【はじめに】
読者の皆様こんにちは、いつもご覧頂き有難う御座います。
まずは9月5日に起こった北海道での震災、並びにその2日前から前日にかけて日本列島を襲った台風21号など、度重なる自然災害で被災された多くの方々に対し、心よりお見舞いを申し上げると共に、一日も早く皆様の生活と愛する街並みが元に戻る事をお祈りいたします。
実は私の自宅も9月3日の台風21号で屋根瓦が飛び、庭のブロック塀がフェンスごと倒壊するという被害を受けました。
幸い家族に怪我などはありませんでしたが、恐らく人生で経験した最も強い台風を前に、自然の力と恐ろしさを感じるばかりでした。
またパワーリフティング関係の読者の方はご存知かと思いますが、9月8日-9日は北海道でジャパンクラッシックマスターズ大会が開催される予定だったので、台風被害の後処理に追われながらも何とかコンディションを保とうと調整を続けていたのですが、2日後には今度は北海道で震災があり当然試合も中止となってしまいました。
開催に向けて準備を重ねられてきた北海道協会の皆様にとっては大変辛い決断であったと思いますが、被災地の復旧と選手の安全を最優先に考えた素早い対応に感謝すると共に、一日も早い復興を祈るばかりです。
また地震発生日の午前中には既にJPAの中で2つの県協会(長野県協会と兵庫県協会)が代替大会開催案を素早く発せられ、午後には兵庫県明石市にて11月23日(祝)-24日(土)の日程で代替大会が行われるという事が発表されました。
SNSなどを利用した発表や情報の拡散に対しては賛否があるとは思いますが、出場を予定している選手としてはこう言った素早い対応は非常に嬉しいものでありました。
エントリーしている選手が全て出場出来るかどうかは分かりませんが、今一度調整を行い、明石で皆がベストなパフォーマンスを発揮する事で、今回会う事が叶わなかった北海道の仲間達に元気を届けようと思います。
【ご報告】
それでは今回もコラムの本題に入る前にご報告からです。
先月もご報告させていただきました、私が監督を務めるJPA登録団体「関西大学S&Cクラブ」から福井国体に出場していた2名の結果ですが。
74㎏級の福住昌也は第5位
66㎏級の若林康平は第14位
という結果でした。
因みに福住は元々はウエイトリフティングの選手、若林はアメリカンフットボールの選手でした。
これからも他競技経験者からパワーリフティング競技に挑戦する選手を増やし、盛り上げていきたいと思いますので今後とも宜しくお願いいたします。
次にボディビル競技者で私がポージングやコンテストに向けた調整方法などについてサポートしている村上勝英くんが今年5年ぶりにステージに復帰し、大阪クラス別75㎏級、Mr大阪、Mr関西の3つのコンテストに優勝しました。
村上くんは5年前に全日本ジュニア選手権でもチャンピオンとなっている選手です。
将来は日本クラス別やMr日本でも通用する選手へと育てていこうと思いますので今後とも彼の活躍に注目してください。
【世界クラッシックでの失敗を取り戻すために】
さてそれでは本題に入ります。
6月末と7月末のコラムで書かせていただいた通り、6月上旬にカナダのカルガリーで戦った世界マスターズクラッシックから帰国して僅か5週間後という強行スケジュールではありましたが、香港の九龍港で行われた香港クラッシックインヴィテーショナルに出場してまいりましたので、今月は2ヵ月遅れの参戦記とさせていただきます。
この試合に参戦した経緯には、その前の世界クラッシックの結果が大きく影響しておりますので7月末掲載のコラムをまだお読みになられていない方は先にこちらをご覧ください。
World Classic Championships 2018 Calgary / Canada 参戦記 前編(調整編)
https://www.sbdapparel.jp/contents/201807/1500
…はいっ!
