読者の皆様、今月もご覧いただき有難う御座います。
まずは先月号の掲載が遅れてしまった事を深くお詫び申し上げます。
今後はこのような事が起こらぬように準備を進めて参りたいと思います。
さて今月も近況報告からですが、既にご存知の方も多いかと思いますが今年6月の世界クラッシックパワーリフティング選手権大会のマスターズⅠ-83㎏級にエントリーさせていただきました。
私は今年の7月に満40歳となりますが、昨年9月に満39歳でジャパンクラッシックマスターズに出場しオープン参加で残した記録により今年の国際大会の代表権を取得しました。
若干裏技っぽさがありますが、これもしっかりルールを勉強する事の大切さかなとも思っています。
こちらもご存知の方も多いかと思いますが、今回の世界クラッシックへの申込に際してJPA(日本パワーリフティング協会)の方で色々とバタバタしたようで、本当に出場出来るのか大変不安ではありましたが、IPF(国際パワーリフティング連盟)のHPでノミネーションも発表されようやく自分が大会に出場するイメージが湧いてきたところです。
とはいえ大会まで残された時間はあと僅か。
私の出場するマスターズⅠ-83㎏級は現地(カナダ・カルガリー)時間で6月8日(金)13時スタートとなっています。
時差は約-16時間らしいので試合への準備を考えると向こうに行ってから1日増えるようなものなので少しお得感があります。
今回の試合に向けたトレーニングやダイエット方法、参戦記は帰ってからのコラムで纏めるとして、とりあえず今は怪我せず体重をリミットまで持っていけるように準備していこうと思います。
次にですが今月12日に発売されたトレーニングマガジン(ベースボールマガジン社)に脚のトレーニングについてのインタビュー記事が掲載されています。
主にラグビーでの下半身トレーニングについての記事になっていますので、興味のある方は参考にしていただければと思います。
【ロシア人の友人から教えてもらった測定方法から】
さて今回はちょっとした疑問から実際に私が行ってみた実験についてご紹介したいと思います。
その疑問の元となった、あるテストについてまずはご紹介しましょう。
私の勤める関西大学には海外からの留学生や研究生が沢山在籍しているのですが、その中には体育会に所属する部活動に入部したり短期的に参加したりする学生もいます。
その中の一人でロシアから武道の研究に来ている友人に「ロシアのアイスホッケーチームのトレーニングプログラムを入手できないか?」と尋ねたところ、彼の友人にプロのホッケー選手にトレーニングを指導する人がいてプログラムを頂けることになりました。
勿論送られてきたプログラムは全てロシア語…それを友人に英語に翻訳してもらい何とか解読し、私が指導する関西大学アイスホッケー部のトレーニングプログラムの参考にさせてもらいました。
そのプログラムの中にあった体力測定の一つにルフィアテストと呼ばれる心肺機能測定の方法がありました。
ルフィアテストのやり方を簡単に説明すると
まずはテストの前に、座位で5分間安静にした後に心拍数を測定します。
方法は至ってシンプルで15秒間の脈を測って4倍するだけです。(S1)
その後、45秒間で30回の自体重スクワットをします。
スクワットが終わったらすぐにまた脈拍数を測ります、同じように15秒で測ったものを4倍します。(S2)
最後にもう1分間安静にし、もう一度脈を測ります。(S3)
これで終わりです。
評価方法は次の式から算出されます。
スコア= [(安静時脈拍数(S1) + スクワット後脈拍数(S2) + 1分後脈拍数(S3)) – 200]/10
これで算出されたスコアが
3未満だっらEXCELLENT
3~6だったらGOOD
7~9だったらAVERAGE
10~14だったらPOOR
15以上だったら…HEART FAILUREと書いてあるのですが…直訳すると心不全ですね。
文章訳がロシア語⇒英語⇒日本語となる過程でこうなったものと思われます。
因みに私がやってみたら9でギリギリAVERAGEでした。
このテストの評価値はさておき…アイスホッケーの競技特性として大凡45秒~60秒ぐらいプレーが続いた後に交代するので45~60秒の連続運動の後にどのくらいの時間でどのくらい心拍数が下がるのかは試合でのパフォーマンスに大きく影響すると思われますのでチームで一度調べてみようと考えました。
そうこうしながら色々テストを重ねているうちに運動後の姿勢によって脈拍数の落ち着き方がかなり違うという事に気付き面白くなってきたので、今回はラグビー部の選手10人に協力してもらって、しっかりポラールを使って測定をする事にしました。
【実験】
方法は至って簡単でローイングエルゴマシンで90秒程の全力運動を行った後に3パターンの姿勢をとってもらい1分後、どのくらい心拍数が回復しているかを調べました。
