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短縮性筋活動のみのトレーニング (筋性疲労をマネジメントできる可能性)

みなさんこんにちは。
今月もご覧いただき有難う御座います。
SBDコラムニストの佐名木宗貴です。

さて夏の後半が雨ばかりで涼しかった反動か?は分かりませんが、なかなか残暑の厳しい今秋ではありましたが、皆さん秋を楽しむ事は出来ていますか?

私は基本的に「食欲の秋」しか頭に無いものですから大好きな秋の味覚である柿と栗ご飯をトレーニング前の炭水化物として美味しく頂き元気いっぱいトレーニングが出来ています。

実は先月と先々月で書いたように今年の夏は周りの学生やトレーニング仲間達がボディビルコンテストで健闘しましたので、その姿に感化され恥ずかしながら私も9月の中旬頃からダイエットを始めました。

95.5~96kgという酷い状態からのスタートでしたが現在4週間ほど経ったところで92.0~92.5kg辺りを彷徨っていますので3~3.5kg程度落ちた事になります。

特に難しい事をしているわけではありませんが摂取カロリーを2200~2300Kcal程度に抑え週3~4回、1回60分~90分程度のウエイトトレーニングを必ず行っています。

ただこれだけの事ですがキッチリカロリー計算をするダイエットは大凡10年ぶりですので最初の2週間はかなりきついものがありました。

またパワーリフティング3種目以外の種目もきちんとサイクルを組んで部位分けしてトレーニングをする事もかなり長い間サボっていたため毎朝全身がダルくベッドからなかなか起き上がれないぐらいの筋肉痛が次のトレーニングまでそのまま残るような日々でした。

しかし2週間を過ぎた頃から体重が落ちはじめ身体の調子も良くなり、久し振りに会う学生にも「ちょっとシュッとしはりました?」と言われるようになりました。

ダイエットというのはきつかろうが何だろうが結果が出ていると頑張れるものです。この調子で年内に80kg台に落とせるように頑張って成功すればまた内容の詳細をコラムでレポートさせていただきます。

短縮性筋活動のみのトレーニング

では今月の本題に入ります。
今月はトレーニング動作の中から伸張性の筋収縮、つまり筋肉が引き伸ばされるような動作を省く、或いは起きないようなエクササイズ、つまり短縮性の筋活動のみのエクササイズを紹介し、普段のプログラムの中でどのように活用しているのかについて一例をご紹介させて頂こうと思います。

最初に注意しておきますが、文中の例でバーベルを落下させたりラックに勢いよく落とす様な動画が含まれますが、実施する際は各施設で必ず許可を取り怪我の無いよう注意して行うようにして下さい。

特にパワーリフティング競技で現在、国内ルールとして禁止されているデッドリフトの脱力落下などに対して助長するような意図で書いている訳ではありませんので誤解の無いよう宜しくお願いいたします。

ではまず短縮性の筋活動のみのエクササイズとはどのようなものでしょうか?
いくつか例を示してみましょう。
まずは一番簡単な例でドロップするデッドリフトです。

恐らく一般的なフィットネスクラブのスタッフが見たらダッシュで注意をしに来る種目ですが、通常のデッドリフトから短縮性の筋活動のみを取り出すとこうなります。
次にラックの中で行うスクワットやベンチプレスです。

これも一般的なフィットネスクラブや公共施設で行うとスタッフが「大丈夫ですか!」と心配して飛んで来るかも知れませんね。

このようにウエイトトレーニングの動作の中から「おろす」動作。主動筋やそれと協働する筋群が重力で「引き伸ばされるのに耐えながら収縮する」局面を無くす(完全には無くなりませんが)ようにエクササイズを工夫する事があります。

ではこのようなエクササイズを行う利点とは何でしょうか?それには逆にこのカットされた“筋が抵抗しながら引き伸ばされる”局面で起こる“エキセントリック収縮”で得られるメリットとデメリットについて理解する必要があります。

エキセントリック収縮のメリットとデメリット

エキセントリック収縮のメリットはなんと言ってもトレーニング強度の高さと筋肥大に対する効果の高さです。コンセントリック収縮がアクセルだとすればエキセントリック収縮はブレーキの役割と言えますが、力を発揮すると言えばアクセルの方が大きな力を発揮していると思われがちですが、実は勢いを止めるためのブレーキの方が大きな力が必要です。筋肉も同じで短縮するよりも伸張に耐える時の方が実は強い力を発揮します。

例えばベンチプレスで100kgを挙上する事の出来る人がいたとします。残念ながら101kgのベンチプレスに挑戦すると潰れてしまいますが、101kgのベンチプレスのスピードをコントロールして降ろす事は出来ていました。

これはベンチプレスの主動筋とそれと協働する筋肉に対する負荷で言うとコンセントリック収縮は100kgまでしか出来ませんでしたがエキセントリック収縮は101kgに成功したという事です。

つまり筋肉により強い負荷をかけたい場合は、筋肉が短縮する事は出来ないけれど耐えながら伸張する事は出来る負荷をかけた方がより強度の高いトレーニングとなります。
これが筋肥大を目的にしたトレーニングでは、所謂「ゆっくりおろした方が効果的」という表現になって教えられます。