と言う訳で、初めての世界大会で世界の強さと厳しい判定基準を味わい、実力を出し切れぬまま帰ってきた私は「来年の世界大会で必ず白3本のスクワットを3試技決めてやる!」と心に誓い、世界クラッシックで駄目駄目だったスクワットのフォームを一から改良するために色々試行錯誤しながらトレーニングを再開していました。
「次は9月のジャンクラッシックマスターズだ!来年の世界大会に行くためにも絶対に落とせない!」と自分にプレッシャーをかけて体重もキープしたままで過ごしていました。
そんな時にfacebookのパワーリフターが色々と意見を言い合うグループトーク欄にJPAの国際委員の方からの書き込みがあり、香港でクラッシックの試合か行われるという情報を得ました。
派遣基準はアジア大会参加資格を有する者、となっていましたので当然私にもM-1で出場資格がありました。
日程は7月21日、出発は試合前日の7月20日で試合翌日の22日がバンケットという2泊3日のスケジュールでした。
(後にバンケットの時間が昼からだったので、バンケットに最後まで出ると帰りの便に間に合わないので3泊4日でないといけないと判明するが…)
ちょうど私の勤務する大学の期末試験の1週間前という事で殆どの部活動はOFFに入るタイミングでしたので私にとっては最も出場しやすいタイミングでした。
「国際大会の失敗は国際大会で取り返すしかない」
そう考えてすぐにエントリーしました。
【世界クラッシックからの調整法】
あまり情報発信の少ない大会ではありましたが、色んなところで検索して得た少ない情報によれば、この大会は親善大会のようなものなので出場選手も香港・マカオ・中国本土・台湾・日本からだけの参加で、マスターズクラスは参加者もそこまで多くないのではないかと予想しました。
「もしかしたら自分の階級は一人とかもありうるな」
そのため優勝を狙うとか、そういう目標設定ではなく世界クラッシックで不調に終わったスクワットで、誰から見ても白しかあがらない深さで、納得のいく重量をあげるという事の一点に目標を絞る事にしました。
世界クラッシックから帰国して香港へ出発までは5週間です。
ただ5週間と言ってもさすがに最後の1週間は殆どトレーニングは出来ませんので実質4週間での弱点改善と調整です。
まず最初の1週間で「なぜ世界クラッシックで上手くいかなかったのか?」これを解明する為に自分のスクワットをゼロの状態に分解し、一から組み立てていくことにしました。
脚幅・つま先の向き・シューズの種類・膝の出し方・ニースリーブの位置・ニースリーブのサイズ・股関節の屈曲角度・ベルトの位置・胸椎の立て方・肩甲骨の位置・肘の向き・手幅・リストラップの巻き方・バーの位置・バーの握り方・顔の向き・視線・息の吸い方・息の止め方…etc
試技に入る前のルーティンまで細かく見直し、本当に自分が力を発揮できる形はどれなのか?
最小限の歩数で足を決められるラックアップの仕方は?安定して下ろせる姿勢は?力強くボトムから切り返せる下ろし方は?スティッキングポイントで最大限腹圧を利用し粘る事の出来る膝の位置、股関節屈曲位は?バーが止まってからの対処法は?
色んな方向からスクワットを、というよりは世界大会で白がもらえる深さに100%間違いなくミス無く下ろせて、その深さから如何に効率的に立ち上がるのか?
その為のBEST CHOICEと現時点のBETTER CHOICEを自分なりに考える1週間でした。
その結果導き出したBEST CHOICEは長期的プランで1年間かけて改善するものとし、今回はその過程でクリアしなければならない課題のみを改善する為のBETTER CHOICEを選択し集中的に取り組むことにしました。
例えれば1年後の世界クラッシックに向けた準備が入試に向けた勉強のような内容だとすれば今回は実力テストの前のような準備という事です。
その為4週間の練習内容はスクワット8割、ベンチプレス1割、デッドリフト1割でした。
【科目別実力テスト:スクワット対策】
まずスクワットのトレーニングはウォームアップを除くと全て1repしか行いませんでした。
最初の週はノーベルトの150㎏でしたがそれも1rep×10setsというように行いました。
そして全てのセットで脚幅・バーの位置・握り方・息の吸い方など違う方法で行い、今現在の自分の身体に何が一番合っているのか?1rep毎にメモを取りながら感触を記録していきました。
その結果、変更すべき点が幾つか浮き彫りになりましたが、先に記した通り今回は実質4週間しか準備期間が無いため、長期的改善点は今回は置いておいて短期的に改善可能なポイントのみに焦点を絞り改善に取り組みました。
細かく全ては書きませんが大まかなポイントは以下の通りです。
- 目線と顎の位置
- 呼吸の吸い方
- バーを担いでからラックアップするまでの肩甲骨の入れ方
