読者の皆様こんにちは。
ようやく涼しい風が吹き込むようになったかと思えば、ある日は突然真夏日になったりと、お天気が安定しない今日この頃ですが、皆様は如何お過ごしでしょうか?
私は、先月のジャパンクラッシックマスターズ以降も一日一食生活を続けています。
と言うよりは一日一食の生活スタイルに慣れてしまって、わざわざ早く起きて朝食を作って食べるのがめんどくさいし、夜もギリギリまで仕事をしてヘトヘトで帰ってきたらシャワーを浴びてソファーに横になると気が付けば寝ているという生活なので、食事方法というよりは一日三回も食事に時間をかけている暇が無いだけなのですが、体調も良くトレーニングも不定期且つ短時間ではありますが再開出来ています。
また食欲の秋と言う事もあり、お昼~夕方の食事では存分に秋の味覚を楽しんでいるところです。
そんなわけで現在は特に我慢することなく体重は84.5~85.9kgぐらいを行ったり来たりしていています。
先月のコラムを書いて以来、色々な方からご意見をいただいておりますが、現在のところ健康に生活しております。
御心配頂いている方々には申し訳御座いませんが、やめる理由が今のところはありませんので、もう暫くこのまま続けてみようと思います。
【コンタクトスポーツで起こる怪我】
現在、私が指導する大学では様々なスポーツがリーグ戦を戦う試合期にあります。
勿論試合期であっても最後までガンガン体力を強化し続けるチームもあれば、殆ど調整するだけのチームもあり種目やチームのレベルによっても様々です。
その中でもアメリカンフットボールやラグビー、アイスホッケーなどのコンタクト競技は毎週のように激しいコンタクトを伴う試合を繰り返す中で、どうしても怪我で戦線離脱する選手が増えてきます。
勿論相手と身体をぶつけ合い戦う競技なので、ある程度は致し方ないところですが、防げる怪我は一つでも減らしたいのが競技に関わる全ての人の願いでしょう。
怪我の予防やリハビリテーションを担当するのは主にアスレチックトレーナー・と我々S&Cコーチなので、怪我をした選手の管理や復帰までのプロセスについては完全に任されています。
ただコンタクト競技においてはアスレチックトレーナーやS&Cコーチの専門領域を超えた部分を改善しなければ怪我の予防や再発を防ぐ事は出来ない場合があります。
今回はコンタクトスポーツで起きる怪我について今までの経験を踏まえて少し考えてみたいと思います。
【特定の部位の怪我は競技特性上避けられない】
コンタクト競技や格闘技ではよく起きる怪我で他のスポーツでは、あまり起きない怪我をいつくか挙げるとすれば、脳震盪と肩関節の脱臼、鎖骨骨折及び肩鎖関節・胸鎖関節の脱臼などでしょう。
これらの怪我を予防するためにS&Cコーチやアスレチックトレーナーは各専門領域から様々なアプローチを選手個人やチーム全体に対して行います。
ウエイトトレーニングもその一つで、首を太く強くしたり肩や大胸筋上部、僧帽筋などを強化したり、肩関節の深部にあるインナーマッスルにアプローチしたり様々です。
しかし実はこれらを只管行っていても怪我は必ず起きます。
更に言うならば選手の筋力が強くなり体重も増えれば増えるほどコンタクト時の衝撃も強くなるので怪我は無くならないどころか起こりやすくなります。
もっと分かり易く言うならば競技レベルが高まれば高まるほどコンタクトの強度が上がれば上がるほど怪我が起こるリスクは高まります。
究極に言ってしまえば怪我のリスクが一番低いのは、そのリーグで最も筋力・パワーが大きくて体重の重いチームです。
