みなさんいつもご覧いただき有り難うございます。
SBDコラムニストの佐名木宗貴です。
私の記録が正確であればですが、このコラムもついに今回で80回目となりました。我ながらよく話題が続くものだなと感心するところではありますが、いつもご覧いただいている皆さんには本当に感謝しております。またSNSなどでもリアクションをいただきいつも力になっております。こうして文章を書き残すというのはもちろん良いものを書こうと思ってやっているものですが、それと同時に自分自身の考えを人に伝えられるように文章化して整理するという作業でもあると思います。
1998年の5~6月頃から少しずつですがウエイトトレーニングを囓るようになり今年で25年目となります。まだまだ分からないことだらけで学ぶことの多い分野ではあるのですが、その中でも歳を重ねるにつれ少しずつ自分が経験してきたことや感覚的に行っていたことを頭の中で整理し考えを纏め文章化し、こうして皆さんに伝えるということを繰り返すうちに徐々に自分なりのトレーニング論・コンディショニング論を確立することが出来つつあるのではないかと思っております。
まだまだぼんやりとしたものではありますが今後どのように形作られていくのか?自分でも楽しみなところであります。
今後もお付き合いいただければ幸いです。
【筋肉を増やすことと体脂肪を減らすこと】
さてそんな感傷に浸る80回目のコラムですが今月は久々にボディメイク目的のトレーニングを行ってみて感じた「久々だからこそ出来る試み」について書いていこうと思います。それは「筋肉を増やしながら体脂肪も落とす」という一見「そんなん当たり前やん」と思われがちだけど実は難しく奥の深い試みについてです。
「筋肉を増やして脂肪を落とす」
これは恐らくウエイトトレーニングを行う者にとっては誰もが目指すべき理想の結果であり、初心者の頃は誰もがこの両方の結果を求めてトレーニングに励むと思います。
しかしトレーニングをある程度行い、経験と知識が備わってくると、この「筋肉量が増える」ために必要な条件と「体脂肪が減る」ために必要な条件との間に相違があることに気がつきます。
それが摂取カロリーと消費カロリーの関係です。
一般的に筋肉を増やしたいのであれば消費するカロリー以上に摂取するカロリーが多くなくてはならないとされています。
その逆で体脂肪を減らしたいのであれば消費するカロリーが摂取するカロリーよりも多くなくてはならないとされています。
つまり「筋肉を増やしながら体脂肪を減らす」と言うことは摂取カロリーと消費カロリーの関係から考えると真逆の取り組みをすることとなり、この両方を同時に実現するのは実際には不可能なのではないかと考えられるわけです。
しかし様々な研究から近年ではいくつかの条件を満たせばこの筋肉を増やしながら脂肪を落とすことも可能である事が示されるようになりました。
そこで今回はその方法について実際に私が実践した内容も踏まえて考えてみたいと思います。
【筋量を増やしながら同時に体脂肪を落とす事は可能か?】
体脂肪を落としながら筋肉量を増やす試みの事をリコンプと呼びます。これはRecomposition(再構成)の事ですが、まず最初にこの一見矛盾する試みを比較的容易に実現することが可能であると思われる人を4つあげるとしたら以下の人たちが考えられます。
①トレーニング開始間もない初心者
②運動不足で肥満の人
③長期間トレーニングから離れていた人
④ステロイドユーザーなど薬物を使用して筋肥大や体脂肪減を行う人
こんなところです。
皆さんもトレーニングを始めたばかりの初心者の頃は経験したかも知れませんがトレーニング歴の浅い初心者は特に食事の量は変えていないのにもかかわらず筋肉がどんどん増えて逆に体脂肪は減少するという魔法がかかったかのような日々を過ごすことがあります。
私が普段トレーニングを教えている大学生でも高校までにトレーニング経験のなかった新1年生がたった1年で見違えるように大きくなり体脂肪率も減少するというミラクルを見せてくれることが度々あります。
しかしそのミラクルが2年目も3年目も続くのかというとそんなことはさすがになくて魔法は徐々に効力を失います。
ナチュラルであればですが。
また長期間トレーニングから離れていた人にも同様のミラクルが起こることがありますが、これはトレーニングを中断していた期間によって様々でしょう。いわゆるマッスルメモリーの効果もあると思いますが、トレーニング再開後は筋肉が通常よりも速いスピードで元あったサイズまで戻るので摂取カロリーの内容がダイエット用のものであっても筋肉のサイズは増加するという状態だと思います。これも私が日頃指導する大学生でもテスト期間などで10日から2週間ほど完全なオフをとった後にトレーニングを再開すると、開始時から数週間で筋肉量が増加し同時に体脂肪も減少するという短期的なミラクルが起こります。また卒業して数年間トレーニングから離れていた元選手が社会人として競技を再開する際もよく見られます。
運動不足で肥満の人は元々の運動量が少ないので筋肉を大きくするための運動だけでも体脂肪が燃焼し、トレーニングを開始した初期の頃は筋肉量が増加し体脂肪は減少するというミラクルが起きます。
そしてステロイドユーザーの場合は薬物を摂取することでこのようなミラクルを意図的に継続させているということだと思います。
ではこれ以外の人は筋肉を増やしながら体脂肪を落とすことは不可能なのかというと実はそうでは無くて、ある程度の上級者(ベンチプレス150kg・スクワット200kgぐらい)であってもしっかりと摂取カロリーを調節しながら時間をかけてゆっくりダイエットとトレーニングを平行することで、筋肉を増やしながら体脂肪を減少させることが可能である事も研究で明らかになっています。
ではどれぐらいゆっくりであれば可能なのでしょうか?