逆にデメリットは遅発性の筋肉痛などに代表される筋肉性の疲労が残存しやすいという事です。伸張性の筋活動は発揮する力が大きい事とその高負荷で筋線維が引き伸ばされることから、筋の損傷が引き起こす筋痛や疲労、炎症などが起きやすいとされています。

「いやぁ~!今日は筋肉痛バッキバキでベッドから起きれなかったよ~昨日の脚トレが効いているな~」とボディビルダーならば逆に喜ばしい痛みではありますが、その他の競技アスリートにとっては一時的にパフォーマンスが低下してしまう可能性もあり、あまりにもリカバリーに時間がかかるような筋肉痛はあまり歓迎されるものではありません。

リカバリー不足が原因でスキル練習の質が低下し、また疲労性の傷害も起きる事が考えられるからです。実際に筋肉痛や筋性疲労が残った状態でスキルの練習を行うことは非効率であると結論付けた研究もあります。

伸張性の筋活動を取り除く事でトレーニング効果と疲労をマネジメントする

では上記のようなメリットとデメリットのある伸張性の筋活動を取り除き短縮性の筋活動のみのトレーニングを行う利点は何でしょうか?それはトレーニングによる疲労をマネジメントする事にあると私は考えます。

特に試合期ではトレーニングの効果は得たいのだけれど、それに伴う疲労の影響は最小限に留めたいと考えるものです。そのためウエイトトレーニングだけでなくフィールドでのトレーニングも併せて伸張性の筋活動を減らし短縮性の筋活動は維持すると良いのではないかと考えます。

また短縮性の筋活動のみを行った場合でもヒトの骨格筋の形態的適応を誘発し、筋力の増大を促進できると結論付けている研究もあります。

例えばメディシンボールを全力で投げたりタイヤを押したりするのも短縮性の筋活動にあたりますね。或いは自転車の全力走も同じく短縮性の筋活動でのトレーニングと言えます。競輪選手の太ももを見ればわかる通り自転車を使用したトレーニングでも筋を肥大させる事が可能であると結論付けている研究もあります。

その一方で短期的に効果を得るには通常のウエイトを使ったレジスタンストレーニングの方が効果的であると結論付けている研究もあり様々です。

先の動画で示したような例で言うと、ウエイトトレーニングで短縮性の筋活動のみを行おうとした場合、伸張性の局面で筋に蓄えられているはずの弾性エネルギーを使用する事が出来ませんので、より大きな短縮性筋力を求める事になります。スポーツの中にも静止した状態から爆発的に動作を開始するような局面は多く存在すので特定の競技パフォーマンの向上を狙ったトレーニングとなる可能性もあります。

まとめ

短縮性の筋活動が中心となるエクササイズはどちらかというとジム内よりもフィールドで行われるトレーニングの中に多く存在して、先にも述べたようなメディシンボールやスラムボールを使ったエクササイズやタイヤやスレッドを押したり引いたりするエクササイズ、ハンマーで叩いたりロープを振ったり自転車を漕いだりローイングエルゴを漕いだり様々な方法があります。

試合期に筋肉性の疲労を貯めずに筋力を維持または向上させる為にこれらを活用する事はとても良いマネジメントであると思いますがパワー系の競技ではやはりウエイトトレーニングを継続し強い刺激を与え続ける事も重要です。

私の職場ではバーベルをドロップする事が出来る環境を整えていますので、試合期に腰背部やハムストリングスに刺激は入れたいけど筋性疲労は長引かせたくないという場合にデッドリフトをあえてドロップするように指示する事があります。

その他の種目でも取り入れる場合はありますが動作が短縮⇒伸張の順で起こるチンアップなどのローイング系の種目では取り入れやすく、逆に伸張⇒短縮の順で起こるエクササイズでは取り入れにくいです。

今回は一つの考え方として短縮性の筋活動にフォーカスしたエクササイズの利点について考えてみました。繰り返しになりますがお試しになる場合は必ず施設管理者の了解を得るようにしましょう。

文:佐名木宗貴


ベスト記録(ノーギア)
スクワット 245kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg

戦績
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝
・世界クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1-83kg級 5位
・ジャパンクラシックマスターズパワーリフティング選手権大会83kg級 優勝
・香港国際クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1 83kg級 優勝
・世界クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1 93kg級 6位

ボディビルディング
2000~2001年 関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年    全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年    日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年    関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝

指導歴
・ZIP スポーツクラブ チーフトレーナー
・正智深谷高校ラグビー部 S&Cコーチ
・埼玉工業大学ラグビー部 S&Cコーチ
・正智深谷高校女子バレーボール部 S&Cコーチ
・正智深谷高校男子バレーボール部 S&Cコーチ
・トヨタ自動車ラグビー部 S&Cコーチ
・関西大学体育会 S&Cコーディネーター

資格
日本トレーニング指導者協会認定 特別上級トレーニング指導者
NSCA認定 CSCS
日本パワーリフティング協会公認 2級審判員

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