コラムニストの福島未里です。
先日の2022年度ジャパンクラシックパワーリフティング選手権大会にて一般女子57kg級で優勝し、ベンチプレス(113kg)とトータル日本記録(423kg)を樹立することができました。
初めて試合に出場したのは大学生のときで、ベンチプレスの記録は60kg。
11年と5ヶ月で53kg記録が伸びました。
今回は今までの私自身のトレーニングを振り返り、ベンチプレス100kgに到達するまでのきっかけについてお話しするコラムです。
目次
1. 私自身のパワーリフティングの歴史
2. ベンチプレス競技のみに取り組んでいた際のトレーニング
3. 90kgの壁を越えた時
4. 100kgの壁を越えた時
5. その他の原因
6. 現在のトレーニング
7. 最後に
8. 参考
1.私自身のパワーリフティングの歴史
私がパワーリフティングを始めたきっかけは、学生時代にさかのぼります。
スポーツジムでアルバイトしていた私はジム内でトレーニングをしていました。
その時、パワーリフターのお客様に「あなたはベンチプレスが強いから一回大会に出てみたらいいよ」と声をかけられました。
パワーリフティングのことを何も知らない私は大会がどういったものかもわかりません。
怖いから出たくないと思い断ったのですが、その方が申込用紙と新品のリストラップを持ってきて「これをやるから出ろ!」と無理やり渡してきたので、最初はしぶしぶ出場を決めました。
その時に出場したのは2011年10月の第10回東京都ベンチプレス選手権大会。
女子Jrノーギア57kg級で出場し、60kgの記録で優勝しました。
そこから、フルギアで全国大会や世界大会・アジア大会を経験したり、スクワットデッドリフトも含めたパワーリフティングに挑戦したりと、詳細は割愛しますがパワーリフティングとは現時点で12年弱の付き合いです。
初めて出た東京都ベンチプレス選手権大会
2.競技を始めたばかりのトレーニング
東京都ベンチプレス選手権大会に出場したことをきっかけに、大学時代はバーベルクラブに所属しトレーニングに励みました。
トレーナーを養成する学科に属していたため、自分の体を鍛えるというよりは勉強も含めてという意識が強かったです。
バーベルクラブの先輩方は男性しかいませんでした。
倉庫のような狭いトレーニングルームで、お互いに譲り合いながら一生懸命にトレーニングをしていたのを今でも覚えています。
その時のトレーニング内容ですが、「ベンチプレスには胸のトレーニングだろう」とバイト先で習ったトレーニングと、教科書に載っていたベーシックなトレーニングをひたすら繰り返していました。
ラック高が低くならなくて大変だった懐かしいベンチプレス台
主にやっていたメニュー
・ベンチプレス その日の1repMaxまで→10rep×3set
・ダンベルプレス 6rep×3set
・ダンベルフライ 10rep×3set
・ケーブルクロスオーバー 10rep×3set
・プッシュアップ 限界まで×3set
初めて大会に出場してからベンチプレスの重量は以下の図のように推移しています。
この図を見るとわかるように最初の2年4ヶ月で30kg重量が伸び、2011年から2016年にかけては大きく記録を伸ばすことができました。
ここ最近はずっと横ばい状態でしたが、先日のジャパンクラシックパワーリフティング選手権大会で久しぶりに自己ベストを更新することができました。
3kgを伸ばすのに4年と5ヶ月かかっています。
3.90kgの壁を越えた時
80kg台から90kg台は「クレアチン」で突破しました。当時はサプリメントなんて全く使ったことがなく、知っているサプリメントといえばプロテインくらいでした。
トレーニングについて勉強する過程でクレアチンの存在を知り、すぐに取り入れました。
そもそもクレアチンとは体内で生成される有機化合物で、身体のすべての細胞へのエネルギー供給を手助けします。
パワーリフティングやウェイトリフティングのように、重たいものを何か一瞬で持ち上げようとするときには一瞬息を止めて最大限のパワーを発揮します。
この時体内ではアデノシン三リン酸(ATP)と呼ばれるエネルギーが使われて、アデノシン二リン酸(ADP)と呼ばれるエネルギーへと変化します。
そしてこのADPにクレアチンが作用して再度ATPを作り出してくれるのです。
つまり短時間の高強度エクササイズを繰り返しおこなうことを助けてくれています。
さて、ここからわかるようにクレアチンには高強度の運動を持続する能力が改善しますが、この状態でトレーニングに取り組むことにより通常の練習で扱う重量が明らかに増えました。
練習でしっかりと重量を積むことができ、結果的にMax重量も伸びたのです。
補足ですが、クレアチンは普通のサプリメントと少し違った摂取の仕方をします。
典型的な摂取法として1日20〜25g(または体重1kgあたり0.3g)を5日〜7日間摂取し、体内のクレアチン濃度を高めるローディング期の後、1日2g摂取するメンテナンス期でそれを維持します。
また、クレアチンの摂取には一般的に体重増加が伴います。
原因は主に除脂肪体重増加や水分量の増加です。
体重の変化には個人差がありますので、減量がある方のクレアチン摂取はある程度体重をコントロールした上で行いましょう。
ちなみに私はクレアチンを摂取してもさほど体重は増えません。
クレアチン摂取を中止すると4週間で筋クレアチン濃度が初期値に戻ると言われていますので、試合前の減量でクレアチン摂取を中止する場合があるのであれば、そのことも頭に入れておくといいかと思います。
4.100kgの壁を越えた時
90kgから100kgの壁は意図しない体重増加で越えました。
一時期、トレーニング雑誌の企画でボディメイクの減量をし52kgまで体重を落としました。
減量が終わったことと、そのタイミングで転職をして職場環境が変わったストレスで、最大64kgまで体重が増えました。
体重が増えると扱える重量も増えました。
たくさん食べているからエネルギーが充実していてトレーニングも質の良い状態で実施できます。
そのタイミングでウェイトリフティング&クロスフィットジムにも時々通うようになり、トレーニング量も増え、体脂肪量だけではなく徐脂肪量も増えました。