つまりこれらの怪我はコンタクト競技においては、自分よりも強く大きい相手に挑もうとしている時点で起きる怪我なのです。
ですから怪我のリスクを最小限にする手段は2つしかありません。
一つ目は所属リーグで一番、或いは日本で一番デカくて強いチームにする事。これは勿論食事と筋トレだけで出来る事ではなくリクルートも関わる話です。
二つ目は入れ替え戦に負けて下のレベルのリーグに行くことです。自分よりも小さくて弱い奴とだけ戦っていれば怪我のリスクは少なくてすみます。
しかし誰も二つ目の選択肢はとりたくないはずです。そんな事をするぐらいならばもっと安全なスポーツを選べば良いだけです。
つまりコンタクト競技や格闘技で強くなって勝とうとするならば怪我のリスクは避けては通れないものであり、だからこそみんな1mmでも0.1gでもデカくなって強くなろうと努力を続けるのです。
【専門性を超えて】
そのうえで話を元に戻しますが、コンタクトに伴う上記の怪我のリスクを減らす為にはS&Cやアスレチックトレーナーの領域だけではカバーしきれない部分があります。
それは勿論コンタクト自体のスキルです。
その為S&Cやアスレチックトレーナーも担当する競技の専門性と最低限のベーシックスキルについて熟知する必要がありますし、その知識をもとにスキルコーチとも連携して危険なスキルの改善に努めなければ怪我は減りません。
私自身もラグビーは未経験ですが少しでも競技についての知識やコーチングスキルを学ぼうと最初は日本ラグビー協会の新スタートコーチを取得し、毎年色々な講習会を受講して今ではオーストラリア協会のコーチングライセンス、レベル1レベル2を取得し毎年ブラッシュアップのための講習会に参加しています。
またタックルスキルについて共通項があるレスリングやサンボ、柔道の道場に通い技術を修得しようと努めました。
このようにコンタクト競技に関わるS&Cコーチやアスレチックトレーナーは自分自身でもある程度は基本スキルが教えられるように努力をするわけですが、それでも最終的にはより専門性の高いポジションスキルまで見る事が出来るコーチに任せるべきです。
チームにはそれぞれ同じスキルでもそのチームの戦い方や実行したい戦術によって重視すべきポイントが違ったり、それによってスキルの改善が出来ていなければ同じ怪我をする可能性の高いシチュエーションが普通よりも高い頻度で繰り返されたりする事があるからです。
【スキルコーチとの連携】
例えば首をいくら太くして肩のインナーマッスルを鍛えても、タックル自体が下手では必ず脳震盪や鎖骨骨折、肩関節の脱臼が起きます。
その選手のタックルスキルの何処に問題があるのか?
相手との間合いの取り方やステップに対応するフットワーク、足さばきに問題があるのか?
足の踏み込みの上手さや肩の強さに左右差があり咄嗟に逆側の首を入れてしまう等の癖があるのか?
相手の動きを見る時に目線が下がり過ぎていて頭を早く下げてしまう癖があるのか?
相手を捕まえる時に肩関節が安定していない状態で腕を無理に伸ばしたり、腕を振りまわしたりする癖があるのか?
書き出したらきりがないですが、選手のタックルの何処に問題があるのか?を動画を見ながらまず選手に理解させ反復練習の中で修正します。
そしてスキルコーチと連携をして実際に強度の高いコンタクトでそれを改善出来るのか?
疲労した状態でそのスキルが再現できるのか?
複数の人間が入り乱れる混沌とした状況でもスキルを実行できるのか?
チームが求める戦術の中で実行できるのか?
