ようこそのお運び、厚く御礼申し上げます。
先月よりSBDコラムを執筆させていただいております、東京大学ボディビル&ウェイトリフティング部の久恒歩です。
最初の記事を掲載させていただいてから、多くの方々より御声がけ等をいただきまして、誠に感謝申し上げます。
2回目の執筆となる今回は、以下の内容でお付き合いいただければと思います。
⒈ 練習時のウォームアップ(御質問への返答)
⒉ パワーリフティングの試合での重量設定で注意すべき点
早速ですが、内容の方へ入らせていただきたいと思います。
1.練習時のウォームアップ(御質問への回答)
大変ありがたいことに前回の私の記事に対して、「8rep×3setの場合、ウォームアップはどのように行っているのか」という御質問をいただきました。
回答が遅くなりまして大変恐れ入りますが、まずこちらにてご回答させていただきます。
私自身はウォームアップを、「体を温める、ほぐす」「よいフォームを作る」という2つの目的を持って行っています。
1つ目の「体を温める、ほぐす」という目的について、おそらく説明の必要はないかと思いますが、私の場合は体の柔軟性が乏しいため、最初の重量のアップ(スクワットやベンチプレスでは20kg、デッドリフトは60kg)を入念に行うことによって「体をほぐすこと」を重視しています。
特にスクワットやデッドリフトでは股関節周り、ベンチプレスではブリッジを組むのに必要な部分の柔軟性が重要となるためです。
2つ目の「よいフォームを作る」という目的についてですが、私はメインセットを自分の全力を出し切るものと考えており、追い込めるように重量を設定しているので、メインセットを行う際に自身のフォームを意識することがあまりできません。
そのため、ウォームアップの軽い重量で自分の理想のフォームを意識し、そのフォームを崩さないように徐々に重量を上げていくことで、よいフォームでメインセットを行うように心がけています。
私のウォームアップの具体的な例を示しますと、スクワットの場合、
シャフト(20kg)→60kg→100kg→140kg→160kg→170kg→メインセット(180kg)
という重量にておこなっております。
なお、ウォームアップのレップ数は重量が上がるにつれて少なくしております。
上記の重量で行っている理由は20kgプレートを使用しているためであり、もちろん選手によってアップの重量設定も異なると思います。
またウォームアップを行う際には、以下の2点を注意しております。
- 重量設定を飛ばしすぎない、刻みすぎない
アップの重量を大きく飛ばした場合、急に重く感じることがあり、それによってフォームが崩れやすくなるためです。
また逆に重量を刻みすぎる癖がついてしまうと、試合でアップ場が混雑した場合に、試技開始に間に合わない可能性があるためです。
- 軽い重量からメインセットと同じコスチュームで行う。
私の場合、ベルトやリストラップの有無によってフォームやシャフトの軌道が変わってしまうためです。
特にスクワットでは、ベルトによって腰回りをきつく固定するため、ベルトを付けずにしゃがんだ場合はかなり動きが変わってしまいます。
したがって、上述したウォームアップで「よいフォームを作る」という観点からすると、軽い重量からメインセットと同じ動きができるように、同じコスチュームで行う必要があると考えています。
さらに、軽い重量でもベルトやリストラップを使用することは、怪我の防止の観点からも有効だと思われます。
メインセットよりもむしろウォームアップの方が緊張感が不足するため、精神的な観点からはむしろウォームアップの方が怪我のリスクがあると考えられます。
したがって、ウォームアップからしっかり怪我のリスクに備えてコスチュームを装着することが重要であると考えています。
以上を返答とさせていただきますが、あくまでもウォームアップに関する私見となります。
ご参考になりましたら幸いです。
⒉ パワーリフティングの試合での重量設定で注意すべき点
今月末の11/30(土)と12/1(日)の2日間に、東大駒場キャンパスのトレーニング体育館にて関東学生パワーが開催されます。
*上の画像が東大のトレーニング体育館です。私の所属する東大B&W部も、普段ここで練習しております。
私自身もそうでしたが、冬の学生大会には、4月に入部して競技を始めた1年生で今回が初めてのパワーリフティングの公式試合という選手が多く出場します。
そのため今回の記事では、特にそのような初心者の方々に、試合での重量設定で留意していただきたいことをご紹介したいと思います。
重量設定で注意していただきたいことは以下の3点です。
⑴ 第一試技と第二試技を、確実に「挙げられる」重量に設定すること
⑵ 第三試技についても、「挙げたい重量」ではなく「挙げられる重量」に挑むこと
⑶「挙げられる重量」とは「白旗がもらえる重量 」であること
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第一試技と第二試技を、確実に「挙げられる」重量に設定すること
第一試技について、「調子が悪くても確実に挙げられる重量」である必要があると考えています。
減量を行なって試合に出た経験のある方ならお分かりかと思いますが、試合当日になって、普段挙がっていた重量が急に重くなることもありますので、第一試技はそのような状況になっても挙げられる重量に設定すべきです。
また、第一試技を落とした場合の精神的ダメージはかなり大きいので、特にスクワットなどで「絶対白旗がもらえる」と思えるくらいしゃがむためにも、安心しておこなえる、かなり譲歩した重量であるべきだと考えます。
また第二試技に関して、「第二試技で自分のMax重量(目標とする重量)を挙げて、第三試技では挑戦する」という意見も聞かれます。
しかし私自身は、第二試技も自信を持って挙げることのできる重量で行うべきであると考えます。
