みなさんいつもご覧いただき有り難うございます。
SBDコラムニストの佐名木宗貴です。
暦のうえでは冬に近づいている頃ですが皆さま秋を楽しむことは出来ているでしょうか?
私は大好きな柿をトレーニング前に、そしてもっと好きな栗ごはんをおにぎりにしてトレーニング後に食べて秋の味覚に浸りつつも、ジムから外に出た瞬間の肌寒い風に冬がすぐ近くまで来ていることを感じる日々です。以前は夕食の蛋白質源として重宝していた秋刀魚の価格が高騰して頻繁には食卓に並ばなくなったのが残念なところです。
さてそんな過ぎ行く食欲の秋を惜しむ時期ですが、秋真っ盛りの10月まで飽食とはほど遠い戦いをしていた選手たちのご報告からさせて下さい。
1人目は何度もこのコラムでご紹介させて頂いている村上勝英選手です。
今シーズンの締めくくりとして10月9日(日)に地元大阪で開催された日本ボディビル界最高峰の大会「MR日本」に出場しました。
結果は残念ながら2次ピックアップで敗退してしまいましたが、
今シーズンベストなコンディションで大会にのぞむ事が出来ました。
惜しくも決勝に残ることは出来ませんでしたが、その内容が非常に僅差であったことは会場にいた誰もが認めるところだと思います。しかし一撃ではヒビすら入らない厚い壁がMR日本の2次ピックの壁です。それはここに至るまでの大会でも同じ事で、或いは数年かけて、一撃・二撃・三撃と与えてヒビを入れておいて、ようやく本番で打ち破ることが出来るのがこの壁です。そういう意味では今年一撃を与えたのはとても重要なことだったと私は評価しています。
来年また二撃・三撃を与え、最後にトップ12に入ることが出来るように、このオフで課題の克服に取り組んでもらいたいと思います。
2人目も今シーズン何度もこのコラムでご紹介させて頂いてきた、関西大学学生S&CのOG、国田海月選手です。
まず先月のコラムでご報告できていない部分から書くと
10月1日に東京都北区で開催されたJBBFフィットネスジャパン・グランドチャンピオンシップス2022ビキニフィットネスに出場しました。この大会はその年の主要大会で上位に入賞した選手だけが出場する事が出来る大会で、フィットネス版のMR・MS日本のような大会と言えます、普段は身長別で争われるフィットネス競技ですが、この大会は全てのカテゴリーがオーバーオールで争われます。
結果は残念ながら予選を通過することが出来ませんでしたが、昨年までは雑誌やインターネットで見て憧れる存在であった日本のトップ選手たちと一緒にステージで並び戦うことが出来たのは素晴らしい経験でした。このステージに来年以降も立ち、しっかりと勝負が出来る存在となるよう、引き続き頑張って欲しいです。
そして国田さんはその後、10月18日より韓国の栄州市で行われた「ワールドチャンピオンシップス」にビキニフィットネスの日本代表として出場し、一般の158cm以下のクラスでは残念ながら予選通過はなりませんでしたが、ジュニア21~23歳の160cm以下のカテゴリーでは見事に3位に入賞しました。
また本人にも色々とインタビューしてみようと思うのですが、私的には持てる力を発揮し日本代表としての責任を果たした結果ではないかと評価しています。ただ社会人2年目にして初めて経験する、非常に長いシーズンであったと思うので、まずは身体を休めて職場や周りの方々への感謝と恩返しを優先し、そのうえで冷静に振り返りながらこの経験を次に活かすべくまた頑張って欲しいと思います。
【トレーニングパートナーの重要性】
さてそんなこんなでJBBF系列の大会はようやくこれにて一段落が付いたといったところでして、私の方もそろそろ自分のトレーニングを頑張らなくちゃなとスイッチを入れようとしているところです。
とは言え9月の後半ぐらいから1月末までは色々と忙しい時期なので、あまりゆっくりと時間をかけたトレーニングは出来ないため「週に1回ぐらいは強度の高いトレーニングをしよう」と考え、比較的時間のとれる金曜日の午前中に授業のない学生S&Cのメンバーを1人ピックアップして週に1回だけですがトレーニングパートナーを組むことにしました。
今年の関西学生フィジークに出場していた学生なのですが、仕上がりは非常に良かったもののバルク不足で上位に進出できませんでした。
もちろん私自身も週に1回ちゃんとした補助をもらってトレーニングすることで身体を向上させようと思っているのですが、彼にとっても自分よりも筋力の強い私と一緒にトレーニングをすることで自分だけでは辿り着く事の出来ないレベルの負荷を週に1回は身体に与えることが出来るため、お互いにとって有意義な時間となっています。
今のところは壊れることなく私のトレーニングに食らいついてきているので、このまま1月末までは継続して高め合えればと思っています。
そこで今月はボディメイク競技者にとってのトレーニングパートナーの重要性と注意点を私の経験談も踏まえて語ろうと思います。
【回数や重量で張り合える関係】
最初に言っておきたいのは私自身の基本的な考えとしては「トレーニングは自分1人でも限界まで追い込むことが出来るように努力する方が良い」と思っています。
「誰かがいないと頑張れない」というのは好きではありません。
なのでパーソナルでトレーニングをサポートする際も「完全に任せっきり」というのは「依存する」関係を作ることに繋がると思いますので、人間関係として受け入れようとは思いません。
