皆様こんにちはSBDコラムニストの佐名木宗貴です。
今月もご覧頂き有難う御座います。
先月のコラム(ルールのある世界のドーピング違反とルールの無い薬物を使用した肉体改造の違い)について多くのコメントをSNSなどで頂き本当に有難う御座います。
自分で確認出来る範囲ではありますが全て読ませていただきました。
私は文章というのは必ずしも完全なものでなくても良いと考えており、読み手の方々に感じたり考えたりする余地を残す事も必要だと思っています。
書き手と読み手の考えや思いが合わさる事でそれぞれ違った完成を皆さんの胸の中で遂げれば良いと思っています。
私の送り出した文章が皆様の胸の中でどのように完成したのかを垣間見る事が出来るのは本当に励みになりますので今後もコメントなど頂ければ幸いです。
おしらせ
関西大学S&C主催学内イベント オンラインパワーチャレンジ
毎年このコラムでもご報告させていただいております、私が監督を務めております関西大学学生S&Cが毎年主催する学内イベントであるベンチプレス大会を今年も開催する時期なのですが、皆様ご存知の通り今年はコロナ禍で学内でイベントを開催する事が非常に困難な状況となっております。
「今年はもうやめとくか?」との案も出たのですが学生達が知恵を絞り、ちょうど春から夏にかけて東京パワーリフティング協会が主催していたオンラインパワーチャレンジのような形で開催出来ないかと企画して今回実現する事となりました。
ルールは以下の通りです。
①ベンチプレス
・1RM の測定とする。
・コスチュームに関しては、リストラップ・ベルトのみ認める。(ベンチシャツ・エルボースリーブ に関しては本ルールでは認めない。)
・後頭部・背中・尻・ 両足 の5点が 競技 動作中に宙に浮いていないことが確認できる。
・バーベルが胸または腹部に触れていることが確認できる。(胸または腹部の上で静止させる必要はない)
【関西大学学生S&C主催】K.U.Power.Challenge ベンチプレス部門 ルール解説
②プッシュアップ
・1分間での拳上回数を競う。
・セットポジションから90 度以下になるところまで両肘を曲げ上体を下ろし、両肘が真っ直ぐになるまで上体をあげる 。
・時間内であれば、ポジションが崩れた後も組みなおして続行可能とする。
・女性部門は、膝を床につけての動作も可能とする。
【関西大学学生S&C主催】K.U.Power.Challenge プッシュアップ部門 ルール解説
動画を撮影する事が出来る環境にある人はベンチプレスの動画を撮影しチャレンジしてもよし、動画を撮影できない環境の人や「ベンチプレスはちょっとなぁ~」という人はプッシュアップの部にチャレンジするもよし。
優勝者には今年もSBDのTシャツがプレゼントされますので、このコラムをご覧いただいている関大生の皆さんは是非チャレンジしてみて下さい。
また高校生で筋トレが大好きな人は関西大学を志望校の一つに加えてみてはいかがでしょうか?