- 左足の爪先と膝の向き
この4点を改善しながら次の1週間で取り組んだのは重心の位置の確認とシューズ選びでした。
2週目はスクワットの重量を200㎏~215㎏までとして試合同様にベルトもニースリーブも装着して前週同様に1repを何セットも繰り返す形で行いました。
あくまで試合同様に、インターバルも取りながらなのでかなり長い時間スクワットラックを独占していましたので、他のジムのメンバーからすると非常に迷惑だったと思います。
本当にごめんなさい。
実はシューズについては世界クラッシックの前から変えた方が良い気はしていたのですが、もうかれこれ7年も履いている愛着のあるリフティングシューズでしたので、なかなか変える勇気が無くてズルズル放置した状態でしたが、今回は完全にゼロに戻して裸足でスクワットをするところから何セットも何セットも色んなシューズを試しました。
その結果、こちらも長期的にはリフティングシューズに戻す事を視野に入れつつも今回は一番素足に近い、やや大きめサイズのレスリングシューズに変更する事にしました。
スクワットは大きく分けると、しゃがんでいく局面と立ち上がる局面がありますが、この4週間で改善すべきは立ち上がりの強さだと思いました。
私は元々粘って粘ってあげるタイプのローバースクワッターでしたが、世界クラッシック前の練習では簡単に潰れてしまう事が多く、ボトムを過ぎた位置で粘れなくなっている感覚がありました。
その為、立ち上がりで膝の動きが少なく重心の前後動でバランスを崩すリスクの少ないシューズを選択して今一度、立ち上がりの粘り強さを取り戻そうと思いました。
その次の3週目、つまり香港に行く2週間前にはスクワットの重量を220㎏に固定して、徹底的にフルスクワットから立ち上がる練習を行いました。
これも前週までと同様に1repのトレーニングです。
220㎏は世界クラッシックで赤が合計7本もついてしまった重さです。
その苦手意識を払拭し逆に「絶対にとれる重さ」という自信を植え付けるためにも
横から動画を撮影してもらい「ちょっと下げ過ぎじゃない?」というぐらいの
「必ず文句無く世界中どこに行っても白3本」という深さで練習を繰り返しました。
この深さを基準に100発100中
安定して立ち上がれる練習を繰り返しました。
その次の3週目は香港に行く1週間前ですので最終調整にマッスルプロに2回出稽古に行き3種目の試合形式の練習を行いました。
月曜日は220㎏と230㎏をやって余裕で成功。
この時点でマスターズ1のアジア記録が232.5㎏である事が判明し「えっ!?イケんちゃうん?」という事で土曜日にチャレンジしてみました。
土曜日は225㎏余裕、230㎏余裕、235㎏失敗。
235㎏は潰れたわけではありませんが途中でバーが下がってしまったので失敗としました。
しかし本番ならいける自信がありました。
マッスルプロでいつもサポートしてくれているオーナーの藤田さんとスタッフの小原君
いつも有難う御座います。
4週目の火曜日、つまり試合の4日前に私が普段トレーニングを行っている大阪府寝屋川市のZIPスポーツクラブにて最後にスタート重量の確認程度に三種目を行いました。
スクワットは225㎏を行って全く問題なく立てました。
本当は世界クラッシックと同じ220㎏でスタートするつもりでしたが、225㎏があまりにも軽いので日本の大会でいつも第一試技にしている225㎏で今回はスタートする事にしました。
今回は非常に短い期間での調整でカナダの疲労も抜けないままで調整を続けられたのはいつもお世話になっている治療家の梅本君のケアのお陰です。
いつも有難う御座います。
【情報が無いまま出発】
カナダから帰って来てからというもの、今まで以上にパワーリフティングが楽しくてしょうがなくなり色々楽しみながらトレーニングしていると本当にあっという間に香港に出発する日が来てしまいました。
今回の大会に参加するメンバーは全員がマスターズの選手でした。
私は大阪在住ですので7月20日(金)の10時の便で関西国際空港から出発です。
関空に着いてキャセイパシフィックのデスクの前に並んでいると同じ関空発の3選手(女子47㎏M1の中田選手、女子57㎏M1の長江選手、男子74㎏M1の川島選手)と自然に合流する事が出来ました。
出発までの1時間半ほどでカナダの時と同様に池田泉州銀行で香港ドルをゲットして準備万端。
4人で香港へ向かいました。
「向こうに着いたらどうするの?」
「誰か迎えが来てるのかな?」
「まぁ適当で大丈夫でしょ!パワーリフターなんか見たらわかるって!」
こんな感じでお喋りしてるうちに5時間のフライトは終わってしまいました。
因みに機内食は「カイセンドーン!」って言われて出てきたのがコレでした…
香港と言えば我々の世代、特に男の子はジャッキーチェンですよね!