自分のMax重量は少しでも調子が悪いと失敗となることが多いため、第二試技でそれに挑戦するのは、結局第一試技の記録で勝負することになるリスクが大きいためです。
また私自身は第二試技を、「第一試技から第三試技へのつなぎ」、「第三試技に挑むための保険」と認識しているので、「確実に挙がり、なおかつ最低限の順位争いに加われる重量」を第二試技に設定するようにしています。
勝負がかかった試合では攻めた重量設定を行いたくなるものですが、そのような場合こそ、第一試技と第二試技は確実に取れる重量を選択すべきです。
例え挙がっても失敗試技となった場合は、結局もう一度同重量をやることが多く、試技が1回分無駄になってしまいがちだからです。
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第三試技についても、「挙げたい重量」ではなく「挙げられる重量」に挑むこと
地方大会などの補助に行くと、グッドリフトの第三試技の列が真っ赤になることをしばしば見かけます。
やはり第三試技では自己ベストなどの記録に挑戦したいものだとは思いますが、順位のかかったデッドリフトの第三試技ならともかく、基本的にパワーリフティングでは挙げることのできる重量を第三試技に設定すべきであると考えています。
すなわち「挙げたい重量」と「挙げられる重量」を混同しないことが重要です。
自分の本当のMax重量というのは気持ちだけで挙がるものではなく、普段の練習の積み重ねの上に、当日のコンディションがうまく噛み合って、初めて挙がるものです。
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「挙げられる重量」とは「白旗がもらえる重量 」であること
当たり前のことを書いて恐れ入りますが、パワーリフティングにおいて、「挙がる重量」というのは、「白旗がもらえるように挙げた重量」であることにも注意すべきです。
特に以下の条件を満たしたしたうえでの自分の挙がる重量を把握しておく必要があります。
・スクワット:深さ
・ベンチ:止めの長さ
・デッドリフト:返し
上述した項目は、審判員や見る位置によってもかなり変わるので、第一試技や第二試技の重量では、多少余裕のある試技を行うことが必要です。
普段から練習仲間同士でお互いの試技を判定している方々は、ついつい仲間の試技をあまい判定で評価したくなるものですが、本人が試合で後悔しないために厳しく評価することが重要であると考えています。
また自分の試技を撮影して自分で判断することもあるかと思いますが、これも撮影する位置によってかなり見え方も変わってきます。
やはり審判員資格を持った方々に実際の位置から見ていただくことが重要であると考えています。
結論としては、
⑴ 第一試技と第二試技を確実に「挙げられる」重量に設定すること
⑵ 第三試技についても、「挙げたい重量」ではなく「挙げられる重量」に挑むこと
⑶「挙がる重量」とは「白旗がもらえる重量 」であること
の3点を意識して、重量を設定する必要があると考えています。
終わりに
私自身も第一試技でやらかすことが多いので、重量設定に関して大きなことは言えませんが、6月の世界クラシックパワーの競り合いの事例をご紹介したいと思います。
私と4位の選手のトータル重量の差はわずか2.5kgであり、成功試技の数の差は、私が7本、彼が6本でした。
もし彼に一本でも多く成功されていたら、もしくは私が一本でも多く落としていたら、おそらく順位は逆になっていました。
(そうなれば、SBDコラムを書かせていただくこともなかったでしょう。)
実はこの時の試合では、私が当初予定していた各試技の重量からそれぞれ5~10kg落として試技を行いました。
これはTXPの武田選手のアドバイスによるものですが、今思うと当時の私の重量設定に対する認識がいかに甘かったかとても反省しています。
おそらく重量を落としていなければ、順位はおろか失格していた可能性も大いにあったでしょう。
世界クラシックパワーでの結果は武田選手の助言あってこその結果であり、武田選手には感謝してもしきれません。
*武田選手が配信されているTXPのYouTube動画は非常に勉強になります。
私の記事よりはるかに役立つ内容を、論理的にわかりやすくご紹介してくださっているので、全てのパワーリフターに視聴をおすすめいたします。
世界クラシックの経験から「順位を狙うような試合でこそ、第一試技と第二試技は確実に取れる重量で臨むこと」の重要性を思い知らされました。
ノーギアの場合は世界大会でも、上位の選手はほとんど潰れることなく、三種目で第三試技までほぼ成功させていることを考えると、「自分の力を素直に受け入れ、確実に成功試技を積み重ねていく力」こそが、自分と世界のトップレベルの選手の違いであると感じています。
また、結果として同じ記録であっても、成功試技が多い方が試合を楽しむことができると思います。
そのため、特に今月末の関東学生パワーに出場する選手には、大会でなるべく多くの成功試技を重ねることで、パワーリフティングをもっと好きになっていただければと思います。
今月はこれにて終了させていただきます。最後までお読みくださりありがとうございました。
拙い内容ですが、来月もよろしくお願い申し上げます。
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久恒歩
東京大学ボディビル&ウェイトリフテイング部 所属
自己ベスト(一般男子59kg級)
スクワット:205kg(一般日本記録)
ベンチプレス:137.5kg(ジュニア日本記録)
デッドリフト:245kg
トータル:587.5kg(世界ジュニア記録、一般日本記録)
戦績
2019年ジャパンクラシックパワーリフティング選手権 一般男子59kg級 優勝
2019年世界クラシックパワーリフティング選手権 一般男子59kg級 3位
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