1年3ヶ月ぶりの審判
それでは今月の本題にうつります。
今回は10月31日~11月1日に徳島県で行われた第21回ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会(一般・ジュニア・サブジュニア、以下「JCB」)で約1年ぶりに審判を務めさせていただいた体験記とさせていただきます。
過去に何度かこのコラムでも書きました私のパワーリフティング3級審判員から2級審判員への昇級を目指す「2級審判への道」ですが、2級審判への昇級試験を受けるための条件である、『2年以上の実務経験があり8試合以上の公式競技会において審判を行い優秀であると認められること(そのうち少なくとも3回は3種パワーリフティングの試合で2回以上の主審経験があること)』を満たすために2018年7月から2019年7月までの1年間で7つの試合で審判を行いました。
(三種パワー4試合:長野県パワー、赤穂忠臣蔵パワー、全日本パワー、近畿クラシックパワー、ベンチ大会3試合:近畿ベンチ2回、ジャパンクラシックベンチ)
そして、2020年2月の愛知で行われる予定であったJCPか3月の高校選手権で8回目の審判を経験し、最初の審判から2年が経つ今年の夏頃の大会で2級審判への昇級試験を受けさせてもらおうという算段でいたのですが、残念ながらその後コロナ禍となり予定していた試合も無くなり審判活動も止まってしまいました。
夏頃からようやく兵庫県を中心に少しずつ公認大会が開催されはじめていたものの私自身の環境やスケジュールが合わず、気が付くと前回審判を行った2019年7月28日の近畿ベンチプレス選手権大会(和歌山県開催)から1年以上が経ってしまい「このままではせっかく1年間頑張って学んだ事をすべて忘れてしまう」と思い今回スケジュールに都合をつけて最後の8試合目を徳島JCBにて経験させていただく事となりましたので大凡1年3ヶ月ぶりの審判活動という事になりました。
出場者の少ないJCB
JCBと言えば例年は一般男女だけで160人以上、マスターズやジュニア・サブジュニアを合わせると400人以上の大規模になる国内最大規模の大会ですが、今年は新型コロナウイルス感染症の影響からか例年に比べるとかなり参加者が少なく110名がエントリーした大会となりました。
これはもちろん大会としては残念な事ではありますが、審判経験が浅いうえに1年以上間隔があいてしまった私にとっては試技数も少なく集中力の続く範囲で丁寧にジャッジする事の出来る良い大会となりました。
私が担当したのは男子93kg級です。
12名がエントリーして1名が棄権したので11名の選手で争うグループとなりましたので、我々審判員は33試技のジャッジを行う事となりました。
※実際には日本記録への挑戦が2試技あったため私がジャッジしたのは31試技でした。
目線と視野のコントロール
今回共に93kg級の審判を務めさせていただいたのは兵庫県の工藤さんと小笠さん。
いずれも経験実績の豊富な2級審判です。
全国大会では3級の私は主審を務める事が出来ないので工藤審判員が主審、副審を小笠審判員と私が勤めます。私の位置は選手の右足側の副審となりました。
第一試技が始まり最初に感じたのは自分の視野の狭さでした。
これはベンチプレス大会をジャッジする際の第一試技あるあるなのですが、選手のお尻や踵ばかりが気になってしまって注視するあまり視野が低く狭くなってしまい上半身部分を見切れなくなるという状態でした。
特にJCBはベンチプレスに特化した選手が集う日本一ハイレベルな大会です。そのため当然ルールのギリギリを突いてくる試技も多くなります。
選手のレベルが高いという事はフォームの再現性も高いという事になりますので第一試技をしっかり見て自分の中で白と赤の境界線を引いて覚えておかないと「さっきはOKやったのに何で今度は赤やねん」みたいなことになって選手を戸惑わせてしまったり公平性を欠く原因となります。
そのため一番反則の多いお尻を注視してしまうのですが、第一試技は皆軽く挙げてくるので挙上スピードが速く、お尻にばかり気をとられていると他の部分を見落としてしまう危険もあります。
そのため途中からは目線を以下のように動かす事で反則が起きそうなポイントを押さえながらも全体を見渡せるようにして視野を広げました。
スタートからバーベルが下降して胸につきプレスがかかるまでは
『グリップ⇒肘⇒かかと⇒お尻』
プレスコール後は『お尻⇒かかと⇒肘⇒グリップ』
実は第一試技の中で主審と逆側の副審は赤を上げたのに私だけが白を上げた試技が一つありました。
あとで確認するとスタートの合図無視だったのですが、私が見落とした原因がお尻と踵に視線を移すのが早過ぎて「スタート」のコールがかかるまでバーと肘をしっかり見れていなかった(視界には入っているけど注視していなかったので早いという確証が無かった)ことが原因でした。
