読者の皆様、いつもご覧頂き有難う御座います。
恐らくこのコラムが掲載される頃には梅雨も明けて夏真っ盛りといったところだと思いますが、私がこの記事を書いているのはまだ7月の上旬でして、私が住む近畿地方でもムシムシとした暑い日かと思えば、突然バケツをひっくり返したような雷雨に見舞われたりでグラウンドに出る直前まで天気予報図と睨めっこする毎日です。
この時期はスポーツ現場で雷による被害が起こりやすい時期です。
指導者の方々は十分に注意して下さい。
さて、今回はタイトルにある通り、ジム訪問記です。
今回ご紹介するのは三重県四日市市にあるTSUJI’sGYMです。
【辻夫妻とは】
このジムを紹介する前にまず皆さんに辻夫妻について知っていただかなければなりません。
御主人の辻善衛さん、そして奥様の辻紀子さんは元々ボディビル界では知らぬ者無しの有名なビルダー夫婦でした。
筆者がその存在を知ったのは、今から遡る事17年前。
2000年の関東学生ボディビル選手権で優勝し、初めて自分が選手として掲載されている月刊ボディビルを購入した時でした。
※月刊ボディビルディング誌 2000年12月号より転載。
今でこそ日本中にゴールドジム等の本格的なフィットネス施設が出来て、東京大阪等の所謂都市部と比較しても、環境面で遜色の無い地方も多いかと思いますが、当時はまだまだトレーニング環境に大きな格差がある頃で、特にボディビルは身の周りにコンテストビルダーが多いか少ないか、全国規模の大会に出ているかどうかで大きくモチベーションも情報量も差が出ている状況でした。
地方の大会から勝ち上がっても全国レベルの大会で入賞するのは至難の業で、よっぽど何か秀でたものが無ければ注目されない状態でした。
そんな中で奥様の紀子さんは、三重県のジムから軽量級でありながらジャパンオープンで入賞し、日本クラス別でも優勝するなど厳しい仕上がりと観客を魅了するステージングでインパクトを残した選手でした。
御主人の善衛さんも三重県大会を二度制し、MR日本への登竜門としても知られるジャパンオープンでも入賞、日本クラス別でも激戦の75kg級で入賞を果たす実力者でした。
当時は田代選手や合戸選手、川口選手、丸川選手、山岸選手、相川選手、井上選手、岩尾選手などバルク派の選手が続々と台頭してきた時代で、その中で善衛さんは非常にクラシカルな身体とポージングで数少ないシンメトリー派という印象でした。
勿論三重県と言えば往年の世界チャンピオン須藤孝三選手のイメージが色濃く残っているので紙面で三重県と見るだけでも重ねてしまいがちではありました。
【同時期にパワーへ転向】
筆者は仕事の都合でボディビル競技から遠ざかっていた2006年からパワーリフティング大会へ参加し始めていましたが、教職員大会や全日本実業団大会以外では全国規模の大会へは出場しておらず、2012年まではあくまでボディビルの為のオフシーズンのバルクアップとモチベーションの維持という目的でノーギアパワーへ参加していました。
実質パワーリフティングに本腰を入れ始めたのは2012年の春からで、初めて所属するパワーリフティングジム、兵庫の「マッスルプロダクション」にて鍛えられ、その年の長野県白馬でのジャパンクラシックで全国規模の大会に初出場する事になります。
その白馬で筆者は、今までボディビル大会でしか見た事の無かった辻夫妻に偶々お会いし、お話をする事となりました。
そこで「ボディビル⇒パワーリフティング」という共通点、当時はまだボディビルダーとしてパワーリフティング大会に出場する気持ちやモチベーションの持ち方。
ボディビルではなかなか叶わない国際大会出場への想いや勝ち負けがハッキリする事への楽しさ。
競技転向に対する葛藤や、それに伴う苦悩、新鮮さと違和感の間で揺れ動く気持など、両方を経験した者にしか分かり得ない気持ちを語り合う中でシンパシーを感じた事を良く覚えています。
【パワーリフター辻夫妻】
こうして一流のボディビルダーから一気に一流パワーリフターへ転身を遂げた辻夫妻の活躍は遂に念願の国際大会へと歩みを進めます。
妻紀子さんは2014年南アフリカで開催された世界クラシック選手権M2で見事優勝。
翌年フィンランド大会で二連覇、そして昨年のアメリカ大会で見事三連覇を果たしました。
パワーリフティング歴4年での快挙です。
また紀子さんはボディビル時代、フロントポーズで非常に広がりのある大腿四頭筋を武器とする選手でした。
その得意の脚でパワーリフティングでもスクワットの日本記録を樹立しました。
ボディビルを経験した人ならば分かるはずですが、ボディビルでステージ映えする大腿部を作る為のスクワットとパワーリフティングで効率良く高重量を挙げる為のスクワットでは同じスクワットでもフォームが大きく異なります。
この点だけを切り取っても両方を高いレベルで行う事は非常に難しい事なのです。
