皆様、新年明けましておめでとうございます。
SBDコラムニストの佐名木宗貴です。
本年もよろしくお願いいたします。
暖冬であまり寒くもなく比較的過ごし易い年始ではありますが、皆様どんな形で2020年最初のトレーニングを行ったでしょうか?
私は12月29日に2019年最後のトレーニングを終えていたのですが、中3日でスクワットとデッドリフトをするというスケジュールを崩したくなかったので1月2日から開いているジムを色々と探して神戸の西舞子にある藤本ジムまで行って2020年最初のトレーニングを行いました。
途中渋滞に巻き込まれ長時間運転したため腰がカチコチに固まってしまい「こりゃ軽めに流すだけにした方が良いかな」と弱気になっていたのですが、丁度スクワットのウォームアップを始めた頃に兵庫が誇るMr.スクワット!新田選手が練習に来られました。
尊敬する新田選手の前で気の抜けたスクワットをするわけにはいきませんので、そこから一気に気合が入り結局3種目ともハードに行う事が出来たので最高なトレーニング初めとなりました。
昨年は殆ど出稽古をせずに職場でトレーニングする事が多かったのですが、今年は刺激を求めて積極的に外に出てトレーニングしようと思います。
【関西大学ベンチプレス大会】
それでは今月も本題に入る前の御報告をさせて頂きます。
昨年末の事ですがSBD Apparel Japan様にも御協力を頂き、私の職場である関西大学にてベンチプレス大会を開催しました。
この大会は主に学内体育施設にてウエイトトレーニングを普及させる事で、一般学生の健康増進・体力向上に寄与する事が目的とされる大会なのですが、我々S&Cスタッフとしては一般学生と体育会学生との交流の場を作る事で体育スポーツにより興味を持ち、母校を代表する体育会クラブやアスリートを応援する風土を醸成する事も狙いとして行っているイベントです。
非常に小規模な大会ではありますが2017年度からはSBD Apparel Japan様にも御協賛いただき、学内トレーニー達にとっては年に一度のイベントとして親しまれております。
このイベントは企画運営の全てを関西大学学生S&Cが行い学生主体で実施しています。
今年も各カテゴリーの優勝者と敢闘賞受賞者への表彰写真だけ掲載させていただきます。
一般学生女子1~4回生の部 ※体育会の非選手マネージャー・トレーナー出場可
今回は学生以外にも2019年近畿クラシックベンチプレス120㎏級準優勝のアメリカンフットボール部コーチ和久憲三コーチにも模範試技をお願いして会場を盛り上げて頂きました。
また今年は参加賞として先着50名にBULLブランドで御馴染みの株式会社ザオバ様からシリコンリストバンドもご提供いただきました。
一般学生の中には学生S&Cにパーソナルトレーニングを依頼してくれる学生も増え、今後益々ますます学内でトレーニング熱が高まる切きっ掛かけとなったかと思います。
学生主体のクラブが、このような取り組みを行っている大学は日本では珍しいと思います。
今後もより良い大会となるよう彼等の活動をサポートしていきたいと思います。
大会参加者の皆さんお疲れ様でした、また来年さらに強くなって挑戦してください!
SBD Apparel JAPAN様、株式会社ザオバ様、ご協賛頂き有難う御座いました。
【フックグリップの習得】
さて2020年最初のコラムはタイトルの通りデッドリフトでフックグリップを習得するためのプロセスとキーポイントとなる親指の作り方について解説したいと思います。
何故なぜ今回この内容にしたのかというと、実は昨年末にギックリ腰をやってしまい1週間ほど歩くのにも不自由するほどの状態になってしまいました。
原因は間違いなくスクワットとデッドリフトによる疲労の蓄積で、2月末のアジアパシフィック選手権にエントリーした事から「年明けから7週間でピークを作ってやる」と意気込む中で「年内はある程度ボリュームのある練習をして身体を作っておこう」と考えスクワットとデッドリフトを同じ日にトレーニングし始めたところでした。
12月7日には東京出張の帰りにSBDコラムニスト仲間の栗原君とも合同練習をしてスクワットは225㎏で3回、230㎏で1回、デッドリフトは235㎏で7回と試合の無い時期にしては久々に重い重量でトレーニングが出来ていました。
しかしこの翌週にギックリ腰をやってしまい
1週間塞ぎ込んでいる時に「スクワットとデッドリフトを同じ日にトレーニングして両種目の頻度を多くする事は良い感触だったが私のフォームはどちらとも上体の前傾が強いので、この頻度を継続するためには腰への負担を軽減する必要がある」と考えました。
しかし昨年膝を痛めている関係でスクワットの上体を立てるのには少し抵抗があります。
となるとデッドリフトでもっと上体を立てて股関節を割ったスタート姿勢を作るのが良いのではないかと考えました。
しかしデッドリフトのフォーム、特に股関節の割り方自体を変える事は関節の柔軟性や可動域、出力に関わる問題ですのでこの短期間で大きく変える事はリスクを伴います。