私も小学校時代からスパルタンX、酔拳、プロジェクトX、ポリスストーリーなどなど
ビデオ(当時はVHS)が擦り切れて絡まるほど繰り返し見ていたタイプでした。
当時の香港はイギリス領だったので「アジアの中のヨーロッパ」みたいなイメージがあったのですが、今は返還されて中国。。。
どんな旅になるのかワクワクドキドキ…アジア大会特有のハプニングも期待しつつ待ちきれない5時間でした。
【香港の街並】
関空チームは特に問題なく入国審査をパスし、無事に香港に入国した。
ゲートを出ると100%パワーリフターとしか思えない厳つい体格の男性が待っていました。
香港代表として活躍するパワーリフターの橘井さんです。
勿論私は初対面だったのですが丁度日本を出発する直前に発売になっていたアイアンマンに橘井さんの特集記事があったので顔を見ただけで分かりました。
異国に到着した直後にも関わらず日本語が通じる人に案内していただけるなんて本当に有難い。
空港で来るはずの迎えのバスが来ずに途方に暮れたカルガリーとは大違いでした。
橘井さんと香港協会の方の案内で何の苦も無くホテルまでのシャトルバスに乗り込みホテルのある旺角(モンコック)地区まで直通で行く事が出来ました。
香港の街並みは、高層ビルが立ち並ぶ近代的な煌びやかな街並みもあれば、それこそジャッキーチェンの映画で見たような昔ながらの古い街並みも混在してるような、新しいものと古いものがギュッと小さなエリアに凝縮されたような街でした。
写真を撮ったのは当然屋根からジャッキーが落ちてきそうなこういう風景ですが。
日本からは関空チームと成田空港発チーム、そして国際審判兼団長の伊佐川さんが沖縄からと3つのグループに分かれて香港入りしたのですが、我々関空チームは一番乗りでした。
1時間ほど後に成田空港チームが到着するので、空港でそれを待って一緒にホテルまでバスで行くのかと思っていましたが、成田からの飛行機の到着が遅れていたため関空組だけが先にホテルにチェックインする事になりました。
時刻はまだお昼を少し過ぎた頃だったので、買い出しがてらに徒歩で行ける範囲を散策する事にしました。
ホテルのすぐ近くにはドラッグストアやセブンイレブンがあったのですが、商品は日本で売っているものと殆ど変わりなく、値段も高かったので「もっと地元の人が買い物をするところを探そう」と色々歩き回っていると、10分ほど歩いたところに如何にもアジアっぽい活気のある市場を発見しました。
お世辞にも清潔とは言い難い場所で、美味しそうだが危なっかしく興味深い食べ物ばかりでどうしようかと思いましたが、蛋白質を摂りたかったので豚肉と鶏肉をテイクアウトしてホテルで夕食としました。
基本的にこのような庶民が集う市場は香港ドルではなく人民元で取引がなされていて、試合が終わったらじっくり遊びに来ようと思ったので急遽銀行で人民元もゲットしました。
なるべくいつもの食事ルーティンを守りたかったので豆腐と豆乳、魚肉ソーセージも買ったのですが、豆腐と豆乳は何故かメチャクチャ甘くて太りそうだったので飲み込むのを断念しました。
因みに水はコンビニで買う半額以下で市場で購入出来ました。
まぁ観光地あるあるですね。
【体重管理】
ホテルの部屋のクローゼットを開けると有難い事に体重計があったので乗ってみたら
83.8㎏と丁度良いぐらいでした。このあと市場で買った危なっかしい肉と水分を補給して服を着た状態でこの体重計に乗ったら86㎏ジャストに増えました。
香港協会の計らいで夜にホテルの中の一室に試合会場と同じ体重計が設置され体重を測る事が出来ました。
部屋の体重計で86㎏だったのと全く同じ格好で体重を測ると85.82㎏でした。
つまり部屋の体重計と検量で使用する体重計の誤差は-0.18㎏と非常に少ない事が分かりましたので、その後は部屋の体重計で体重管理を行いました。
試合当日の朝、起きてすぐの体重は
83.6㎏でした。
日本チームは午前中から試合のある女子チームと女子チームのセコンドや審判も行う伊佐川団長、現地で体重を調整したい男子数人は朝一で試合会場へ向かい、ホテルで朝はゆっくりしてから試合会場に行きたい私と塩谷さんと中村さんの3人は10時頃にロビーに集合してタクシーで会場入りしました。
前日に部屋の体重計と検量で使用する体重計の差が-0.18㎏であったことから、私は試合会場に出発するまでに体重を部屋の体重計で83.1㎏にして安心して会場へ向かおうと考えました。