結果的にベンチプレスも重量が伸びました。
階級で分かれている競技であることでもわかるように、体重は偉大です。
引き換えに減量がつらくなったのは否めません。
この経験から、重量が伸び悩んでいる方は一度思い切って体重を増やすことも検討してもいいのではないでしょうか。
もし、ストレスなどで太ってしまった…という方がいればこれはチャンスとばかりに、発散のためにもたくさんトレーニングすれば思わぬ恩恵をえられるかもしれません。
とは言いつつも、過体重は体に悪影響を及ぼし、糖尿病・高血圧・心疾患など病気になるリスクが高まります。
急激な増量は避け、増量は計画的におこないましょう。
増量ペースが速すぎると無駄に体脂肪を増やしてしまいます。
自身のトレーニング経験レベルによって筋肉量を増やせる伸びしろが異なるため、増量をスタートする時は個人のレベルに合わせて目標ペースを決めましょう。
トレーニング経験ごとの増量ペース
Elic Helms.Andy Morgan.Andrea Valdez.八百健吾肉,体改造のピラミッド栄養編,東京AthleteBody株式会社,52,2021 表5より引用
一番体重があった時期の後ろ姿。今よりも4〜5kg重く、無駄に体脂肪が増えた。
5.その他の原因
クレアチンと体重増加という2つの要因は、私が明確にこれが理由だったと感じたものです。
その他にシンプルにフォームが良くなった、ということも考えられます。
私は2013年に世界ベンチプレス選手権大会で出会った夫の福島勇輝と2017年に結婚しました。
彼はトップリフターであり、ベンチプレスについて多くのことを学びました。
またベンチプレスのフォームだけでなくスクワットやデッドリフト、試合戦略や補助トレーニングについても知識が増え、「筋トレ」としてのBIG3ではなく、「パワーリフティング」としてのBIG3を身につけたことがプラスに働きました。
経験が豊富なベンチプレッサーの試技や練習を見る機会も増え、そのフォームをまねしてみたり、アドバイスをもらったりしたことも大きな要因です。
夫とFTGYMで
6.現在のトレーニング
現在はパワーリフティングと並行してウェイトリフティングを楽しんでいます。
トレーニングのメインはウェイトリフティングで、オンラインコーチに国体予選まではサポートをお願いしています。
国体では、パワーリフティングは公開競技で、ウェイトリフティングは公式競技です。
公式競技は県代表のジャージも着れますし、静岡県勢としてポイントが加算されます。(国体は最終的に全ての公式競技のポイントを合算して県ごとに順位が出ます)
国体代表ジャージに高校生から憧れがあり、人生で一度でいいから着てみたいと思っているので、今はどちらかというとウェイトリフティング寄りです。
ちなみに普段のベンチプレスの日の内容は以下の通り
・ベンチプレス 1rep×納得いくまで
・ベンチプレス 3rep×3set
・足上げベンチプレス 5rep×3set
・ダンベルベンチプレス 10rep×4set
・ライイングトライセプスエクステンション→ナローグリップベンチプレス 10rep→限界まで×4set
ウェイトリフティングを集中してやるまではこんな感じでトレーニングしていました。
7.最後に
ベンチプレス100kgに到達するまでですが、計画的にコツコツ重量を上げてきたというよりは、続けていく中で今回ここで紹介した様なことをきっかけに重量が伸びたというイメージです。
正直、ベンチプレスの中で重量を伸ばす可能性が大きいのはフォームの修正だと思っています。
特にまだフォームがある程度完成されていない状態では、その恩恵は大きいはずです。
それ以外で、何か伸び代が欲しいと思った時にこういった人間もいるということが参考になれば幸いです。
8.参考
・G.Gregory Haff,N.Travis Triplett編.NSCA決定版ストレングス&コンディショニング第4版,東京:有限会社ブックハウス・エイチディ.242-245.271-273.2018
・桑原弘樹,サプリメントまるわかり大事典,東京:株式会社ベールボールマガジン社,88-91,2010
・Elic Helms.Andy Morgan.Andrea Valdez.八百健吾,肉体改造のピラミッド栄養編,東京AthleteBody株式会社,51-60,2021
・厚生労働省,“肥満と健康”,生活習慣病予防のための健康情報サイト,2019-12-17, https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-001.html,(参照2023-4-20)
◆コラム執筆者
福島未里(ふくしまみさと)
静岡県富士市FTGYM所属
FTGYM(https://ft-gym.com/)
ベスト記録
パワーリフティング(ノーギア)
SQ130kg
BP110kg(一般女子57kg級日本記録)
DL165kg
TL405kg(一般女子57kg級日本記録)
シングルベンチ(ノーギア)
112.5kg
ウェイトリフティング
スナッチ70kg
クリーン&ジャーク95kg
2013年度
アジアベンチプレス選手権大会(フルギア) ジュニア57㎏級1位
2014年度
世界ベンチプレス選手権大会ジュニア57㎏級(フルギア)2位
2017年度
ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会 一般女子57㎏級1位
2018年度
ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会 一般女子57kg級1位
2019年度
世界ベンチプレス選手権大会 一般女子57kg級 5位
ジャパンクラシックパワーリフティング選手権大会 一般女子57kg級1位
ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会 一般女子63kg級1位
2021年度
ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会 一般女子57kg級2位
保有資格
日本スポーツ協会認定アスレティックトレーナー
NSCA公認CSCS
健康運動指導士
柔道整復師