揮する為に必要な筋肉に対して負荷をウエイトトレーニングで追加して更なる成長がもたらされると考えられます。
しかしウエイトトレーニングでは競技練習に比べると単純な動きが多いため選択するエクササイズによっては鍛える筋肉に偏りが出ます。これが競技による負荷で足りないところや追加して鍛えたい部分を上手くチョイスする事が出来ていれば良いのですが、そうではない場合は競技力の向上には繋がらないのかも知れません。
競技力の向上に繋がらない筋量の増加が競技パフォーマンスにとってマイナスに働くのかどうかは先に述べたように、その競技の特性と個人の特性によると思います。
筋量の増加と筋力
ここまでの話を読んで「いやいや佐名木さん、筋量が増えて体重が増加したってそのぶん筋力が増えてたら重くなっても動けるんちゃいますの?」という方もいると思います。
確かに理想はその通りで、筋量の増加に比例してそれを使いこなす筋力が向上していくのなら筋量の増加がパフォーマンスにマイナスに働く事など有り得ないはずです。
しかし現場ではそうはなっていない事例がたくさん見られるというのも事実です。
トレーニングを勉強したり少し調べた人なら誰でも聞いた事があると思いますが、基本的に「筋力は筋の横断面積に比例する」という筋トレによるサイズアップ支持派にとっては経典に近い研究結果があります。
これによってレジスタンストレーニングによって引き起こされた筋サイズの増加は筋力とスポーツパフォーマンスを向上させると結論付けているわけですが、その一方でトレーニングによる筋量の変化は、より大きな筋力の向上に寄与しないと結論付けている研究も存在します。
筋力の向上には筋肥大による貢献度よりも神経系機能の改善が大きく関与していることを示したうえで筋肥大トレーニングはスポーツにおいて最小限に留めるべきであると結論付ける研究もあるのです。
このように筋肥大と筋力、そして競技パフォーマンスとの関係についてはまだまだ議論の余地が残るところとなっていますが、少なくとも筋量は増えたのに筋力が伸びていないとか、競技パフォーマンスに繋がらないという選手個人の感覚があるのでこのような議論も起きるのだと思います。
筋肥大の種類
アスリートが筋肥大をする場合、大きく分けて3つのパターンがあると私は思っています。
1つ目はトレーニングで筋を肥大させようと狙って筋肥大するというパターン。そして2つ目はトレーニングで筋力やパワーを強化しようとして結果的に対象となる筋群が肥大するというパターン。3つ目は競技練習の中で基礎となるスキルや基本姿勢を反復し習得する過程で特定の筋群に負荷がかかり肥大する。
この3パターンかと考えます。
大きくなった筋肉をメジャーで計測して太さを調べてもその内容までは分かりません。恐らくMRIやCTで輪切りにして太さを計っても筋細胞の中で何がどうなって太くなったかはわからないでしょう。
つまり肥大した筋肉の内容を知るためには最大挙上重量や速度を測定しパフォーマンスと照らし合わせる事が必要です。
筋肉が肥大する際の変化については大きく分けて筋原線維の肥大と筋形質の肥大に分かれると言われています。
筋原線維の肥大とは筋肉の収縮部分である筋原線維の肥大のことで、筋形質の肥大とは筋細胞内の筋原線維以外の部分、細胞膜であったりミトコンドリア、筋小胞体、T管、酵素などの細胞液の増加による肥大をさします。
先に記したアスリートが筋肥大するパターンの中では2つ目の筋力やパワーを強化する目的で行うような高強度で低回数のトレーニングでは筋原線維の肥大が起きるのではないかと言われています。
そして低負荷で高回数のいわゆるパンプアップを狙ったようなトレーニングでは筋形質の肥大が起こるのではないかと言われています。
言い換えれば物理的なストレスに対しては筋原線維が肥大する事で適応し、化学的なストレスに対しては筋形質が肥大する事で適応するとも言えると思います。
筋原線維の肥大は筋力の向上に良い影響を及ぼすと言われていますが筋形質の肥大はあまり良い影響を及ぼさないとも言われていますので、この辺がアスリートの筋肥大についてのキーポイントかも知れません。
筋肥大を目的とした負荷設定でトレーニングを行う意義
筋肥大に必要な負荷設定については伝統的に8~12回ぐらいの負荷で3~5セットという設定が好まれていますが、最近の研究では高負荷・低回数であろうが低負荷・高回数であろうがどちらでもオールアウトに達する事が出来れば筋肥大は起こるという結果が発表されています。
では筋肥大を目的としたトレーニングはどんな重さでやっても良いのかといえば私はそうではないと思っていて、何故こんなに10回3セットが好まれているのかというと呼吸を乱さずコントロールしながら反復できるちょうど良い負荷が10回程度だからだろうと思っています。
しかし先に記した通り高負荷・低回数でも筋肥大するのであれば筋力の向上も狙える5RM未満の重量でトレーニングをした方が効率が良いと言えます。
では5回以上の反復回数のトレーニングはアスリートにとって意味のないトレーニングでしょうか?