これも幾つかの研究の結果から指標が示されていて、週あたりの減量ペースが体重の0.7%までであれば体脂肪を減らしながらも筋肉量を増やすことが可能であると言われています。
例えば私は現在87kg程度ですので私の場合だと週あたりの減量ペースが600g程度のペースということになり、月あたりでいうとおおよそ2.5kgぐらいのペースと言えます。
また体重が増えもせず減りもしない程度の総摂取カロリーをメンテナンスカロリーと呼んだりするのですが、このメンテナンスカロリーよりも僅かに500kcalほど少ない総摂取カロリーでダイエットを進めていくならば体脂肪を減らしながらでも筋肉量を増やすことも可能だと言われています。
このメンテナンスカロリーを正確に把握する事がまず第一歩となるわけですが、一応おおよその値を算出する計算式はあるのですが私の経験上この計算された数値と実際の体重の増減とを見ながら暫く観察して実際の基礎代謝量と生活強度に見合ったメンテナンスカロリーを推定する方が良いと思っています。
例えば私の場合ですが、計算上は以下のような数値が算出されます。
まず基礎代謝量を算出する様々な計算式に則ると
年齢43歳、身長168cm体重87kg体脂肪率20%で計算すると
日本人向けに改良されたハリスベネディクト方程式ならば1805.50kcal
また国立スポーツ科学センターの計算式に則れば1983.6kcal
更に国立健康・栄養研究所による計算式で算出すると1695.89kcalでしたので
この3つの数値を足して3で割った1828.33kcalを私の基礎代謝量だと仮定します。
次にこの基礎代謝量に日頃の運動レベルに合わせた数値をかけます。
おおよその目安と数値は以下の通りです。
ほとんど運動をしない × 1.2
週に1〜3回程、軽い運動をする × 1.375
週に3〜5回程、中程度の運動をする × 1.55
週に5〜6回程、激しい運動をする × 1.725
週のほとんど、激しい運動をする × 1.9
ここが一番判断の難しいところで軽いとか激しい運動と言われてもどのぐらいなのか分かりませんよね。
私の場合ですと毎朝やってるウエイトトレーニングを激しい運動とカウントするのなら
1853.125×1.725=3153.86925kcal
とかなり多く出てしまうのでもう1ランク下げてみると
1853.125×1.55=2833.9115kcal
とちょうど良い感じになります。
実際に私が現在摂取しているカロリーと照らし合わせてみると、もちろん食べる物の内容にもよると思いますが恐らくクリーンな食事内容で2850~2950kcalがメンテナンスカロリーとして妥当なところだと思いますのでウエイトトレーニングは週に1時間×6日で仕事は現場に立って教えるのとデスクワークが半々ぐらいの私の場合は基礎代謝量×1.56~1.61ぐらいであると考えられます。
中間ぐらいをとって2900kcalがメンテナンスカロリーだとすると-500kcalの2400kcal程度なら体脂肪を落としながらも筋肉を増やせることになりますが、ちょっと私の体感的には若干少なすぎでダイエットが進みすぎてしまうような気がしますので2900kcalの10%である290kcalずつ不足させる程度の2610kcalでダイエットを続けるようにすると、だいたい週あたり300~400g程度の減量ペースで使用重量も維持若しくは向上できていることから体脂肪を減らしながらも筋肉量を増やすことの出来る範囲なのかなと思っています。
【たんぱく質の摂取量】
ではゆっくりとしたダイエットで摂取カロリーがメンテナンスカロリーの-500kcal以内であれば内容は関係なく筋肥大できるのかと言えばそうでは無くて、次に重要なのはたんぱく質の摂取量ということになります。
これについても複数の研究が行われていて概ね体重あたり2倍以上のたんぱく質を摂取していた場合は体脂肪を減らしながらも筋肉量を増やすことには成功していて、逆に体重の1.2倍や1.0倍以下であった場合は脂肪を落とすことは出来るが筋肉も減ってしまうという結果が出ていました。
こう見ると「なんだよ体重の2倍なんて年がら年中摂ってるよ」と思うトレーニーは多いと思うのですが私個人の見解ではたんぱく質を多く摂り過ぎることもリスクがあると考えていますので不安のある方は体重の2倍ではなく1.6倍程度、もしくは除脂肪体重の2倍程度で良いのではないかと思っています。
例えば私の場合は現在87kgで体脂肪率は20%程度ですので除脂肪体重が69.6kgだと仮定すると69.6×2=139.2g
体重の1.6倍でも87×1.6=139.2gなので適量かと考えています。
もちろんたんぱく質を沢山食べても問題の無い体質の方は2.5倍~3.5倍ぐらいまで増やすことで更なる効果を体感できるかも知れません。
私の場合は昔から腎臓があまり強くないので年齢的にもそろそろ注意した方が良さそうだと思っているためやや消極的に設定しています。
【まとめと私自身が実践した途中経過】
前半で書いたように筋肉を増やしながら体脂肪を落とす試みに成功しやすいパターンの1つにある「長期間トレーニングから離れていた人」に私自身もあてはまるだろうと仮定し
(※パワーリフティングはしていたけどボディメイクからは10年遠ざかっていたためトレーニングの目的や種類が違うので)
今回のダイエットには取り組んでいます。
なんせ10年以上間が空いてしまったのですぐにあの大会に出たいとかこの大会までにとかも無く、あいつに勝ちたいこいつに負けたくないとかも全く無いのですが一つあるとしたら、10年前は「何かを犠牲にしてでも仕上げてやる」と考えていたのに対して今回は「何も犠牲にせずに仕上げてみよう」と考えています。