このような要素は例え復帰した後でも継続してスキルコーチにフォローして頂かねば結局は同じ怪我をして我々の元に帰って来る事になってしまいます。
【復帰過程で出来る事】
通常の怪我からの復帰では
ノンコンタクト参加⇒強度の低いコンタクト練習への部分参加(段階的に強度を高めていく)・コンタクト強度をコントロールした中でのコンタクトフィットネストレーニング(段階的に強度を高めていく)⇒コンタクトチェック⇒フル参加
という形で段階を踏んでいくと思いますが
コンタクトが直接的な原因となる怪我からの復帰に対しては、これらの復帰プロセスの中にスキル改善のプログラムを並行して行います。
その中で、通常のチーム練習の中から適切なコンタクト強度のものを選んで参加するような場合もあると思います。
その際に復帰過程にある選手には道具による保護を義務付ける事が必要です。
例えばアメリカンフットボールの場合は脳震盪からの復帰をする選手には特殊なパッドで衝撃吸収力を高めたヘルメットを装着させたり
頸部の怪我をした選手にはネックロールを着用させるなどの再発予防策をとります。
肩鎖関節痛や鎖骨骨折からの復帰選手にはショルダーガードの装着を義務付けます。
勿論マウスピースの装着は必須です。
怪我をした選手を復帰させる過程でチーム練習に合流させる際に、復帰する選手自身に注意をさせる事は出来ますが、他の選手に「怪我明けだから手抜きしてくれ」というのはなかなか難しいものです。また幾ら怪我人同士やコーチ相手にコンタクト練習を積んでいるとは言え実戦形式のコンタクト練習に参加する際はやはり勝手が違い、勘も鈍っている事からパニック状態になった中で想定外の動きや貰い事故のような形で再受傷させてしまう事もあります。
保護装具だけで防げるものではありませんが最低限の予防策として復帰後も一定期間は必ず装着させるようにします。
また部分参加や復帰の過程である事を周りの選手に周知させる事で防げる怪我もあるので他の選手が咄嗟に目に入った時に気付くような派手な色のビブスを「怪我人用ビブス」としてチーム内で周知させ、復帰過程の選手には着せる事も必要です。
ただしチーム全体がハードにフルコンタクト練習を行いたい時に怪我人用ビブスを着ている選手が参加しているとチーム練習自体の強度が下がってしまったり、チーム内で本気でやってはいけないようなヌルイ雰囲気が出来てしまうとチーム練習自体が不完全なものになってしまいますので、どこから参加させて、どこは外すのかはチームの中でもしっかり打ち合わせしておくことが必要ですし、だからこそ復帰過程の選手には練習中にグラウンドに常駐し、練習メニューをしっかりと把握して選手の動きやチームの雰囲気を観察しながら指示が出来る担当者が必要です。
【まとめ】
高校や大学など専任スタッフの少ない現場では選手を、怪我人or怪我人ではない、の2種類にしか分ける事が出来ず、完全に怪我が治るまでほぼ見学状態で過ごす事しか出来ないチームや、その逆でまだ完全復帰をする段階ではないのに不完全なまま何のコントロールもされずにいきなりフルコンタクト状態で復帰させられてしまうチームもあるのではないでしょうか?
その結果、準備不足による再受傷をさせてしまい選手を潰してしまう事もあるでしょう。
またアスレチックトレーナーやS&Cコーチがいる現場でも、怪我からの復帰過程を完全にアスレチックトレーナーやS&Cコーチに丸投げしてしまい、怪我人の回復現状や怪我の原因となったスキルの改善についてスキルコーチとコミュニケーションをとらずに「ハイ今日から復帰ね」と復帰させてしまう現場もあるでしょう。
勿論スキルコーチの立場を考えると、普通にプレーできている選手を教えたり、チーム全体のスキルと戦術を考える事に手一杯で、怪我人についてはあまり考えられない状態になりがちです。
アスレチックトレーナーやS&Cコーチも怪我をしている選手を完全に任せてもらっている以上は自分達だけで完璧に仕上げて復帰させようと考えがちです。
しかしコンタクトが直接的な原因で起きた怪我に関してはやはり怪我自体を治すだけではなく怪我をする原因となったコンタクトスキル自体を改善して復帰させねば、高速道路で事故を起こした運転手に運転方法を改善させずに車だけ修理していきなり高速道路を走らせるようなもので、同じ怪我をしてしまうか次はもっと大きな怪我をしてしまう可能性があります。
普通の会社仕事でもコーチングでも同じで仕事は何でも連携する事が大切です。連携する事でスタッフ間で怪我をしている選手に対する状態や復帰プランと改善しなければならない問題について情報共有し問題意識を持たせ、復帰に部分的にでも関わらせる事が出来ます。
アスレチックトレーナーもS&Cコーチも専門職ですので、勿論専門性を発揮しチーム内での立ち位置や役割を明確化する事は重要ですが、仕事を任して欲しい気持ちから「素人に口出しされたくない」と、自分の仕事に他のコーチが介入してくるのを嫌ってしまう場合もあると思います。
ケースバイケースではありますが、コンタクトスポーツにおいては選手もスタッフもコミュニケーションが重要です。怪我を予防するにも怪我を再発させない為にも選手を沢山の眼で色んな角度から見てあげる事が重要だと思います。
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■コラム執筆者
佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 241kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg
戦跡
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝
ボディビルディング
2000~2001年 関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年 全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年 日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年 関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