そこで単純にグリップをフックにする事で若干腕を長く使い少しでも上体が前傾する角度を浅くして腰背部への負担を軽減しようと考えました。
元々オルタネイトでの右グリップの弱さも長く改善されない問題でしたので良い機会だと思い前向きに取り組むようになったのが丁度4週間前の事です。
(この部分は1月17日に書いています)
【親指が痛い】
ギックリ腰から1週間後、必死に治療を行ったお陰で若干痛みと張りが残るもののSBDのベルトをしっかり締めれば軽めのトレーニングが可能になりました。
まずは70㎏でフックグリップを試してみたところ思っていたよりも違和感なく指に痛みも感じませんでした、予想通りオルタネイトで握り込むよりも腕が長く使えて上体が立ちバーの浮きも早く腰への負担は少なそうです。
しかし最初の1週間かけて70㎏⇒100㎏⇒120㎏⇒150㎏と段階を踏んでいく中で徐々に親指の痛みが気になるようになりました。
この時期に痛みが出ていた個所は
この辺りです。①の部分はバーと中指に挟まれてうっ血したような感じで、これは慣れるしかないなと思いました。②は爪の付け根なのでこれも慣れるしかない。③は握り方を改善して人差し指と親指の間になるべくシワを作らないようにしたところ、肉が重なって挟まれることが無くなり痛みは無くなりました。
最初は手の平を外側に向けて親指の付け根をバーに押し込むように密着させながら親指と中指でフックを作り、そこから少し上に引っ張りテンションをかけながら薬指と小指を引っ掛けるようにロックします。
人差し指は殆ど何もしませんが中指を邪魔しない程度に寄り添っておくとフックが外れにくい気がしました。
このようにすると私は一番シックリくるのですが、他の選手にも聞き取りをするとやはり人それぞれ感覚は違っていて、当然みんな手の厚さも指の長さも違うので色々試してみてご自身の一番納得のいく形を探すのもフックグリップ習得の楽しみ方かと思います。
この①と②の部分の痛みに慣れるためには繰り返しトレーニングをするしかないのですが2月末に試合もあるためフックグリップが本当に自分に合っているかどうかを早めに見極め判断をしないと直前になって「やっぱオルタネイトの方がやり易かった」となってもオルタネイトに戻す期間が短くて調整に失敗する恐れがあります。
そのため出来る限りこの「痛み」という問題を解消し純粋にフックグリップとの相性を評価する必要がありました。
【親指鍛錬法】
ギックリ腰の不安は抱えつつも中3日でスクワット&デッドリフトのトレーニングを再開してベンチはそれ以外の日に週2回やるような形でトレーニングしていますので、まずはデッドリフトを全てフックグリップに変更しました。
またベンチプレスの日の空き時間に親指を鍛えるための補助種目を行い、親指を鍛えるようにしました。
重量的に重いものを持つとベンチプレスや中3日のスクデッドに影響するといけないのであくまで軽めの重量で、筋肉に効かせたりするのではなく親指の皮膚を鍛える目的でとにかく毎日フックグリップでバーを握るようにしました。
比べて良いものかどうかは分かりませんが空手家の方が瓶で叩いて脛を強くしたり、木を殴って拳を硬くするのと同じようなイメージです。
また翌日まで熱感が残ると親指鍛錬を継続できないためトレーニング後は氷で親指を冷やし熱感をとるように努めました。
またフックグリップでは親指と中指のロック以上に薬指と小指のを引っ掛けて固定する力が必要です。
握る力ではなく引っ掛ける力です。
これらも親指鍛錬と同時にチンニングバーに薬指と小指だけでぶら下がったりしながら意識する事で強化する事が出来ました。
上記の補助種目で注意すべきは握りの深さをデッドリフトと同じ深さにする事です。特にベントローやシュラグは薬指と小指が浅いと心許なくてついつい力を入れてしまいそうになりますが、プラットフォームなどで行いグリップアウトして落としてしまっても構わないぐらいの気持ちでやる方がデッドリフトでの再現性が高まり良い練習になると思います。
フックグリップ練習開始から2週間
デッドリフト250㎏
このように親指を鍛えフックグリップを作り上げる過程で年末年始を迎えトレーニング頻度が下がりせっかく作った指が弱くなってしまうのでは?と不安になりましたが、冒頭でも書いた通りお正月でもトレーニングできる藤本ジムのお陰で1月2日に250㎏を引く事が出来ました。
まだまだ痛みはありましたが私の試合ベストが260㎏で練習ベストが265㎏ですので2週間の取り組みで94~95%まで上げられるようになったのだから悪くはないと思います。
【4週間が経って】
年末年始でバーベルを触る機会が減っていた時期も意識して近所の公園の鉄棒や電車の手すり、車のハンドルなど、とにかく物を握る時はフックグリップを作り親指を強化しようと意識し続けた結果、フックグリップの導入開始から4週間が経過した時点で親指の痛みはあまり感じなくなってきました。
前記した①②の部分は感覚が鈍くなりシャンプーをしていると親指が後頭部に触れているのかどうかよく分からないような感じです。