自律したアスリートとしての人間関係を望みます。
そのうえでお話しするのですが、私のトレーニング人生の前半は常に屈強でレベルの高いトレーニングパートナーに恵まれていました。
自分の身体が大きくレベルアップした時期には必ず、身体も心も限界を突破し、未知のレベルに引き上げてくれる強烈なパートナーがいてくれました。
最初の頃は自分よりも筋力が強く経験値も高い人とパートナーを組むことが多く、格上の相手から様々な方法やテクニックを学びながら挑んでいくスタイルが自分を大きく成長させてくれました。
その後、自分がある程度のレベルになってくると自分よりも若い大学生とパートナーやグループでトレーニングをしていた時期がありました。
こちらは逆に学生達は1種目でも1セットでも私に勝とうとチャレンジしてくるので、私も負けないように張り合うことで、お互いに高め合う関係が構築されました。
また自分より若い選手と一緒にトレーニングすることはスタミナの面ではかなりキツい戦いを強いられる場合もあり、結果的にボリュームの面でもかなりの量をこなすことに繋がりました。
どちらの場合も重要なのは回数や重量で張り合える関係が作れるかどうかということです。
年齢や立場で上下の関係があったとしても、お互いに勝負する感情があるかどうかが重要です。それは何も重量や回数で勝てなくても「あと1回」と相手が言ったのに対して「絶対2回やってやる」と答える気持ちでも構いませんし「そろそろラストにするか?」と聞かれたのに対して「あと2セットやります」と答える気持ちでも構いません。何かしらの形で相手を上回ってやるという気持ちで対峙する事が重要かと思います。
【トレーニングのテンポが上がる】
先ほど若い選手とパートナーを組むのはスタミナ面で苦戦するというように書きましたが、これは何も単純な練習時間やボリュームだけの話ではなくてインターバルの短さなども同じ事です。
特に肩や腕などネチこくパンプとボリュームで重ね塗りしていくトレーニングではテンポ良くセットをまわしていくことも重要です。そこで高め合えるパートナーは相手のセットが終わったらすぐに自分のセットを始めてテンポアップしてくるパートナーです。
「俺は全然疲れてないぜ」「まだまだ元気だぜ」と言わんばかりに重りに飛びつき、相手の休息時間を奪うかのようにテンポアップさせてきます。こちらもそれに対して引くわけにはいかないので「絶対に先に休憩しない」と意地を張りどんどん筋肉がパンパンになっていきます。
相手がセットを行っている間は、鏡越しにへばった顔を見せないように涼しい顔で回数をカウントしながら呼吸を整え、相手がセットを終えると待ちきれない様子で自分が始める。
夢中で繰り返すうちに「今何セット目だろう」と分からなくなってきますが「今何セットやっけ?」と先に聞くと負けた感じがするので考えないようにして耐久力勝負へ突入します。
「終わらないサイドレイズ」
「終わらないプリーチャーカール」
なんて事も良くある話です。
結局どちらかがトイレに行きたくなるか、握力がなくなり水が飲めなくなると終了となるパターンが多いですが、このような形で張り合いながらテンポを上げることも1人ではなかなか到達できないパートナーを組む利点と言えます。
【欲しい補助が安定してもらえる】
どんな優秀なパーソナルトレーナーでも初見ではタイミングを外してしまったり、欲しいところではないところでアシストしてしまったりと、必要なところを見極めるのには時間が必要です。
しかし毎回一緒にトレーニングしているパートナーなら
「そろそろだな」
「いや、この顔はまだここから3発はいく」
「この人はここから粘るんだよな~」
「そしてネガだけ異常に強いんだよな~」
等というように阿吽の呼吸で「欲しい補助」が安定してもらえるようになります。
(※とことんセンスの無い人は別ですが)
これは同じ人に同じ狙いで同じ種目を繰り返し補助してもらわないとニュアンスが完全には伝わらないものです。
「最初ガツガツ5まで行くからそっから強めで深いネガを5で、そのまま弱めネガの3秒ポーズのパーシャル気味を5くれた後にポンポン5で死んでなかったらノンロックをネチネチ3ぐらいちょうだい」
これを聞いて一発で何をして欲しいか理解できるのが良いパートナーです。
また自分が疲労困憊で精神的に保守的なセットを選択してしまいそうでも、互いに弱みを曝け出しているパートナーであれば駄目な時なりの追い込み方を伝えられるものです。
文章にするのすら表現が難しい部分ですが「駄目な日に駄目なりに追い込めた」というのは特にダイエット中のトレーニングでは調子の良い日の「会心の一撃」よりも重要なトレーニングとなるのです。
【馴れ合いは別れの時期】
さて様々なメリットが考えられるトレーニングパートナーですが、ここまで紹介してきたような良い部分がなくなってしまう場合があります。
それはお互いを高め合うことの出来ない状態、つまり「馴れ合い」です。
この「馴れ合い」がジムの中で起こるような関係になってきてしまったらパートナーを解消するタイミングでしょう。
例えば一方が真剣にセットに入ろうとしているときに相手は別のことを考えていたり、余計なことを喋ってきたり、そういう緊張感を共有できなくなったりしたら終わりの時期です。