そのためかなり長期的な視野で目的を設定し取り組んでいるのでダイエットのペースも非常にゆっくりでも全く問題はありませんし、体調を崩したり筋肉を失ったりするぐらいなら一旦立ち止まって立て直した方が良いというわけです。
そんなわけで非常にゆっくりとしたペースでダイエットと筋肉を大きくしようと意識したトレーニングを並行して行った結果、年明けから月に1回測定しているインボディという体組成計での測定結果では今のところ筋肉を微増させながらも体脂肪を落とすことに成功しているのでは無いかと考えられます。
ダイエットのペースもここまで28週間で8.9kgの体重減ですので週あたりの減少幅は平均318gということで科学的にも筋肉を増やしながら体脂肪を落とす頃の出来る範疇です。
総摂取カロリーも最初の8週間だけ2200~2300kcalにしていたためメンテナンスカロリーよりも600~700kcal少なかったことになりますが、そこである程度の減量ペースが掴めたことからそれ以降は2400⇒2500⇒2600kcalと徐々に増やし現在は2600kcalでちょうど良いペースを保っています。
トレーニングの内容は最初から特に変えていませんが出来るだけ時間を短く集中して行うようにしていることと、短い時間の中にボリュームを詰め込もうという意識を持ってやっています。
重量設定は元々臨機応変にやるのが好きなので、少し重めの重量にチャレンジしたい日はチャレンジするしパンパンにしたい日はハイレップスでやるので特にマンネリ感はありません。ただ先月のコラムでも書いたように
2月~3月は朝トレをやっているので時間と施設に制限があるので毎週同じ種目を繰り返してしまいがちです。そのため普段よりもレップスに幅を持たせたり重量と可動域を変えてみたりインターバルを短くしたりして「同じ種目だけど同じ刺激では無い」を心がけて楽しくやっています。
あとは食事内容もマンネリ化するので1月のコラムでも書いたようにサイクルをさせることで停滞回避と飽き防止を心がけています。
今後の展望としては現在行っている朝トレとサイクルダイエット食がかなりハマっていて良い感じなのでペースを崩したくはないのですが、残念ながら4月からは少し生活のリズムが変わってしまうので4月の1週目が終わらないとそこから7月までのスケジュールがなかなか立たないというのが辛いところです。
ただ概ね2022年は筋量を増やしながら体脂肪を落とす事の出来るギリギリのラインを維持して計画的に体脂肪率をあと10%ぐらい下げることを目標にして9月~11月ぐらいに70kg台が見えるところまで来ていたら、そこでようやく「来年度の○月と○月のコンテストに出ようかな」という目標が立てられるレベルになると思います。
つまり最終的な着陸地点は2023年の6月~11月頃なのではないかと思っています。
もちろん最後の最後は死ぬ気でやらないと本当のコンテスト状態にはならないのは当然なので最終的には削る作業も必要ですが、ギリギリまでは普通に生活できる範囲で行けるところまで行きたいものです。
ボディメイクに取り組む目的は人それぞれですしコンテストに向けてお尻に火をつけないと出来ないという人も当然いると思いますが、長期的に計画性を持って取り組める状況であれば是非「筋肉を増やしながら体脂肪を落とす」というミラクルに挑戦してみて下さい。
文:佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 245kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg
戦績
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝
・世界クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1-83kg級 5位
・ジャパンクラシックマスターズパワーリフティング選手権大会83kg級 優勝
・香港国際クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1 83kg級 優勝
・世界クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1 93kg級 6位
ボディビルディング
2000~2001年 関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年 全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年 日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年 関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝
指導歴
・ZIP スポーツクラブ チーフトレーナー
・正智深谷高校ラグビー部 S&Cコーチ
・埼玉工業大学ラグビー部 S&Cコーチ
・正智深谷高校女子バレーボール部 S&Cコーチ
・正智深谷高校男子バレーボール部 S&Cコーチ
・トヨタ自動車ラグビー部 S&Cコーチ
・関西大学体育会 S&Cコーディネーター
資格
・日本トレーニング指導者協会認定 特別上級トレーニング指導者
・NSCA認定 CSCS
・日本パワーリフティング協会公認2級審判員