私はそれも違うと思います。
あたり前の事ですが5RMのトレーニングを安全に行う前提条件として6~10RMを安全に行う事の出来る能力が、必要だからです。
恐らく皆さんも初めてウエイトトレーニングを習った時は10回3セットか或いはもっと回数の多いセット法を勧められたはずです。
それはずっとその回数でやってろと言う意味ではなくて安全にウエイトトレーニングを行う事の出来る体力と技術を養うためにある程度の反復回数が必要だからです。これはどんなスポーツでも同じ事ですよね。
アスリートにとっても同じ事です。
最大筋力やパワーの向上を目的とした負荷設定や挙上速度でトレーニングを実施する前提となる筋力や動作の安定性を得るためにも10回周辺で複数のセットを行うトレーニングは最適であると私は考えます。
また筋肥大を得るためのセット数についても私がトレーニングを始めた1998年頃は1セットでオールアウトするヘヴィデューティの全盛期でしたが、近年の研究ではセット数は少ないよりも多い方が良いと結論付けているものもあります。
総ボリュームで言うと1部位あたり週に12~15セットぐらいが適量だろうという報告も見られます。
では低負荷・高回数でオールアウトさせても筋肥大するからといって例えば100回でオールアウトする、またはオールアウトに近い状態まで持って行くプッシュアップを週に15セットもしたいですか?
その逆に1回でオールアウトする、またはオールアウトに近い状態になるベンチプレスを15セットやったとして本当に15セットも100%の1RMが出来るでしょうか?怪我をするリスクも考えると得策でしょうか?
こう考えると10回周辺でオールアウトさせるのがテクニック的にもメンタル的にも所要時間と効果のバランスを考えても適しているのだと私は思います。
まとめ
今回はスポーツ選手が筋肥大を目的とした負荷設定でトレーニングをする事についての私なりの考え方を纏める回となりましたが、如何だったでしょうか?
ウエイトトレーニング=筋肥大
というような考えを持っていた方にとっては少し違和感があるかも知れませんが、私はウエイトトレーニングもアスリートが競技力を向上させるための一つの手段でしかないと思っています。
ある人は速く走るために、ある人はモノを遠くに投げるために、ある人は高く飛ぶために、その能力を高めるためにウエイトトレーニングで得られる効果を利用するのです。
もちろんアスリートが競技力の向上とは関係なく好きで身体をビルドアップしたいのであればそれはそれで良い事だと思います。その結果競技力が伸びるかも知れませんし変化はないかも知れませんし、落ちるかも知れません。
私が普段指導しているコンタクト系の球技や格闘技、ラグビー・アメフト・アイスホッケー・柔道などでは下半身のトレーニングについてはボリュームや強度、疲労のコントロールなどは怪我を防ぐためにかなり神経を注ぐところではありますが逆に上半身のトレーニングについては「好きなだけやれ!」という感じでやり過ぎる方にはあまり制限はかけていません。
もちろんボールが投げられなくなったりとか筋痛が残りフォームを乱すようであれば止めますがそこまでアホな選手は私の周りにはあまり見られません。
チームで指定したメニューが終わってから15~20分ほど残って肩や腕をトレーニングしている選手の方が身体作りに対する意識も高くメンテナンスもしっかりやっている選手が多い印象です。
コーチとして選手の運動量をコントロールしたい気持ちもありますが自主的にウエイトに向かう選手の勢いを止めるような事もしたくないのが本音というところです。
夏に向けてのボディメイク筋トレは男の浪漫ですから皆さんも存分に楽しんでいただければと思います。そして筋肉をつけたからには「それ無駄やんけ!」とは絶対に言わせないパフォーマンスを競技でも見せつけて欲しいものです。
文:佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 245kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg
戦跡
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝
・世界クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1-83kg級 5位
・ジャパンクラシックマスターズパワーリフティング選手権大会83kg級 優勝
・香港国際クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1₋83kg級 優勝
・世界クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1₋93kg級 6位
ボディビルディング
2000~2001年 関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年 全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年 日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年 関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝
指導歴
・ZIP スポーツクラブ チーフトレーナー
・正智深谷高校ラグビー部 S&Cコーチ
・埼玉工業大学ラグビー部 S&Cコーチ
・正智深谷高校女子バレーボール部 S&Cコーチ
・正智深谷高校男子バレーボール部 S&Cコーチ
・トヨタ自動車ラグビー部 S&Cコーチ
・関西大学体育会 S&Cコーディネーター
資格
日本トレーニング指導者協会認定 特別上級トレーニング指導者
NSCA認定 CSCS
日本パワーリフティング協会公認 2級審判員
日本ボディビル・フィットネス協会公認 3級審査員