またトレーニング中でも、自力で全力を尽くす前に補助者に頼ってしまったり、その逆で相手のことを考えずに適当な補助を入れてしまったりするのであれば、もうお互いが高め合える関係とは言えないでしょう。それぞれのトレーニングに集中できないような状況であれば迷わずパートナーを解消するべきです。
ジムはただ単に身体を追い込むハードコアな場所というだけでなく、時に大人の社交場としての機能も果たします。最近は1人で音楽を聴きながらトレーニングに没頭する人の方が多いかも知れませんが、同じ趣味をもつ仲間とのコミュニケーションもジムの持つ魅力の一つだと私は思います。
しかしこの2つの空気の境界線が見極められないような状態に陥ってしまったのなら、或いはパートナーと空気感を共有できない状態になっているのなら1人でやった方がマシかも知れません。
【まとめ】
ボディメイク系競技の選手がより質の高いトレーニングを行うために、トレーニングパートナーを組むことは非常に有効だと思います。
コンテストに出場するということはそれなりの覚悟がなければ出来ないことですし、途中で逃げたくなったとき、信念を曲げたくなったときに共に戦うことを誓ったパートナーがジムで待っているとすれば踏み止まることも出来るでしょう。
また筋肉は短縮する局面よりも伸展する事に耐える局面の方が大きな力が発揮できるので、トレーニングでは「短縮させることが出来なくなって終了してしまう」だけでは力を残して終えてしまうということになります。しかし安定した補助者がいれば様々なアシスト方法を駆使して濡れ雑巾を絞り上げ最後の1滴を絞るようなレップを繰り返すことが可能となります。
限界まで追い込むことに否定的な意見もありますが、ボディメイク系の競技で上位にいる人はだいたい皆さん、それ以外の人に比べればハードなトレーニングを行っています。(ナチュラルの場合)
ハードに追い込まない方が大多数の人にとって良いというデータがあるとしても、あなたが目指すのは大多数の人と同じレベルの身体でしょうか?恐らく違いますよね。ではあなたがなりたいトップレベルにいる人、つまり統計学的にいうと外れ値の人たちは生まれつきそこにいたのでしょうか?恐らく違います。恐らく少しずつ少しずつ限界値を引き上げながら限界までやっても回復できる身体になっていったのだと私は考えます。
話を戻しますが、限界まで追い込むという行為は当然、怪我や疲労させすぎる可能性もある諸刃の剣です。
一歩間違えれば怪我にも繋がる行為ですから、余程の信頼関係がなければそこに至る過程を他人の手に委ねるべきではないでしょう。
では信頼関係とは何か、それは互いの状況を曝け出し理解することです。
強みも弱みも、格好いいところも情けないところも見せ合って、認め合って作り上げる信頼関係です。
しかしここの匙加減が分からないと泣き言と弱音を交差させ、傷を舐め合う関係になってしまいます。
一人で淡々とやって誰の力も借りずに結果が出るのを楽しむのもボディメイクの楽しみ方の一つですが、パートナーを組んで切磋琢磨しながら共に高め合う事も一つの楽しみ方です。
良いパートナーと巡り合うか、または良い関係を構築できるかは、お互いのコミュニケーション能力によるのかも知れません。
文:佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 245kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg
戦績
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝
・世界クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1-83kg級 5位
・ジャパンクラシックマスターズパワーリフティング選手権大会83kg級 優勝
・香港国際クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1 83kg級 優勝
・世界クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1 93kg級 6位
ボディビルディング
2000~2001年 関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年 全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年 日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年 関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝
指導歴
・ZIP スポーツクラブ チーフトレーナー
・正智深谷高校ラグビー部 S&Cコーチ
・埼玉工業大学ラグビー部 S&Cコーチ
・正智深谷高校女子バレーボール部 S&Cコーチ
・正智深谷高校男子バレーボール部 S&Cコーチ
・トヨタ自動車ラグビー部 S&Cコーチ
・関西大学体育会 S&Cコーディネーター
資格
・日本トレーニング指導者協会認定 特別上級トレーニング指導者
・NSCA認定 CSCS
・日本パワーリフティング協会公認2級審判員