起床時の体重から計算して500mlの水分を身体から排出すればOKですので、熱めのシャワーを浴びて汗を出したり、ガムを噛んで唾を吐いたり(汚くてスイマセン)しながら集合時間の30分前まで粘りました。
その結果キッチリ83.1㎏に仕上げる事が出来ました。
ここからタクシーで移動して検量までの時間はいつも通り、日本から持ち込んだ軽いウエハースタイプのプロテインバーや塩飴、OS-1の粉などを口に入れながら体重を増やさずにエネルギー補給して時間を過ごしました。
【試合会場と検量】
試合会場は九龍湾国際トレード&エキジビション・センターという九龍地区では最大のイベント会場とショッピングモールがある建物です。
旺角からはタクシーで12~3分で着きました。
会場のホールは6階にあり広々としたスペースが用意されていました。
私が到着した頃には丁度女子のスクワットが始まろうとしていた頃でしたので、中田選手、長江選手、藤永選手を応援しながら、自分の体重コントロールに努めました。
検量は通常階級が軽い方から始まって階級内はロットナンバー順に行われるのですが…
アジア大会あるあるですが、緩ぅ~い雰囲気で尚且つ言葉が通じない選手が多くて、今回も予想通り予定の時間になっても一向に検量が始まらずに、香港の選手だけが先に検量を済ませるような状態だったので、痺れを切らした日本人選手が抗議をしたら、今度は逆に日本人選手だけを優先的に検量するようになってしまって…これはこれで嬉しいけど違うよな~と思いながらも、そんな事言っていられないほど飢えていたので素直に喜んで試合に備えました。
因みに検量は82.77㎏で一発パス‼
検量後はいつも通りですがスポーツドリンクにクレアチンとBCAAを混ぜたものを2ℓ飲み干し、お粥パックを3パック胃に流し込み、エネルギーバーを3本ほど食べました。
更に今回はなんと選手や関係者全員にお弁当が用意されていたので、そちらも遠慮なくいただきました。
「なんて待遇の良い大会なんだ!香港万歳!!」
お弁当コーナーに行ってみると7種類ぐらいのお弁当が温かい状態で用意されていました。
しかし…字が読めない…
係の方に「あんたどれがいいの?」という感じの顔をされても、「炒飯」以外は解読できません。
かと言って試合前に炒飯はヘヴィーですから、麺類なら大丈夫だろうと思い「麺」という漢字を指さして「Please This」と言ったら分かってくれました。
そして出てきたものがこれ
恐らくキノコヤキソバ的なもの…だったと思うのですが、蒸気で伸びてしまっているのか?元々こういう食べ物なのか?は分かりませんが給食で昔出てきたソフト麺のような柔らかさでした。
しかし味は美味しいので全部食べるつもりはなかったのに飢えて止まらなくなっている私は結局全部食べてしまいました。
長い減量食生活で縮こまっていた胃袋に一気に食物を大量に入れたもんだから、暫くは横にならないと吐いてしまいそうなぐらい苦しくなって、血糖値も一気に上がってしまったもんだから横になっていたら今度は急に眠気が襲います。
更に暫くすると現地入りしてから完全に止まっていたお通じの方が急に活発化し背骨まで出たんちゃうかと思うぐらいスッキリする事が出来ました。
食べ過ぎたんじゃないかと思っていた謎の麺料理ですが、異常に消化が良く、ここから一時間で驚異的なスピードでエネルギーになりスクワットのウォームアップの頃には何とか気にならない程度には落ち着いていました。
そう言えば以前にもコンビニで買った焼きビーフンと焼うどんを温めてから持ってきて検量が終わってから食べようとしたら時間が経ち過ぎて蒸気でビチャビチャになっててデロデロに伸び倒していた事があったのですが、その時も構わず食べたら試合では異常に調子が良かったので、検量後の炭水化物にはわざと伸ばして消化を良くした麺類が実は最適なのかも知れません。
【試合内容】
今回は3つの時間帯に分かれて試合が行われ、午前中に女子マスターズ・ジュニア・一般を一気に行い、お昼から男子マスターズ、夕方から男子ジュニアと一般が行われました。
因みにカテゴリーを中国語で書くと
一般 = 公開
ジュニア = 青年
サブジュニア = 少年
マスターズ = 元老
と書くようで我々日本チームは全員がマスターズでの参加でしたので「チーム元老」と呼んでいました。