選手がフォームを組んでラックアップするまでは副審がお尻と踵を注視する事は反則が無い事を確認し手を下ろすために必要な事ですが、手を下ろしてからもお尻を気にしていると今回のようにスタート時のバーの動きを見逃す事になります。
大切なのは
①微妙だと思ったら急いで手を下ろさない
②手を下ろしたら一旦視線をバーに戻す
この2点だと思いました。
線を引いた試技
第一試技の中で私だけが赤を上げた試技がありました。
動作中にお尻がシートから離れたと判断し反則を取りましたが反対側の小笠審判は白であったため逆側からはお尻が付いていると見えるのかも知れないと思いました。
つまり
斜め下から見るとこう見えるが
実際にはこの部分はついているのかも知れないと思いました。
しかしそれを確かめるために椅子をずらして横から見ようとすると視界が補助員やプレートに遮られグリップも肘も見えなくなってしまいます。
そのため位置は移動せず自分から見える範囲で判断を変えずに同じ基準でこのグループを裁ききる事にしました。
肘の伸び
もう一点気になったのがスタート時の肘の伸びです。
これは93kg級だけでは無かったのですが全体的に肘が完全に伸びていない状態でスタートがかかっているように感じました。
93kg級でも1人、副審の位置から見ると肘が伸びているのかどうか微妙な選手がいましたが、第一試技で「あれで伸びているのかな?」と思いながらも確証が持てるものでは無かったので「もしも伸びていないのなら一番よく見える位置にいる主審が赤判定2番をつけるはず」と思い手を下ろしました。
また逆側の副審も手を下ろしたため、この場合はルールにより主審はスタートの合図をかけなければなりません。
もしもどちらかの副審が反則を発見し手を下ろさなかった場合に主審は
1)反則があると判断した方の副審に同意し「リプレイス」をコールし時間内に修正を促す。
2)反則が無いと判断した方の副審に同意し「スタート」をコールする。
このどちらかの判断をします。
今回は両方の副審が手を下ろしたため「スタート」がコールされました。
「逆側から見るとあの肘はしっかり伸びているように見えるのか?」
「いやっ微妙なはずだ」
「一番よく見える主審の判断は?」
そう考え私は白のボタンを押して判定を待ちました。
結果は白3本。
つまり主審の判断も「今の肘の角度はOK」であったという事になります。
そう判断して私もこのグループ全体を通して同じ基準で手を下ろし、反則を取る事もしませんでした。
もし主審がナンバーカード2番の反則を取っていたとすれば、「やっぱそっちから見れば肘が伸びてないように見えるのね」という確証を得る事になるので、以降の同様の見え方をした試技で手を下ろさなかったと思います。
しかしその場合はこの選手だけが肘の反則を一試技見逃された事となるのでグループ全体の公平性を欠く事となります。
このような事の無いように審判に入る前は審判員3人で一言二言でも良いからチェックポイントやそれぞれの判断基準について認識を合わせる事が重要であると思いました。(ほとんどの試合で審判員も手が空いている時はコスチュームチェックや検量など何らかの仕事を重複して行っているので実際には難しいのですが)
また、これも視覚的な問題なのですが上腕二頭筋が丸く大きく発達している選手は、肘を伸ばしている状態でも肘を内側から見ると伸びていないように見える事があります。
特に副審の位置から逆側の肘は二頭筋の隆起が大きければ大きいほど関節の節が曲がって見えます。
またフルギアで上腕の外形が変わるほどのキツいシャツを着ている選手の肘も曲がって見えますので審判も選手も注意が必要だと思います。
次回は2級審判への道!完結編へ
今回はコロナ禍での大会となりましたが、JPA(日本パワーリフティング協会)と徳島県協会をはじめとする運営に関わって下さった皆さま、そして様々な思いを胸に参加して下さった選手の皆さまの御協力で感染対策を講じながら、大会を進める事が出来ました。
いつもとは違った大会運営ではありましたが選手の皆さまはいつもと変わらぬ集中力を発揮し日本記録も沢山出るハイレベルな大会となりました。
今回の8試合目の審判経験をもって次回はいよいよ2級審判員への昇級試験を受ける事となります。
申込書類と所属する大阪パワーリフティング協会理事長からの推薦状をJPA技術員会へ提出し12月13日に予定されていた全日本学生選手権で昇級試験を受ける事となっていたのですが、残念ながら大会が中止となってしまったため昇級試験もまた別の大会で受ける事になりました。
まだまだ感染症の問題でこの冬も多くの大会が影響を受けると思いますのでなかなか予定を立てるのが難しい中ではありますが、なんとか春までに皆様に昇級をご報告できるよう引き続き頑張りますので大会で見かけたら気軽にお声がけください。
文:佐名木宗貴