ラグビーでもトライやペナルティ、ボールがタッチの外に出た後など短い休息を挟んでプレーが再開される事が繰り返されるので、短い休息で如何に素早く回復するかというのは試合のパフォーマンスに直結する重要な要素です。
勿論運動強度やそこからのリカバリーの度合いを示す要素は心拍数以外にも考えられますが、今回は心拍数だけに特化して調べてみました。
では今回比較した回復の為の姿勢は以下の通りです。
① 頭に手を当てて胸を開き歩き回る
これは恐らく一般的に最も正しいとされている休息時の行動だと思います。
急に動きを止めるのではなく歩きながら胸を開き大きく深呼吸する。
② 膝に手を当てて中腰の姿勢をとる
これは逆に最もやってはいけないポーズとして指導者から注意される姿勢でしょう。
急に止まって下を向いて、呼吸がし辛くなると言われています。
また、試合中相手に対して自分が疲れている事を見せるなという意味もあるように思います。
でも人間疲れている時は自然ととってしまう姿勢なので何らかの意味はありそうだなと思い入れてみました。
③ 寝転ぶ
これは論外だと皆さん習っているはずですね。
運動後にすぐに寝転ぶなんて言語道断。
身体に悪いに決まってる!と皆が思うはずです。
【結果】
では結果を発表します。
10名の被検者の結果を平均すると。
なんと1分後に一番心拍数が回復したのは③の【寝転ぶ】でした。
2番目に心拍数が下がったのが②の【膝に手を着く】
意外にも一番心拍数が下がらなかったのが【胸を開いて歩き回る】でした。
えぇ!?っと思うかも知れませんが今回の実験ではこうなりました。
もしかしたら運動の種類によっても変わるかも知れませんがローイングの場合はこうなりました。
【考察】
一般的になぜ運動後は手をついて止まったり寝転んだりしてはいけないと言われているのか、考えられるのは急に運動を止める事で今まで筋肉が沢山動いて心臓に戻って来ていた血液が急に流れなくなり筋肉に留まってしまう事で疲労物質も筋肉の中に留まってしまい回復を遅らせる、という考えによるものだと思います。
実は今回の実験でも寝転んだり膝に手を着いたりしている時に多くの選手が「回復している気がしない」「余計しんどくなってくる」「気持ち悪い」と不快感を訴えました。
これは一気に運動を停止した事によって体内の血液循環のバランスが崩れてしまったからだと思われます。
一般人よりもスポーツ選手の方が普段からクールダウンなどで、徐々に心拍数を落ち着かせるという事に慣れているため普段との違いが良く分かるのでしょう。
一方で胸を開いて歩き回っている時の方が、気分が落ち着き回復している実感はありましたが実際は1分間ではあまり心拍数は落ち着きませんでした。
さてこの記事を読んで「膝に手を着くな!」と怒っていた先生は間違っている‼と明日から練習中に寝転ぶ人がいるといけないので念のために書きますが。
勘違いしないで欲しいのは先程も書きましたが心拍数の減少は疲労からの回復を見る為の一つの要素に過ぎません。
スポーツで本当に大切なのは心拍数が落ち着いている事よりも、短い休息を挟んで繰り返し強度の高いパフォーマンスが発揮出来る事です。
今回で言うならば、ローイングを2セット3セットと繰り返して、心拍数の変化とパフォーマンス(タイム)との間に相関があるかどうかも見る必要があります。
そしてその為にはもっと沢山のデータをとる必要があります。
もしも皆さんが御自分にとって最適な回復の為の体位を知りたければ、まずはルフィアテストのような簡単な方法を日頃のトレーニングの合間に試してみるのが良いでしょう。
私のようなパワーリフターであれば試合で第一試技・第二試技・第三試技とスクワットに挑む際に、すぐに椅子に座るのが良いのか?
暫く横になってから椅子に座るのが良いのか?
歩き回った方が良いのか?
色々試してみると面白いかも知れません。
世界クラッシックまでに自分のデータをとって実際に試してみようと思います。
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■コラム執筆者
佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 241kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg
戦跡
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝
ボディビルディング
2000~2001年 関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年 全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年 日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年 関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