中国語といっても香港の人が話すのは広東語という言葉で我々が中国語と呼んでいる北京語とは全く違う言葉のようで、検量の時に「なんでこの人たち同じ中国人なのに言葉が通じてないんだろう?」と思っていたのはこのためでした。
話を元に戻しますが
検量後の栄養補給も済ませ、スクワットのウォームアップを行います。
今回セコンドを務めて下さったのは中国の広東州深圳市に在住の日本人パワーリフターの大辻さんです。
今大会では我々日本チームのサポートは勿論の事、大会全体の運営にも広く関わっておられました。
大辻さんと橘井さん、2人の日本人のご協力で我々日本人選手は何不自由なく競技に集中する事が出来たことを先に述べさせていただきます。
再び話をスクワットのアップに戻します。
今まではスクワットのアップの途中ぐらいでカフェイン入りのドリンクを入れていたのですが世界クラッシックの時にちょっとエンジンがかかるのが遅かったように思ったので、今回は試技開始の30分前にカフェイン入りのサプリメントを入れる事にしました。
世界クラッシックの反省から、とにかくスクワットの第一試技でベストパフォーマンスが出せるようにハレオのハイパードライブエナジー2.0というサプリメントを利用しました。
「フッフッフ。これで第一試技の直前ぐらいにガツンと来るだろう…」
ところがアップを進めていき私以外全選手が最終アップを終えて、私も最後に215㎏をやって終わりにしようと思っていた時にアナウンスがあり試合のスタートが20分伸びる事になりました。
「せっかくタイミング考えてサプリ入れたのに…」とも思いましたが、これも国際大会ではよくある事なので「良い経験や!」と切り替えてニースリーブを一旦下ろして10分休息をとった後に気持ちを入れなおして215㎏で予定していた最終アップを行い、その5分後にスタート重量の225㎏のラックアップだけ行って調整しました。
スクワット第一試技:225㎏ 〇〇〇
全く問題なし。
練習してきた通りの深さでしゃがむ事が出来ました。
セコンドの大辻さんとも事前に第一試技の出来次第で第二試技を230㎏にするかアジア記録の233㎏にするか決めると打ち合わせをしておいたので、ここで迷わず233㎏を申請しました。
スクワット第二試技:233㎏(※M-1アジア記録)〇〇〇
若干深く入り過ぎてしまい立ち上がりでかなり時間がかかってしまいましたが何とか成功‼
かなり粘ってしまったので大辻さんも心配して「どうしますか?」と聞いてこられたのですが、せっかくここまで来て守ってもしょうがないので第三試技は235㎏を申請しました。
ただし自分でもかなり第二試技で消耗してしまった事は自覚していたので、第三試技は世界クラッシック以降に準備してきたフォームではなく、若干浅い位置で切り返すフォームで行くことにしました。
準備してきたフォームで臨めないのは不本意ではありましたが、国際大会で「臭い所を突く」という余裕があるのもなかなか無い事なので、やってみる事にしました。
スクワット第三試技:235㎏ (※M-1アジア記録更新)〇〇×
何とか成功です。
「絶対に白‼」という高さではありませんので世界クラッシックなら赤かも知れませんが、「絶対に赤って言えますか?」という高さでもあるので、あとはジャッジの気持ち次第です。
この大会の1週間前に近畿ベンチで審判を経験しておいた事が生きたと思います。
他の人の試技を見ても今回はあまり判定の厳しさは感じなかったので2-1ぐらいでいけるのでは?と思っていたので作戦通りでした。
セコンドの大辻さんからも「お見事‼」を頂けたテクニカルな試技でした。
本来は白9個に拘って準備をしてきましたので少し悔しさは残りますが、国際大会は結果が全てですので235㎏をとれた事を素直に喜び、反省は後回しに気持ちをベンチに向けます。
マスターズは10人だけの出場でしたので、1グループ回しでセッション毎に20分の休憩がありました。
ベンチプレスのウォームアップはいつも通り60㎏-100㎏-120㎏-130㎏とやって簡単に終了です。
今回の目標は世界クラッシックよりも2.5㎏だけ重い150㎏を取って帰る事に設定しました。
世界クラッシックでは140㎏-145㎏-147.5㎏でしたので単純にそれよりも全て2.5㎏足して申請すると最初から決めていました。
ベンチプレス第一試技:142.5㎏ 〇〇〇
特に問題なし。
ベンチプレス第二試技:147.5㎏ 〇〇〇
ちょっと重く感じましたが何とか成功。