また、奥様のサポートにまわる事が多い善衛さんも紀子さんのデビューから遅れて1年後の2013年にパワーリフティングに転向し三重県大会一般83kg級で優勝。
2016年は東海大会でも入賞し、ジャパンクラッシックにも出場しています。
ノーギアレベルの高い東海地区の中量級において存在感を発揮しています。
【TSUJI’sGYMとは】
かなり前置きが長くなってしまいましたが、そんな辻夫妻がついに夢のマイジム設立に乗り出したのは2013年2月の事、善衛さんが四日市市内を隈なく調査し、現在の物件に行き着きました。
必要な器具を買い揃え同年6月にオープン。
僅か4ヶ月のスピードでした。
場所は四日市コンビナートエリアの大きな通り沿いで比較的発見しやすい場所にありました。
(住所は三重県四日市市曙町21)
中は広々としたスペースにパワーラックとデッドリフト用のプラットフォーム、そして東海地区のパワーリフターらしくパワーラインのベンチ&スクワットラックが設置されていました。
余談ではありますがこちらのパワーラインは兵庫県のマッスルプロダクションより中古で購入したものだそうで、私も何度もお世話になったベンチでして、思わずベンチに「お久しぶりです」と言いたい気持ちになりました。
これだけだとコテコテのパワー3種目専用ジムやんけ!と言われそうですが、勿論そうではなくてレッグエクステンションマシンやダンベルも揃っており、ボディメイクの為のパーソナルセッションも受けられるようになっていました。
まだまだスペースが余っているので今後は器具を増やしていく予定ですが、ボディとパワーを極めた御二人にかかればこれだけの器具でも十分全身を発達させるノウハウを学ぶことが出来そうです。
【腰が低い】
実績に見合わず非常に腰の低い御二人ですが。
今回お話する中で感じたのは、まだまだ強くなる!という向上心と、新しい情報を取り入れようとする探求心でした。
大変失礼ながら御二人ともに既にマスターズのカテゴリーに入る年齢で実績も経験も十分です、「トレーニングとはこういうものだ!」「スクワットとはこうあるべきだ!」と語りたくもなるものですが、御二人からはそのような雰囲気は全く感じず、非常に謙虚で今も新しい事にチャレンジしようとする姿勢を感じました。
地方にいながら高いレベルで競技を続ける為には色んなジムに出稽古をして、新たな刺激や新しい情報を得ようとする事が必要で、長年続けていく中で常に学ぼうとする姿勢が身に付いたのではと思います。
また複数の競技で国際大会や全国規模の大会に参加する事で「上には上がいる」「現状に満足していては伸びない」という事を、身をもって知っているからなのではないかと思います。
【バランス】
物事には何でもバランスが大切です。仕事・家庭・趣味なんでもそうだと思います。
物の考え方でもそうでしょう、一つの事に心酔し過ぎたり、何かを決めつけてしまった時点で思考も停止してしまいます。
トレーニングも同じだと思います。一つの手法や方法論だけにとらわれてしまっては偏った考え方になってしまい広域でトレーニングを見る事が出来なくなります。
ボディもパワーも知り尽くしている辻さん御夫婦はトレーニングを色んな角度から見る事が出来るバランスのとれた方だと思いました。
正解なんか無いかも知れない。そう考えて今のベターを見極めようと、学び続ける事が一番の成長を産むのかも知れません。
大変短い時間ではありましたが私自身も改めて気付かされる事がありました。
皆さんもお近くに行かれた時には是非TSUJI’SGYMを訪ねてみて下さい。
パワーでもボディでも、その他のトレーニングでも。バランスのとれたレクチャーを受ける中で新たな気付きが得られると思います。
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■コラム執筆者
佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 241kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg
戦跡
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝
ボディビルディング
2000~2001年 関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年 全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年 日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年 関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