スマートフォンの画面操作が親指だと少し反応が鈍くなりましたが、その他は特に生活面での支障はありません。
記録も順調に伸びていて3週目には255㎏
そして4週目にはついに試合ベストの260㎏を引く事が出来ました。
3週目の255㎏を見て頂ければ分かる通り、この週は親指にテーピングを巻いて行いました。
少し親指がひび割れて裂けそうだったのもありますが、それよりも今後試合でフックグリップを採用する為にいくつかある懸念に対する対策を模索しているためです。
懸念①:試合のウォームアップでなるべく親指を温存したい。
これはもっともっとフックに慣れてくれば大丈夫なのかも知れませんが、現段階ではまだセット数が多くなると親指に熱感が出て来て後半少し気になる事があります。もしこれが試合までに改善されない場合はウォーミングアップの後半部分はテーピングを使おうかと考えています。
(例:佐名木の場合)
70㎏⇒120㎏⇒160㎏までは素手。200㎏⇒230㎏はテーピング。
第一試技250㎏は勿論素手。
こんな感じです。
懸念②:レップスがこなせない。
これも①同様にもっと慣れれば可能なのだと思いますが、現段階では回数をこなす練習をしようとすると痛みが出たりグリップが外れてしまうのでテーピングで親指を強化して回数をこなす練習をしようと考えています。
リストラップを使えばいいじゃないか?と思われるかも知れませんが私の場合は何故かリストラップを巻くとフィーリングが変わってしまい、特にスタートで浮かせる時の身体の使い方が変わってしまいます。
元々オルタネイトの時からリストラップを使うより素手の方がデッドは強かったので今回も感覚が変わるぐらいなら使わないでおこうと考えました。
ただしあくまで私の感覚の話なので他の人はリストラップを使用されても良いかと思います。
どの種目もそうですがMAX周辺の重さになるとミリ単位でのズレが感覚を狂わせてしまいますので私の場合は「今は」使わずにテーピング補強で乗り切りたいのです。
【今後の強化ポイント】
この4週間でフックグリップを習得したとは到底言えませんがとりあえず試合で使えそうな兆しは見えてきました。
アジアパシフィック選手権はフルギアベンチ・フルギアパワー・ノーギアベンチ・ノーギアパワーと全てのカテゴリーを約1週間で行う大会です。
私の試合は2月28日ですのでこのコラムを書いている時点(この部分は1月23日に書いています)で5週間前という事になります。
最後の1週間は微調整と移動だけなので残りのトレーニング期間は4週間です。
中3日でスクワットとデッドリフトを来おこなうというスケジュールは今のところ変えるつもりは無いので回数を数えると本気のデッドリフトはあと7回です。
今後もフックグリップを続けるにあたり前記した懸念①②以外に心配している事が1つあります。
それは返しの甘さをとられるのではないか?という点です。
以前のコラムでも紹介した通り
審判目線で見るとデッドリフトのフィニッシュ時に肩が明確に返っていなければダウンのコールをかけ辛いですし引ききれていないとみれば赤判定となります。
これは国内の大会ではあまり厳しく見られる事は無いように思いますが、国際大会ではかなり厳しく見る審判が多いポイントです。
フックグリップはオルタネイトに比べて腕の力を抜いて引ける反面、肩を返し辛いという弱点もあります。
審判から見ても肩が返っているのかどうか?引ききれているのかどうか?が判定し辛く、当然オルタネイトに比べるとダウンのコールがかかるのも若干遅くなります。その僅かなタイミングの違いからグリップアウトのリスクも高まりますし、引ききっているのに赤が付くという可能性も高くなります。
私もフックグリップで練習し始めてから自分で動画を撮影し見返す中で「あれっ?自分ではしっかり肩を返して静止しているつもりなのに…全然返ってないな…止まってもないな…。これは赤だわ」
と自分の感覚と実際の完成度とのギャップを何度も感じており、これはオルタネイトでは無かった事でした。
これに対する準備としては、まずは親指の強化(更に痛みを感じなくする)と薬指・小指の引っ掛ける力を強化することで引ききった時に長く止めるための強いグリップを作る事が最優先で、その次がスタート姿勢とグリップ位置を肩の返しを邪魔しないようにセットする事だと思います。
スタート姿勢で無理に腕を長く使おうと意識し過ぎて肩が前に落ちすぎてしまうとフィニッシュで返しが甘くなり、無理に返そうとすると腕に力が入りフックが甘くなる。そうならないためにも肩は落とし過ぎず引き上げた時に自然と胸が開き肩が返るようにすること。
そしてストロークを短くしようとグリップを狭くし過ぎるのも、狭くした腕が胸に当たって返しを邪魔してしまうのでNGだと思います。
これらを意識して実際に試合で使えるデッドリフトに仕上げていこうと考えています。
これらの取り組みが成功するのか否か?
3月末か4月末のコラムで御報告させていただきます。