若干スクワットで力を使い果たした感がありましたが、パスするという選択肢はないので150㎏を申請しました。
ベンチプレス第三試技:150㎏ ×××潰れ
潰れてしまいました。
肩の怪我の事もありベンチに関しては根本的にフォームから見直さなければこの先全く伸びない気もするので、今年の秋から冬にかけて大改造を行おうと心に誓いました。
デッドリフトのアップもいつも通りで70㎏-120㎏-160㎏-200㎏-230㎏を1発ずつやって終わり。
世界クラッシックからの修正点は1点だけで、アップではなるべくゴム手袋をはめて行いました。
これは直前にマメが剥けるという最悪の事態を防ぐという目的で、2012年のアジア大会までは必ず行っていたことですが、その後は横着になって使っていなかったのを今回は復活させました。
世界クラッシックのアップでも指の節が裂けたりして少し不安になったので、試合前に少しでも不安材料は減らした方が良いだろうという考えで準備しました。
デッドリフト第一試技:245㎏ 〇〇〇
特に何も感じないぐらい楽に成功。
床に落ちたティッシュを拾うのと同じぐらいの軽さでした。
デッドは好調と見た‼
デッドリフト第二試技:250㎏ 〇〇〇
これも軽すぎるぐらい楽に成功。
床に落ちたポッキーを拾うのと同じぐらい軽く感じました。
第三試技は255㎏にしようか260㎏にしようか迷ったのですが…今回は全種目私が最終試技者だったので「ちゃんと成功して終わろう」と安牌を選びました。
デッドリフト第三試技:255㎏ 〇〇〇
少し浮きにもたついた感はありましたがバランスを崩さず成功。
自分のメンタルの弱さでもあるのですが、デッドリフトは練習であがっている重さと試合であがる重さの差が10㎏ぐらいあるので、もっと追求すれば伸ばせる種目だなと感じました。
今回一緒に戦った島根の川島選手が、もの凄い情熱を持ってデッドリフトに挑んでいるのを目の当たりにして大変勉強になりました。
「自分ももっとデッドを追求していこう」と心に誓いました。
終わってみればトータル637.5㎏と昨年9月のジャパンクラッシックマスターズよりも7.5㎏伸ばす事が出来たので現状の力ではベストな結果だと思います。
何よりも5週間の練習と調整で世界クラッシックでの617.5㎏から20㎏回復させる事が出来たことは一定の成果と言えると思います。
その反面、スクワットで世界クラッシックでも100%通用する深さで3試技続けるにはまだまだ安定感もスタミナも無いという事が分かりました。
1学期の中間テストで40点だったものが、夏休みの短期集中講座を終えて実力テストで80点の答案をもらったような感じです。
まだまだ目指す先は遠く、だからこそ楽しいパワーリフティングです。
大辻さんと共に今大会で大変お世話になった橘井さん
とにかくお二人のお陰で日本チームは全員全力で戦う事が出来ました。
この場を借りて改めて深く感謝申し上げたいと思います。
【大会を終えて。チーム元老JAPAN】
試合後と翌日のファンクションの後に元老JAPANの仲間達と香港の街を楽しむことが出来ました。
ちょうど団長の伊佐川さんが誕生日という事もあり夕食会はささやかなお誕生日会となりました。
夜はナイトクルージングも楽しむ事が出来、海上から100万ドルの夜景を見る事が出来ました。
今回のメンバーでは塩谷さんと中村さん以外の方とは初対面でしたが(塩谷さんは世界クラッシックで一緒、中村さんとは2012年のインドでのアジアクラッシック以来)、皆さん国内外で多くの試合を経験されていて、一緒に居て話を聞くだけで自分が強くなるヒントを沢山頂けたと思います。
最終日も出発の時間ギリギリまで買い物をしたり、みんなでお茶しに行ったり、観光したりと楽しく過ごす事が出来、カルガリーとはまた違った国際大会の楽しみ方が出来ました。
日本代表とは言え当然皆、仕事や家庭を持ちながらトレーニングの時間を捻出し、更に試合に出場しているのですから「また会いましょう‼」と言ってもそう簡単に再会出来るものではありません。
「次は北海道で会いましょうね‼」と言っても都合がつかずエントリー出来ない選手もいました。
北海道でのジャパンマスターズクラッシックにエントリー出来ないという事は来季の国際大会出場はないという事ですから、世界を目指す人にとっては厳しい現実です。
特にマスターズになると今年と同じパフォーマンスが来年必ず発揮出来るとも限りませんし、毎年自分よりも若い選手がカテゴリーにエントリーしてくるわけで、次また勝てる保証などありません。
幸い私はこの時点で北海道に行く予定でした(※冒頭に記したように地震のため開催地と日程が変急遽変更された)が試合に参加出来る事への感謝の気持ちを常に忘れず、1年1年1試合1試合を大切に全力で戦わなければならないと思いました。
【大会を終えて】
今回は短期間で問題点を改善できたという点では大変収穫のある大会ではありました。
しかしこれはあくまで来年の世界クラッシックに向けての準備を行う為のファンデーションに過ぎず、本当に大切なのはここから如何にして世界で通用する力をつけていくかという事です。
長期的に見るとスクワットは更なる深さと安定感を追求していかなければなりません。
勿論MAXを伸ばしていくことは大切ですが、それよりも優先すべきは絶対に失敗しない重量の値を伸ばしていく事だと思います。
当たり前の事ですがスクワットは検量が終わってから一番最初に行う種目です。
記録を伸ばすことも勿論重要ですが、試合展開を考えた角度から見れば「出来る限り高記録を残して生き残る事が重要」とも言えます。
パワーリフティングは三種目での勝負です。
その三種目の中でも最も動作の難易度が高く、判定基準も統一し辛く、結果的に失敗のリスクも一番高いのがスクワットです。
従ってスクワットで無理な勝負をするのは試合展開全体から考えると、ギャンブル性の高い行為だと思います。
勿論日本記録や世界記録を狙って大会に出場する場合はスクワットで限界に挑戦する必要がありますが、私の今の力ではそれは無い事ですので、世界大会を想定した場合はスクワットでは確実に三試技とって「失敗せずにベンチに繋げる」という戦い方に変えていく必要もあります。
またそうなるとベンチプレスも安定感を残したままあと15㎏は伸ばさねばなりませんし、デッドリフトはスクワットとは逆に勝負がかかった状況でギャンブル性の高い挑戦も出来るように準備をしていかなければ世界大会でギリギリの勝負を制する事は出来ないでしょう。
こういった試合展開をイメージした組み立ても今後は意識して各種目にあった強化を行って参りたいと思います。
最後になりますが、今回も大会に参加する為に協力してくださった職場の皆様、いつも応援してくれる家族、大学の学生の皆さん、SNSなどで沢山のメッセージをくれた仲間たち、SBDApparelの皆様、そして読者の皆様。
本当にいつも有難う御座います。
次回は11月24日(土)兵庫県明石市です。
6年ぶりに自己ベストを狙いますので引き続き応援宜しくお願いいたします。
コラムニストやコラム内容についてのメッセージは下記のアドレスまでお送りください。
コラム用メールアドレス: column@sbdapparel.jp
※どのコラム宛かを明記してください。
※お送りいただいたメールの内容は、コラムで取り上げられる事があります。
■コラム執筆者
佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 241kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg
戦跡
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・一般男子83㎏級スクワット日本記録樹立
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝
・2018年世界クラッシックパワーリフティング選手権大会 マスターズⅠ83㎏級 5位
・2018年香港国際クラッシックインヴィテーショナル大会 マスターズⅠ83㎏級 優勝
・マスターズⅠ83㎏級スクワットアジア記録樹立
ボディビルディング
2000~2001年 関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年 全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年 日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年 関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